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Think small.|小さな紙に小さな絵を描く

Think small.
小さく考えよう。


というのを目下実践中である。なんとなく思いついた言葉だが、検索してみるとフォルクスワーゲン社「ビートル」のキャッチコピーだったようで、耳にしたことがあるのかもしれない(しかし今回の話はビートルのキャッチコピーと全く関係がない)。


まず、小さく考える。そこから思考をスタートさせている。

具体的には「小さな紙に小さな絵を描く」ようにしている。



以前、会社に新しい設計の以来がきて、みんなで案を出し合ったことがある。そこで会社のボス(この呼び方は業界特有かもしれない。肩書的には代表取締役となるけれど)が最後に出した案を、よく覚えている。

紙の端っこに小さく描かれた絵がそれだった。平面図と呼ぶにも至らない。長方形が2つ並んでいる、ただそれだけの図だ。隣に、ものすごく小さな断面図も描かれていた。他のメンバーと比べて情報量が極端に少なかった。しかし説明を受けると「やりたいこと」が明確だったし、聞いている側としても理解しやすかった。

・・・

著名な建築家が紙の端っこに描くスケッチは、若干の揶揄も込めて「巨匠スケッチ」と呼ばれる。

ミミズが這うかのような線で描かれた小さな絵。巨匠にのみ許され、巨匠だからこそ価値が出る。いうなれば直筆サインのようなもの──と憧れ半分、やっかみ半分で、かつての自分は眺めていた。

しかしその時はじめて私は、「巨匠スケッチ」の価値を理解したのだった。

レシートの裏やノートの端のような小さなスペースにアイデアを描こうとする時に、必然的に、描き込める情報は減る。つまりディテールが消失する。言い換えれば、ディテールなど気にせず大きな関係性のみを考えることができる。

その絵は、設計の本質を浮かび上がらせ、語りかけているようですらあった。



私の使っている
"Think small."
「小さく考えよう」

「小さな場所について考えよう」
ではない。
むしろ逆で、
小さな紙に小さな絵を描き、大きなことを考えよう
という意味だ。

ディテールを描かない(描けない)ような小さな絵を、まず描くようにする。それでこそ自分のやりたいことが明確になるし、物事の問題点や本質を捉えやすくなる。

いきなり大きな紙に大きな絵を描いてしまうと、その絵を絵として成立させるためのディテールを考えたくなる。すると次第にディテールを描くことに夢中になってしまい、やりたかったこと・やるべきことを見失いがちだ。

・・・

だから最近、測量野帳を以前にも増して愛用している。もともと打合せなどのメモ用に使っていたが、今はスケッチも描く。

見開きで横18cm・縦16cmという狭いサイズ。片面だと幅9cmしかない。本当に大したことが描けない。この狭さに救われている。ここに小さく描いてみて、なんとなくつかめたら、大きな紙を用意してより深く考えていく……というプロセスを最近はとっている。

私はやや多動気味というか脳が過活動になりやすいので、これくらいの縛りがちょうど良いと感じる。適切なサイズ感は人それぞれなのだろう。

(以前noteで紹介したような無限キャンパスアプリはその対極にあるので、最近は使う頻度が減ってしまった。)

もう一つ良い点がある。18cm×16cmという小さな画面は両目で容易に捉えることができるから、頭に図形が残りやすい。骨幹のイメージを見失わない。物理的にもノートとして残り、レシートの裏よりは良いかなと思う。




ちなみに──芸術とデザインの違いの一つは「問題を解決すべきか否か」にあるのではないか。と私は考えている。芸術作品は問題を解決することが求められていないが、デザインにおいては必ず問題解決が求められる。

私が芸術よりもデザインを(自分の営みとして)好むのは、問題を解決する過程が好きだからだ。建築の設計では特に、解決すべき問題がものすごく複雑に絡み合っていることが多い。疲弊しつつも、なんだかんだそれが楽しい。

そこで、どんなに複雑な問題も、まずは野帳に描くようにしている。デザインだけでなく法規でもコストでもスケジュールでも、同じようにやっている。

けっこう頭がスッキリするし、効率が上がるような気もしていて、業種を問わずおすすめです。



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