「人間的な愛情の裏打ちのない知能や教育なんてなんの値打ちもない」

■ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』

「でも僕は知ったんです、あなたがたが見逃しているものを。人間的な愛情の裏打ちのない知能や教育なんてなんの値打ちもないってことをです」

三度目か、四度目ぐらいかの再読(三回読む、というのが気に入った本のバロメーターになってきました)。なんだか無性にわーっと泣いてみたくて読んだ。1ページ目から泣きそうだった。途中は違ったけれど、最後はまた、いつぶりかというぐらいにボロ泣きした。


IQ70、知的障害をもつ32歳の男性が、手術を受けてIQ185の天才になってしまう。ただそれだけの、単純なストーリーだ(ジャンルとしてはSF)。

知能、知識、知性……「知」を身につけることは人を幸せにするのだろうか?

そんな問を投げかけられ続ける中盤は、読むのが苦しくてたまらない。天才になった主人公チャーリイ・ゴードンは、限りない知的好奇心に忠実なあまり、人への思いやりや愛情を失ってしまう。その様子が、まるで自分への警告のように映る。辛くて逃げ出したくなるほどだった。

知識があってもできないことはある。友達をつくること。人を愛すること。誰かのために胸を痛め、誰かを喜ばせるために努力すること……。古今東西数多の本を読んだところで、心理学の知識をいくらつけたところで、その方法論が心のなかの愛情を深めるわけではない。

IQ70だった頃の彼は、人を疑うことを知らず、自分が笑われてもそれが人を喜ばせているのだと嬉しくて一緒に笑い、人に好かれるために「かしこく」なりたいと前向きに思っていた。一生懸命に勉強し、一日も仕事を休まなかった。

知に溺れてはならない。自分だけを見つめてはならない。アルジャーノンとチャーリイ・ゴードンの数ヶ月から学び、戒めのように胸に刻もうと思った。


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