カウントダウン・サスペンス

■ウィリアム・アイリッシュ『幻の女』

「自分の命がかかっているというのに、きみが持ち出すのは、ふたつの名詞と、ひとつの修飾語だけだ。“女”、“帽子”、“風変わりな”」(P.119)

今まできちんと区別もできず使っていた「ミステリー」と「サスペンス」、というジャンルを初めて意識したように思う。

この作品はよくできた「ミステリー」であると同時に、よくできた「サスペンス」でもある、と思った。刻一刻と迫りくるタイムリミット、忍び寄る足音……そういうハラハラを味わった。


うーん、これまた数を読んでいないからうまく説明できないんですが……サスペンス的なミステリーって、謎解きというよりは、追い詰められる恐怖や悲哀感に醍醐味がある気がします。随分前に読んだのであまり覚えてないのだけど、たとえば『白夜行』(東野圭吾)はこの感覚に近かった気がする。

探偵ものとはかなりテンションが違うのだなぁ、と思う。探偵ものでは「死」が比較的軽視されている。「死んでる…!」で終わり、それ以上深堀りしないというか。「いやいや、死ぬってとても大きな出来事なんだよ……」って突っ込みたいときがあります。笑

一見すると逆のようなのだけど(サスペンスの方が比較的人がたくさん死ぬから、死が軽視されているように感じがち)、死の「数」の問題ではなく、死が「生命の終わり」として劇的に扱われているかを考えると、私は上記のような意見です。


本筋には関係ないですが、電気椅子といえば思い出すのが『グリーン・マイル』。あれを観たら絶対にアメリカで死刑にはなりたくない……。

後半、主人公の心情に感情移入しすぎて、ちょっと苦しくなっちゃいました。

恐怖心は勇気の対局にあるが、頑強さでは劣らないこともあるのだ。(P.291)


あと、新訳がとても読みやすい!日本語の小説と変わらないぐらいスムーズに読めます。海外の古典ミステリーがしっくりこない人も、きっと面白く読めるはず。

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