精神的疲労を連れてくる傑作集
■エドガー・アラン・ポー『ポオ小説全集 3』
「赤死病」が国じゅうを荒らすのも、すでに久しいこととなった。これほど助かるすべもない、おそろしい疫病もこれまでにはないことだった。(P.121)
ポ―ほど面白い物語を書く小説家にはなかなか出会えないのに、なぜ彼の著作はまともにまとめられもせず、この古めかしい状態(半世紀前から更新されていない)でしか手に入らないのだろう?
(追記:新潮社から10年ほど前の新訳が出ていますがレビューが良くないので購入はためらいます)
有名どころの『モルグ街の殺人』や『黒猫』も、たしかに面白い。
けれど、この短編集を読むとそれに匹敵する(個人的にはそれら以上に面白いと思える)出来の短編がいくつもある。4冊ある全集のうちまだ1冊しか読んでいないというのに。
たびたび精神的に読者を追い詰めはするけれど、その代わり、物語に没入させる文章のパワーに凄まじいものがある。夢中になってその世界に入り込んで読めてしまう。小説をフィクションとして認識できる人(精神的に共感しすぎない人)にはぜひ読んでもらいたいなぁ。
冒頭で引用した『赤死病の仮面』は伝染病をテーマにしていて、まさに今この時に教訓めいた話(教訓めいてはいるが面白いし美しい)。ほかには、文章全体が美の哲学に満ちた『庭園』、圧倒的恐怖がリアルに迫りくる『陥穽と振子』、アッサリした筆致が逆に奇怪でジワジワくる『悪魔に首を賭けるな』、想像するだけで息が苦しくなる『早まった埋葬』。どれもこれも面白い。
収録されているうち、『モルグ街の殺人』『マリー・ロジェの謎』は、他社で読んだものと同じだった。
一気に読めることの必要を力説し、読者に及ぼす「効果」にとくに注目して、冒頭の第一行がただちにこの効果に肯綮していないような短編は、すでに第一歩において失敗だというが如き、天性の雑誌編集者のいち早い洞察でなくて何であろうか。(P.387・解説)
ポーは小説家/文筆家/詩人でありながら、有能な編集者でもあった。だからか、彼の書く短編は起承転結がしっかり整い、長すぎず短すぎず、読書を退屈させない。
……とここまでべた褒めしたけれど、もちろん欠点もあって……ずっと読んでいると、疲れます。笑 精神的疲労だけでなく、物理的に文字が小さく、また言葉遣いが古いので読みづらい。
だから新訳を出してほしい。ポ―の面白さがもっと広まることを切に願います。
ポオが、好んで異常偏奇な、きわめて非現実的な設定ばかりを愛用したのは、一面では、「物議をかもす」ことの大好きな、ポオのこけおどし癖の仕業であった。(P.373・解説)
芸術家というものは、一見気まぐれな物や形の配合が、それのみが真の美を構成することを、そう信ずるばかりか実際上ちゃんと心得ているのである。しかし、その理由となると、まだはっきり表現できるほどにはつかめていない。(P.140)
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