「なにもオリエント急行のなかで殺されなくたっていいのに」

■アガサ・クリスティー『オリエント急行殺人事件』(若干ネタバレあり)

「それにしたって、なにもオリエント急行のなかで殺されなくたっていいのに。ほかにいくらでも場所があるでしょうが」(P.118)

『ロング・グッドバイ』『モルグ街の殺人』に続いて、これもオチを知っていて読んだミステリーの一つ。

つくづく思うけど、ミステリーはオチを知らないほうがいい(当たり前か)!でも、オチを知っていながらもラストには少しウルっときた。


「嘘つき問題」というものを作ろうと試みたことがある。

数人の証言を並べて、誰が本当のことを言っていて誰が嘘をついているかを当てる、というよくある論理問題だ。

このストーリーは、読者が「嘘つき問題」的に証言を検証できるようになっている。そういう意図で章が作られているように感じられた。

結末を知らなければ、いっちょ嘘つき探しを試してみようかな、という気になったと思う。本気で試してみたら私は犯人を当てられただろうか?そんな風に思わせてくれたミステリーは初めてだ。

「嘘には嘘の利点がありましてね。嘘をついた者に真実を突きつけてやれば、たいてい、びっくり仰天して、嘘をついていたことを認めるものです。ただし、効果的にやるためには、嘘かどうかをちゃんと見きわめなくては」(P.359)


さすがの名作、楽しかった。

時には悩んで行き詰まった上で解けてこそ「謎解き」(ゲーム的な意味での)には快感がある。

しかしアガサの小説は、楽しく、ストレスのない謎解きをしている気分で読める。

私の思考回路ではそういう謎が作れない。大切なことだと常々思っている。


それにしても、こんなスピード感で読書に溺れたことはない。30代になって新たなジャンルに目覚めるとは予想できなかった。人生、いろんなことがあるもんだな……。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?