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さいたま市を人口動態から考える(読書部)

読書部スタート

都市経営プロフェッショナルスクールのOBOGの有志で読書部がスタートしました。スクールでも散々課題図書とレポートに追われて苦しんだにも関わず、あえてまたそこに飛び込むメンバーで構成された読書部です。
「人口動態」をテーマにして、まずは6月までを活動期間とした2021年6月読書部の一冊目の課題図書は「未来の年表」。この本を読んで自分の市を分析してみました。

課題図書「未来の年表」

今回は、2017年に発売された「未来の年表」を課題図書として、自分の住むさいたま市の現状について考えてみました。この本は、前半部分でこれから起きるであろう未来を、人口動態をもとに年表化しています。人口減少・少子高齢化が深刻な問題であることは日本中が認識していますが、それ自体は現象であり、実際に何が起るのかというところまでは、自分も含めて想像できていなかったかもしれません。本書では、今の若手世代の社会保障費の負担が大きくなることはもちろん、今ある当たり前の医療や介護が継続できなくなる可能性、一次産業が日本を支えられなくなり海外に依存することで危機を迎えることや、結果土地が荒廃していくことなど、連鎖的に起きる未来が描かれています。人口減少と少子高齢化が進行すると、今のままでは、自らの老後や次の世代の生活など身近な問題に直結していることを認識しました。
ただ、著者は人口減少を悲観的にとらえているわけではなく、後半では、その対策として計画的に縮小していくことが必要で、都市機能を集約するコンパクトシティの考えや、地域を超えて日本全体で生活を支えていくことの必要性、地域の状況に合わせて都市と郊外も互いのストックを活用するよう連携していくことの有効性などを示しています。平均寿命も延び、生産年齢人口の幅も広がっていく可能性があり、それを前提とした計画的な縮小をすることで、対応できると結んでいます。

さいたま市の現状について

課題図書でのポイントを踏まえ、自分なりに人口について資料をまとめてみました。人口減少がテーマですが、さいたま市は現在でも人口が増えている都市です。
さいたま市の人口は2018年に130万40人となり、住みたいまちランキング2021でも大宮が4位、浦和が8位と、4年連続で10位以内にランクインし、さいたま新都心も15位でした。(浦和と大宮は4年連続で10位以内)「さいたま市民意識調査」では、さいたま市が住みやすいと思う人の割合は86.3%、10年前の75.9%から上昇していり、住み続けたいと思う人の割合も85.0%でした。

さいたま市は、首都圏のいわゆるベッドタウンとして発展し、2000~2010年頃には都市基盤の整備として、交通面の整備やいわゆるハコモノなどのハード面に力を入れてきました。人口減少が進行するなか人口が増え続ける主な理由は、交通の利便性やそれに伴う住宅供給からだと思われます。

都市基盤の整備について
2001年に埼玉高速鉄道が開通、2008年にはJR川越線西大宮駅が誕生、2012年にJR湘南新宿ラインが浦和駅に停車するようになり、2014年には上野東京ラインが開業し宇都宮線・高崎線と直通運転開始、北陸新幹線が開業。2015年には大宮駅が首都圏広域地方計画では東日本の玄関口として明記され、2017年には都市再生緊急整備地域に指定されました。(さいたま新都心は2003年に指定)

人口の推移について
人口分析については、さいたま市まち・ひと・しごと創生有識者会議(令和2年度)が参考になりました。2021年度に改定するさいたま市の総合振興計画にもこのデータが多く入っています。

人口推移

さいたま市まち・ひと・しごと創生有識者会議(令和2年度)会議資料一覧
https://www.city.saitama.jp/006/008/002/012/004/004/p072092.html

さいたま市への転入が多いタイミングは、年代だと20代が一番多く、次に30代、40代と続きます。
20代の転入は就職などのタイミングで、30・40代は県内市外や東京からの転入が多く、住宅を購入するタイミングと推測され、この10年間で30・40代人口が増えたのは2010年から2014年でした。

年代別転入数

人口異動の状況からみると、市内での異動に次いで埼玉県内と東京都との間での転入・転出が多く、通勤の状況などを考えても都市圏は東京都と埼玉県内とするのが良さそうです。

人口異動2

また、現在は市の人口は増加しているとはいえ、社人研の推計ではさいたま市の人口も2030年から緩やかに下降していきます。

人口推計

内訳としては、
2020年の生産年齢人口は81.3万人、65歳以上人口は31.9万人(うち75歳以上は16.5万人)
2030年の生産年齢人口は80.5万人、65歳以上人口は36万人(うち75歳以上は21.5万人)
2045年の生産年齢人口は70.4万人、65歳以上人口は43.6万人(うち75歳以上は24.9万人)

団塊ジュニア世代が75歳以上になる2045年に生産年齢人口は70.4万人、65歳以上人口は43.6万人(うち75歳以上は24.9万人)、後期高齢化率(75歳以上の割合)は20%となる見込みです。
2045年に一番の稼ぎ手となるのは今の20・30代であり、年代別の人口の構成から、若い世代ほど負担が大きくなることがわかります。そして今の30・40代も40年後には高齢者・後期高齢者になっていきます。

課題図書の「未来の年表」では、高齢者の高齢化を深刻なものとしてとらえ、75歳以上の高齢者にかかる福祉が今のように継続できない未来を描いています。さいたま市も例外なく、2045年には人口も減り、生産年齢人口の割合はさらに減少し、福祉が必要となる75歳以上の後期高齢者が今より10万人も増え、生産年齢人口の5人で一人を支えていたのが、3人以下で支えることになります。

財政状況について
人口を見ていくと、どうしても財政面を考えることになるので、全体を考えるきっかけとして、2008年(平成20年)に自分が入庁したことから、今回は平成20年度と令和元年度を比べてみました。
参考:
令和元年度一般会計決算の概況
https://www.city.saitama.jp/006/007/011/002/p076190_d/fil/gaikyou.pdf
平成24年度一般会計決算の概況
https://www.city.saitama.jp/006/007/011/002/p064338_d/fil/24kessan-gaikyo.pdf

平成20年度(2008年度)と令和元年度(2019年度)を比べると、人口は約11万人増加(120万人→131万人)、高齢化率は6%増加(17%→23%)となります。

財政状況は、
平成20年度決算歳入額が4,257億円(うち自主財源2,894億円)、歳出が3,984億円
令和元年度決算歳入額が5,515億円(うち自主財源3,346億円)、歳出が5,545億円

決算推移H18から

決算推移

性質で見ると義務的経費(公債費・扶助費・人件費)は1,726億円から3,088億円に増加しており、義務的経費比率は43.3%から56.6%に増加している。
扶助費と人件費の増加が主ですが、扶助費はリーマンショックの影響で平成22年度決算時の増加、人件費はH29年の県費負担教職員の給与負担等の道府県から指定都市への移譲による増加が、主な要因だと思われます。

義務的経費H18から

義務的経費

経常的な支出の割合を示す経常収支比率は、平成20年度の88.3%から、令和元年度は98.9%に悪化しています。自分が入庁のころ90%以下だったことは覚えていましたが、この10年でここまで増えていたとは驚きました。

経常収支比率

さらに令和2年度はコロナの影響で、財務調整基金(貯金にあたるもの)の取り崩しがあり、令和元年度末には残高227億円だったのが、令和2年度末残高見込み182億円、令和3年度末には56億円となる見込みです。家計でいうと、コツコツ貯めた貯金を切り崩して凌いでいる状況です。
そしてさいたま市も全国と同様、多くの公共施設は、昭和 40(1965)年代から昭和 50(1975)年代の高度経済成長等を背景に集中的に整備されたものであり、昭和 56(1981)年以前の旧耐震基準に基づく施設が、平成 30(2018)年度末現在で延床面積全体の 46.8%を占めているため、今後の改修費や維持費の縮小も急務となります。

将来にむけて

このように、さいたま市の人口増加の側面だけを見ていると、まだまだ大丈夫な気がしてしまいますが、年齢の内訳や財政状況の内訳を少し見ていくだけで、将来の経営が厳しいことがわかります。
そしてこのままでは、利便性や暮らしやすさから、さいたま市に住みたい、住み続けたいと思っている30代40代の世代に将来大きな負担をかけてしまうことが予想されます。いま何をして何をしないかが、将来の自分自身や家族、次の世代にも大きく影響します。

課題図書の「未来の年表」にもありましたが、生産年齢人口の拡大や、埼玉県内でのストックの共有はさいたま市でも必要になっていくのではないかと考えます。そして交通の利便性を中心とした都市基盤を持っているからこそ、計画的な縮小が必要であり、生活の質を下げないよう、都市機能を集約し歳出を減らすよう徐々にコンパクトなまちにしていくこと、自動車に依存しないまちにしていくことなどを同時に進めていく必要があります。また、スマートシティの推進のなかでAIやICT技術を活用しながらも、いくら便利になっても市の経営が破綻しては利便性どころではないため、財政状況を鑑みながらあくまでツールとして考えてていくことも重要ではないでしょうか。住宅の供給状況についても今回は掘り下げられなかったですが、さいたま市を考えていく上では大きな要素になると思います。

生産年齢人口を拡大していくことや、高齢者の活躍の場についても、自分の地域だけで彼らの活躍の場を提供しきれるのか、また、自治体単位では医療や介護を十分に受けられなくなる可能性があるので、周りの市町村にストックとなっている施設や資源はないかなど、今から検討すべきことは多くあります。東京都から見た野菜を中心とした農作物の生産地であることなど、まだまだ生かせる資源も多くあります。次回以降また考えていきたいです。

都市経営プロフェッショナルスクール

読書部のメンバーも卒業した、都市経営プロフェッショナルスクールについてはこちらです。これからの都市経営を本気で考えたい人たちが全国から集まる、刺激的な場です。私も修了した公民連携過程は2021年6月からの第6期が3月31日まで二次募集中です。ご興味のある方、ぜひご検討ください。


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