「落第賛歌」
やった。うわ。やってしまった。失敗した。受験に落ちた。どうしよう。またあのいじめっ子たちと同じ教室で授業を受けるのか。嫌だ。イヤだ。いやだ。
母さん、そんな顔で見るな。優しい顔をするな。「大丈夫だよ」なんて言わないでくれ。頭を撫でないでくれ。抱きしめないでくれ。私は泣きたいわけじゃない。
悔し涙、出てくるな。お前が出てくる場面じゃない。頑張っていたことがバレるじゃないか。努力したのに失敗したなんて、ダサいじゃないか。目からあふれるな。頬を伝うな。足元に落ちるな。
笑え。最初から無理だったんだよと笑え。泣いて憐みなんて乞うな。そんな格好の悪いところを晒すな。執着なんて手放してしまえ。
どうやってこの気持ちを受け入れたらいいんだろう。怒ればいいのか?大声を上げればいいのか?あいつらよりレベルの高い学校へ行って見下してやるつもりだったんだ。嫌いな人間だらけの教室へ通わずに済むはずだったんだ。新しい環境で新しい友だちに囲まれる予定だったんだ。全部うまくいくはずだったのに。なのに。なんで失敗したんだ。どうして。どうやって中学生になればいい。どうやって笑えばいい。私はまた登校を拒否するのか?それでいいのか?
あ。今日はピアノの日だった。ピアノは好きだ。笑顔にならなきゃ。先生には大丈夫だよって顔、見せなくちゃ。
「先生。受験落ちちゃった」
明るい声で。笑う。ちょっと口元がひきつったけど、先生は手元を見てるからバレていないだろう。
「そっか」
残念だったね?頑張っていたのにね?大丈夫だよ?なんて言われるんだろう。何も言わないでほしい。服のすそを握る手に力が入る。
「おめでとう」
え、今、なんて?そろっと目線を上げると先生は笑っていた。
「呼ばれてなかったんだよ。あなたはここに来る人じゃないよって言われたんだよ。受験失敗おめでとう!」
それじゃあ、
「公立中学校に呼ばれてるってこと?」
「そうかもね。ほかの学校の子も来るんでしょう?未来の友だちが呼んでいるのかも。先生かもしれない。英語が得意な君に会いたいと思っているのかも。ね、楽しみだね」
気づいたら泣いていた。悔しくて怒って悲しかった気持ちが解けて涙になった。でもそれは悔し涙じゃなくて、もっと優しいものだった。心がすっと落ち着いて、ぐしゃぐしゃな気持ちが流れていくのがわかる。泣きながら笑った。
あれから何度も受験に失敗した。第一志望に合格した試しがない。「受験失敗おめでとう」これは私のスローガンだ。希望の進路に進めなかったとき私の中で先生が笑う。呼ばれた方に進めばいい。そこにはきっと素敵な出会いが待っているから。
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TR: 落第賛歌 / 紙魚著||ラクダイ サンカ
PTBL: 紙魚的日常||シミ テキ ニチジョウ <> 8//a
AL: 紙魚||シミ <@tinystories2202>
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