「迷宮入り事件」

■アガサ・クリスティー『火曜クラブ』

「迷宮入り事件」
 レイモンド・ウェストは満足そうに一座を見まわした。

初めてのマープルシリーズ。原題は”The Thirteen Problems”、訳すなら『十三の事件』といったところかな。原題もかっこいいのですが『火曜クラブ』という邦訳もなかなかイカすなと思う。

ミス・マープルはポアロにひけをとらない人気らしい。いわゆる「安楽椅子探偵」で、小さな田舎町に住む普通の老女だが、人間を観察する眼に非常に優れていて、ぴたりと事件の真相を言い当ててしまう。そこに共感するのだろう。ポアロはどちらかというと偉そうなキャラだから。

一冊読んだだけでこんなことを言うのは恐縮だけど、私は今のところポアロのキャラのほうが好きで(思い入れが強いせいもある)、より親近感を抱いている。作中で何回かポアロが失敗している姿を見ているからかもしれない。百発百中のキャラはまだうまくイメージできない。

しかし、この『火曜クラブ』の構成はよかった。前半の会で6人が語り、後半の会で6人が語る。後半のほうがより面白かった。そして最後の『溺死』にいたっては、回想ではなくリアルタイムの事件。短編集といっても一冊の長編のような流れがある。


個人的に最も好きだったのが「四人の容疑者」。

こうして短編で比較するとなんとなく自分の好みがわかってくる。私は「手紙モノ」が好きなんだなぁと思った。ミステリーにそういうジャンルがあるのかわからないけれど。笑

遺言書も含めて「手紙」を扱う──よりザックリ言うと「紙」が重要な役割を果たすストーリー、に惹かれる。

その意味で「動機対機会」も、遺言書モノとして好きだった。紙モノとしてだけでなく、そのタイトルが表すように「動機はあるけれど機会がない人」と「機会はあるけれど動機がない人」という矛盾を解決する、というシンプルな謎解き感が好き。


こうして書いているとさらにわかってくる。きっと私は、比較的ドライにミステリーを読んでいるのだろう、と。事件にまとわりつく人間ドラマ云々よりも、仕掛けや種明かしの骨格で記憶している。例えば『ABC殺人事件』のように。もしくは、全体の構成が理知的と感じた時にも記憶しやすい。『五匹の子豚』のように。

お前が記憶しやすいかどうかなんて知らんわ!という感じですけど笑、とっても記憶力が悪いので、最終的にエッセンスとしてどこを覚えているか……て、私にとっては大事なことで。

頭の中でタイトルを思い浮かべたときに、一冊の本が分割されたグラフのようなイメージが浮かぶのです。例えば『ナイルに死す』だと、前半4割、後半6割、みたいな構成の図が(うーん、なんか普通じゃないような気がしてきた)。

だから『スタイルズ荘の怪事件』のような構成は、個人的には難易度が高い。覚えられない、というのかなぁ……気を抜くとイメージが頭から消えてしまう、というか。

そういう意味で、(今日読み終わったばかりなんだけど)『火曜クラブ』の6+6+1=13という構成もイメージを固定しやすくて好きなのです。内容の面白さという軸は、それとは別にあるんですけどね。たぶん。

そういえば「13」が忌み嫌われる理由って、諸説あるようですが、一つの説は「最後の晩餐」の人数なんですね。知らなかった。『三幕の殺人』でたしか、出席者が13人にならないように人数を調整する場面があったような……。知っていると面白い古事って多いんだろうなぁ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?