「歳月も習慣も、どうやら僕の才能を腐らせる力はなかったらしいね」

■アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの帰還』

久しぶりに読んだホームズ!

ただ純粋に、面白いなぁ、ワクワクするなぁと、胸を躍らせながら読み終えた。ミステリーがどうの、謎解きがどうの……という理屈の入り込む余地はそこになかった。

ホームズとワトスンの再会にはじまり、なぜか一緒に暮らしている風の(妻はどうした?)二人に懐かしみを覚え、毎回起きる事件がひとつひとつほんとうに面白かった。心境の変化なのかわからないけれど、今までのホームズシリーズの中では一番面白く読めた。


マープルの後に読んで、思ったこと。ホームズシリーズの魅力は推理じゃないんだろうなぁ……というと反感を買ってしまうかもしれないけれど、いやもちろん推理も面白いのだけれど、それ以上にホームズの人格や登場する人間の人物描写、冒険譚としてのワクワク感が際立っているように思う。

ミステリーを読むときに、クイーンなんかだと特に「ミステリーを読んでます!」という意識で臨まないと楽しいのかどうかわからなかったりする。私にとってはクリスティの『火曜クラブ』も若干そういうところがあった。

事件が起きたぞ……犯人は誰だ……動機は、殺害方法は……という検証を、やはり自分もしなきゃいかんよなぁ、というか。無意識にやっている。それがミステリーの醍醐味なわけですし。

でも、ホームズを読むときはそういった気合いが必要ない。ミステリー以外の小説を読むときと同じように、純粋に物語として楽しめるから。

気分次第で、どっちもいいな。


ホームズのキャラクターがだんだんとできあがってきて、少しまろやかになってきた感があり、ときめきが止まらなかった。

「僕のいったようなことは不可能だ。有り得ない。従って僕の話にはどこかに誤りがあるのだ。そこに君は気がついた。どこが悪いのだろう?」(P.169)

間違いはこうして素直に認める謙虚さ。

「いやしくも紳士というものは、絶望のどん底に沈んだ貴婦人から助けを求められたら、自分の危険なぞ顧みているべきじゃなかろう?」(P.252)

女性に対する扱いのうまさと、優しさ。

「あらゆる本能がやかましく反対をさけびつづけるんだよ。これはまちがっている。どこかにまちがいがある。ぜったいにまちがいがある」(P.379)

どこまでも自分の直感に素直で真面目なところ。

ホームズほどの魅力的な人って、そうそう見たことない……(二次元?だけど)。以前ポー全集の解説にあったが、コナン・ドイルにとってはワトスンが自分で、ホームズが理想の(架空の)男性だったのかもしれないと。読めば読むほど合点がいく。


しかし、忘れちゃいけないワトスン君!彼がいるからホームズは輝く。

「君は行っても用がないのだよ」
「どうしてそんなことがわかる?何が起こるかしれないじゃないか。いずれにしても決心はできているんだ。自尊心は君の専売じゃないよ。名声だってそうだ」(P.253)

「自尊心は君の専売じゃないよ。名声だってそうだ」

なんて素敵な台詞なんでしょう。



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