映画感想文: Nomadland

Nomadland(ノマドランド)
2020年製作
監督・製作・脚色・編集:Chloé Zhao(クロエ・ジャオ)
主演:Frances Louise McDormand(フランシス・ルイーズ・マクドーマンド)
原作:Jessica Bruder(ジェシカ・ブルーダー)著「ノマド 漂流する高齢労働者たち」(春秋社刊)

ほんとうに、すばらしい映画だった
観賞後の心地(いわゆる”読後感”に相当するあの感覚値)が実によかった

ストーリーもさることながら、映像美も楽曲のセンスも抜群だった

なんといっても、雄大なアメリカ大陸の空の豊かさといったら
刻一刻と彩りがうつろい、それに伴い表情も変貌を遂げる
そのうつくしさに魅せられるだけでも、観るに値する作品だと感じた

 ひとと心を通わせたときの高揚感
 独りとなって湧き上がるわびしさ
 風のように舞い込んでくるあらたなめぐり合わせの予感
 再会の喜びや旅ゆく友からの便りに心躍らせるようす
 思いがけない独白を受けたときの動揺
 目の前の状況と相反する己の感情の高まり…

当然ながら、あらゆる出逢いや経験を通じて、そのたびに主人公にさまざまな感情が生じる
そうした揺らぎは直情的に表現されるものではなくほのかに伝わってくるのだが、それには劇中曲が一役買っているように思う
視覚(映像)と聴覚(楽曲)の二方向からのアプローチにより、心の機微をさりげなく描写しているのだ
その奥ゆかしくしなやかな品性に触れ、隠しようのないセンスにすっかり感服した
こうしたさりげなさにはめっぽう弱い

個人的には、「今日よりも明日」という右肩上がりの気運に乗る青年期ではなく、ある程度オトナになったいまだからこそ強く響く作品のように感じた

いよいよ人生の折り返し地点に到達しようとするこの時分に、”生涯"というものの本質の捉え方について見識を深める好機が訪れたようだ
奇しくもこの視点が備わったのは、後半戦(であってほしい)となる残りの人生を歩むうえで非常に心強い

さて、どんな指標を掲げていこうか?
これからじっくり構想をふくらませていこうと思う

本作を通じて感じたことを踏まえて、わたしなりのことばでしたためてみました
どうぞゆったりとご堪能ください



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めいめいが人生という道をゆく

平坦な道 曲がりくねった道
登り坂に汗を流し、下り坂にほっと息を撫で下ろす
ぬかるむ足場を飛び越えて、行き止まりならば遠回りもいとわない
もし雨が降りしきるのならば、骨を休めるのもよいだろう
ときにあきらめのよさも肝要だ
次第に雲間から陽が差し込んだら、ふたたび一歩踏み出せばいい
歩むことだけはやめないように


ときに、誰かとすれ違うこともあるでしょう
あいさつを交わし、ささやかなやりとりがなされる

他者の存在は、単色の世界に彩りを添える
反発しあい、持ち前の旨みを相殺してしまうことだってあるけれど
混じり合えば、あらたな色が生まれるのだから

まさか、これがかけがえのない糧になるだなんて
渦中にいるときにはわからない
ずっとあとになって、そのことに気づくものだ

各々の道が行き交う交差点、それを一期一会と呼ぶ


経験は糧となり、やがて深く沁み込んでゆく
熟し醸されたのち、豊かな滋味となって欠かすことのできない個性となってあらわれる
内から放たれた輝きは、決して消えることはない


本来、ひとはひとりだ
ひとりで産まれ、生きて、死んでゆく

孤独との闘いのなかで
内面に備わる ”talent(天賦の才)”
すなわち生来の資質に気づくことができたならば
それを存分に活かし、めぐりを生み出していくのがいい
ささいなものも重なり合えば、やがておおきな循環へと還元される
たとえあなたにとっては朝飯前だとしても、誰かを救うことにつながるかもしれない
仮にそうでなかったとしても、少なくとも己のよき相棒となり支えになることだけは違(たが)いない


ときに、懸命に生きる他者の姿を垣間見ることがあるだろう
みなそれぞれが止むを得ない性分や事情を抱えていながらも
誰しもがあたたかな心を持っていることに気づく

ひとりだけれど、決して独りではない
知らず知らずのうちに作用し合い、つかずはなれず連鎖していく

まるで夜空に浮かぶ星座のように
光の粒が結ばれ、連なって描かれる世界
あぁ なんとうつくしいものなのだろう

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