ピリッと利かせたワンアイデア

■アガサ・クリスティー『ポアロ登場』


長編で読むポアロはどこか根無し草的というか、家庭もなければ住まいもハッキリせず、ヘイスティングズ以外に友達がいるのかな……という感じですが、この短編集は違った。長編とは違うポアロが見れる。と、いうか、ほぼ別人と言ってもいいかもしれない。笑

翻訳者のさじ加減なのか、口調がいつもの気取ったベルギー人風ではなくて「〜だぜ」って感じで。誰だお前は!ホームズじゃん!です。笑


その点は残念なのですが、短編も面白い。

一番好きだったのは『安アパート事件』。いいマンションがなぜか安く借りれてしった……という話を知人から聞き、ポアロに報告したヘイスティングズ。読んでいてもさっぱり意味がわからなかったのですが、答えを知ると「なるほど」と思いました。

『謎の遺言書』も。トリック自体は今となっては新鮮味があまりない(……デュパンの『盗まれた手紙』がミステリーで一番くらいに好きな話なので)……ですが、結末がいいです。ポアロとヘイスティングズの価値観の違いがね。私は俄然ポアロ派。笑


短編が長編と違うのは、まず殺人事件が少ないこと(ノリはホームズに似ている)。また、短いので複雑な推理にできず、登場人物も増やせないので、ワンアイデアをピリっときかせた作品になること。

最近、謎解き部(という謎解き団体…?笑)では「ミニ謎」という言葉が定着している。ワンアイデア、ワンステップで解けるボリュームの小さな謎のこと。多くは「閃き系」(という言葉が一般的なのかわからないのですが)の謎で、ピンときて仕組みがわかれば解ける。世間一般の謎解きもこのタイプが多いようです。

では「ミニ謎」ではないのはどういう謎か……というと、一つの解き方を見つけてもまだ鍵が足りないとか、段階を踏まないと解けないような謎かなぁ。ある程度作業量が多かったり、頭を使うように作られていて、時間がかかることが多い。


短編と長編の違いって、この二つの違いに似てるなと思います。製作者のプロット作りの考え方もたぶんそうだし、解く側の気分も。「ミニ謎」は気合いを入れずにつまみ食い的に解けて、短編に似ている。「ミニじゃない謎」はある程度正面から対峙する感覚があって、長編っぽい。

私は「ミニじゃない謎」が好きです。小説に関しては短編も長編もどちらも好きだけど、どちらかといえば長編が好き。深く潜る分、心に刻まれる傷(悪い意味ではなく)も深いように思うので。

そして、アガサ・クリスティの魅力はやっぱり長編だと思った。逆に短編でもこれくらい書けるんだ……器用だなぁ。と感心もするけど、彼女の魅力はなんといっても長編です。そこは断言しちゃう!あんなに多くの人間を矛盾なく動かして、心理描写を絡めながら謎を構成するのは難しい。それが破綻していないだけでなく面白いんだから。

また、ポアロの推理の「らしさ」も圧倒的に長編で生きている。短編ではあまり心理を読まないのです(心理を読むほど深入りしないから)。

と言いつつ、マープルの『火曜クラブ』はすごく気になっているのでいずれ読みたいです。今はまだポアロを読みたいのですが、そのうち読むものが減ってきたらマープルも読むかも……。


仕事がひと段落して……したように見せかけてまだしばらく落ち着かない。仕事の本も読まなきゃいけないのに、友達に「読んで感想を聞かせて」と(なぜなんだ)、普段読まないビジネス本ぽいのを引き受けてしまったのが、ずっと置いてあって……読まなきゃ……笑


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