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引用は手で集めたい

私は、読んだ本の中で気に入ったフレーズ(引用)をひたすら集めています。

これは趣味のようなものかもしれません。noteに記事を書くときに挿入あるいはタイトルに使用することもあるけれど、それ以外にも、かなり大量の引用をストックしています。

たとえばこんなふうに。

僕はとうとう芸術とはほんとうに何のためのものかということが、少くともある意味で理解できたのだ。芸術とは人ひとりに喜びを与えるものだ。それに心酔するあまり幸福になったり、憂うつになったりするような、そんな力のあるものを人間はほんとうに作ることができるのだ!
(リチャード・ファインマン『ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉』)
自分と堀木。形は、ふたり似ていました。そっくりの人間のような気がする事もありました。もちろんそれは、安い酒をあちこち飲み歩いている時だけの事でしたが、とにかく、ふたり顔を合せると、みるみる同じ形の同じ毛並の犬に変り降雪のちまたを駈けめぐるという具合いになるのでした。
(太宰治『人間失格』)

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最近使っているのはnotionというツールの「データベース」機能です。

ストックしたいフレーズにはとりあえず付箋を貼っておき、読み終わったらまとめて写真を撮ります。それをMacまたはiPadに読み込んで、notionと並べて表示し、手入力します。

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記録する情報は「フレーズ」「全文(長い場合)」「ページ」「タイトル」「著者」「出版社」「ジャンル」「読了日」「LIKE(特に気に入ったものにつける)」です。

わざわざタイピングするのはけっこう面倒といえば面倒なのですが、私はあえてタイピングを選択しています。

以前、「一太郎Pad」というアプリを使用してみたことがあります。このアプリはOCR(文字の自動認識)機能がとても優れているので、ほとんど一字一句間違いなく写真から文字に起こしてくれます。これを使えば、改行を修正するだけで、すぐにnotionにコピペすることができました。

しかし、しばらく使って、やめました。

理由は、私はタイピングを通してその文章をなぞっているのだ。そこに意味があるし、その行為自体が好きなのだ。ということに気づいたからです。

例えば英語の勉強をしている時に、文章を読むだけとか会話を聞くだけといった勉強はまずしません。だいたい、文章を自分で書いたり、会話を自分で再現したりします。おそらく、受動的な行為時の脳の動きと、能動的な行為時の脳の動きは別なのだと思います(詳しくは知りませんが)。

同じように、私は、良い文章に出会ったときに、それを手で再現したいのです。

そうすることで本当の意味でその文章を自分がなぞることができ、身体に染み込むような気がするのです。


スポーツでも、上手い人を見ているだけでスキルが上達することはまずありません。楽器でも、仕事でも、なんでもそうだと思います。

私が本をたくさん読む理由は、ただ単に好きなだけではないのかもしれない。どこかで「文章力を上げたい」という気持ちもあるようです。

だからこそ、良い文章に触れたときにただ「わーっすごーい!」で終わりたくない。線を引いて終了にしたくない。

noteに感想を書くことで感覚を定着させるというのも一つの手ですが、そういう全体的な感覚ではなく、もっと個別の──英語でいえば発音練習、野球でいえばバッティングやピッチング、ピアノでいえば音階の練習のような──身体感覚を鍛えたい。そういう意味で「文章を書き写す(タイピングする)」ことが私には必要な営みだと感じています。

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技術的な話をすると、以前はブクログというサービスのフレーズ機能を使っていましたが、検索しづらい(自分の過去に残した引用を探しづらい)のでやめました。

notionのデータベースはスマホで使いづらいのが難点です。でもそれさえ許容できれば、検索性に優れていて、便利です。例えば「愛」「幸福」「宇宙」「探偵」などと、任意のワードを入力して引用文を検索することができます。(考察する際に、関係する本のフレーズを探したりします。)

私は、本ごとに1ページをつくるのではなく、1フレーズに(データベース内の)1ページという使い方です。これは実際に使ったことがないと理解しづらいと思いますが……理由は、上の写真のようにとにかく羅列で俯瞰したいからです。

ちょっと脱線します。仕事をしていてよく感じるのは、「羅列型」の脳の人と「階層型」の脳の人がいるということです。

私は前者です。記憶力が極端に悪いせいか、階層を深くつくると、どの階層に探しているものがあるのか忘れてイライラするのです。笑 一方で、大量の情報を瞬時に見ることと、その中で該当するモノを探すことな比較的得意です。というより、その状態にストレスを感じません。見つからなければ検索で見つかるように、タイトルのつけ方なりシステムをあらかじめ用意しておくことも比較的得意なのです。「羅列&検索」派です。

でも「階層&記憶」スタイルの人もいます。こういう人は、大量に情報が並んでいる状態に逆にイライラするのではと思います。これは完全に「タイプ」の違いだと感じます。

……というわけで、「階層型」の方は1冊1ページにして、その中に引用を並べるという運用もオススメです。

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