クリスマス=家族の集い

■アガサ・クリスティー『ポアロのクリスマス』

「きみ、人間は誰でも嘘をつくものですよ―イギリスでいう”牧師の卵”のように、いろんな種類の嘘をね。だから、重大な嘘から無害な嘘をえり分けることは、有益ですよ」(P.250)


クリスマスということで読んでみたポアロシリーズの一冊。冒頭で著者がわざわざことわっているように、”血にまみれた兇暴な殺人事件”を題材にしている。

クリスマス、と聞いて多くの日本人がイメージするハッピーなムードとは無縁のこの状況はしかし、本場(欧米?)のクリスマスには最重要かもしれない「家族の集い」がテーマ。

私はきょうだいが多いので、このストーリーと登場人物を興味深く楽しめた。自分のきょうだいも様々だし、その配偶者もさまざまだ。似ている人をパートナーに選ぶこともあれば、補う存在を選ぶこともある。後者が多いかもしれない。

犯人にはわりと早い段階で「お?」と思ったのだけど、何故かは忘れてしまった。


だいぶポアロシリーズに慣れてきたので肩の力を抜いて楽しめるようになった。今回はポアロ「らしさ」が少し薄かったかな……という印象です。

意識して読んでみると、クリスティーの小説にはほんとうに情景描写が少ない。チャンドラーのように描写が多い小説と比較してみると、読みやすい。何度も言うのですが決して良い悪いではなく。一定以上のクオリティーを量産するアガサ・クリスティーに敬意を払う。

「自分を実際以上に、やさしい、寛容な、気高い人間のように見せかけることは、その反動として、早晩その人間をして実際よりももっと感じの悪い、残忍な、不愉快な人間のように振るまわしめることになるものです。ねえ、そうでしょう。自然の流れをせきとめれば、おそかれ早かれダムは決潰し、大洪水になるのは当然ですからね!」 (P.141)

王道の『オリエント急行の殺人』(残念ながらオチを知っている)と『そして誰もいなくなった』も読みたいな。


「ネタバレ」を極度に嫌う文化も肌で感じられるようになってきた。

もともと何に関してもネタバレは嫌いな方なので、謎解きでもヒントはかなり弱く出したい/出されたいタイプなのですが、感じ方って人それぞれなんだろうと最近思う。ミステリーと謎解きは別物かもしれないけど、個人的には、ギリギリすぎるヒントやネタバレは残念。でも感じ方はさまざまだものね。難しい。


旅行のために本を用意した。

レイモンド・チャンドラー『さよなら、愛しい人』
→比較するためにも読んでみたかった。

エドガー・アラン・ポー『ポ―名作集』(中公文庫)
→江戸川乱歩が好きなのでポーを知りたかったのと、『モルグ街の殺人』『黄金虫』が読んでみたかったから(短編集がたくさんあってどれを買えばいいか迷った)。冒頭を読んでみると、これまた少し違う毛色で面白そう!

池澤夏樹『夏の朝の成層圏』
→常夏の島なのでさすがに爽やかな本も一冊ぐらい入れておこうと思い。
(追記:期日までに届かなかったので急遽『そして誰もいなくなった』を購入)

他、エラリー・クイーン『Xの悲劇』など迷ったのですが、経験上旅先で3冊以上を読むことは確実にないので、買いませんでした。帰ってきたら読もう。読みたい本がたくさんあるって幸せなこと。


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