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「地方消滅」を読んで(読書部)

プロスクール読書部の課題図書2冊目!(実は4月の課題…)

前回は「未来の年表」を読みながら、データをまとめてみました。

 今回は「地方消滅(増田寛也・中公新書)」を選びました。まちづくりに関わった人でなくても、読んだことある方は多いかと思うのですが、恥ずかしながら自分は初めてだったので、新鮮な気持ちで読みました。

 発売当時は地方消滅という言葉のインパクトや消滅可能性都市など、話題になっていたと思います。この本が発売されたのは2014年で、2020年のオリンピック・パラリンピックを一つの目標としている記述もありました。実際は2019年より新型コロナウイルスの影響により、想像していた2020年とは全く違う状況ですが、国の「地方創生」という考えに影響を与えたのが、この本の編者でもある座長の増田氏のレポートで、少子化対策白書や自治体での総合戦略、2015年にさいたま市でも策定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」にも取り入れられています。

そもそも何が書いてあるのか

 話題になったこの本。実際読んでみると、地方消滅というのは、地方のまちが人ごと存在しなくなる、という意味ではもちろんなく、人口減少や少子高齢化の進展に伴い、多くの自治体の単位での運営が継続できなくなるといった話です。もとにしているデータなどは、前回読んだ「未来の年表」と重なる部分も多かったです。すごくざっくりですが、自分は、この本は、東京に人口が集中することを「極点社会」とし、人口が東京に流入することで地方の若手が不在になり衰退、都市部では出生率も低いため、さらに少子化も加速するので、東京一極集中を防ぎ、地方は特色を生かして産業を発展させ、生産年齢人口に選んでもらおう、そして地方や都市部の出生率も増やそう、という考えだと理解しました。そしてそれが多くの自治体の地方創生戦略や総合振興計画などにも影響を与えています。働き方改革やワークライフバランスにも触れ、内容は内閣府の「少子化社会対策白書」にも反映されています。

違和感を感じたこと

 出版されて数年後に読んでいるからかもしれませんが、読んでいて違和感を感じたところがいくつかありました。
「地方消滅」で述べられていた問題点や課題については、納得できるのですが、それに対して提案する方策は、

・東京から住宅を売却して地方の住宅を購入した人へ自治体は優遇措置を
・インフラの不足や介護できる人の不足により、都市部では介護が継続できなくなるので、高齢者の移住を受け入れる自治体は、医療や介護サービスをまちなかに集中させ、住宅を若者に売却した際に優遇し、公共交通を充実させる

といった自治体の負担や財政負担がかなり大きく、小さい自治体ほど難しいのではと思いました。また、教育分野では、

・公教育を充実させ塾に行かなくて済むように

という提案もありましたが、学校に通うということを前提にしなくても、学ぶ機会を得られることが、自立した人材の育成につながるのではないかと思います。コロナ禍では自宅での学習への課題も見られたので、余計そう感じるのかもしれませんが、公教育だけでは厳しいのではないかと思います。
また、個人の感想ですが、自分は勉強や学校教育に何の疑問も持たなかったこどもでしたが、中学生のころに勉強や受験以外にも、もっと地域に出たり、色々な大人の人と話す機会があったら、興味あることや得意なことをもっと伸ばせたのではとも思います。

「未来の年表」と比べてみる

 前回の「未来の年表」を読んだときとの印象の違いを考えてみました。「未来の年表」では一つの自治体ではなく広域で、また国全体で支えていく必要性を説いていると感じましたが、「地方消滅」では、自治体ができる範囲と、もっと広域な地域、国で支える分野が混ざっているように感じました。
 また、住宅政策や教育、介護や社会保障など様々な分野に言及していましたが、全体的に、小学校~高校に通い→大学に進み→就職・結婚・出産→住宅購入→老後、といったライフサイクルを前提にしているように思いました。今のようなライフスタイルの多様性や、教育の機会の需要には応えられていないので、読んでいて違和感を感じてしまったのかもしれません。たとえば、学校が合わない人にも教育の機会を用意する、ライフスタイルに合わせて賃貸住宅を住み替えるといったことも、これからの社会には必要ではないかと思います。

ちなみに

 ちなみに、さいたま市の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の評価は、いまだ人口増加を続けていることや、子育て世代(30代~40代)が多く入ってきていることから、「目標を上回って達成」と「目標をおおむね達成」を合わせた「目標を達成」した項目は50項目となり、割合としては67.6%となりました。

 ただ、少子高齢化が進むこれからの20年・30年後を考えると、楽観視はできません。現在は財政はまだなんとか健全とはいえ、社会保障費の増大やこれからかかる公共施設やインフラの整備、またコロナ禍での経済支援などにより基金も取り崩しており、市の財政は10年前より明らかに悪化しています。出生率が上がっても、子育て支援医療費(中学生以下の医療費を市が負担)にかかる金額は大きく、人口が増えているとはいえ、高齢化率は上がり、社会保障費は増えていきます。自治体の財政状況が改善されないと、今までの支援は継続が難しく、気付いた時には手遅れ、という状況になることも考えられます。

まとめ

 「地方消滅」でのメッセージは、日本全体や自治体の政策に大きな影響を与え、この数年の政策にも反映されてきたことがわかります。ふるさと納税の強化などにも触れていました。コロナ禍で様々な課題が見えてきた今読むことで、この数年間の振り返りにもなりました。成果が出ている分野もあると思いますが、コロナ禍で生活や価値観が変わった人もいたり、通勤や暮らしのスタイル、需要も変わっていく中で、国や自治体の総合計画もアップデートしていく必要があると感じます。


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