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おととい、買い物に行こうと思って玄関を出たら、自転車の横にひっくり返ったビニール傘があった。

風が強い日だったので、どこかの家から飛んできたんだろう。このままおいていれば分かるかな?と思ったけど、目の前は道路なので、風でまた飛ばされたら危ないと思い、外に飛ばされないように庭に移動して干すことにした。

庭に干してたら、まるでうちの傘みたい。

なんだか勝手に拾って自分のものにしたみたいで、心がチクリと痛む。でも自分がいない間に道路に飛んでいったら危ないし。仕方ない。

翌日、乾いた傘をたたんで、玄関脇においておいた。飛ばされた人が、探しにきて、気付いてくれるかもしれない。

その日は何もなく、さらに翌日、午後にウッドデッキで洗濯物を取り込んでいると、

「この傘…」と声をかけられた。

近所に住む、顔見知りの女性。

「あ、それ飛ばされてて、気付いてくれるかなと思って。よかった~~!」と、私はホッとした。思いがけず、自宅の敷地に転がりこんできた誰かのものが、ずっとあるというのは、半分盗んでしまったみたいで居心地が悪かったから。

よかった、持ち主のもとに帰ることができたね。

こんなふうに、自宅の敷地にふらりとやってくる迷子はほんとに困る。

6年前に戸建てに引っ越してから、こういうことが何度かあって、風の強い日はちょっとそわそわする。自分のものがなくなってないか、自分のものじゃないものが落ちていないか、確認するくせがついた。

・・・・・・

そういえば、ずっとずっと昔、夫と同棲を始めたばかりの頃。こんなふうに風で飛ばされたものを、とりにきた人がいた。

その頃住んでいたのは、マンションの2階。ピンポンとチャイムが鳴って出てみると、インド系の人がたっていて「洗濯物が飛ばされて下まで落ちたので、ベランダに出て、とらせてほしい」と言われた。

余談だが、当時、家があった場所はインド系の人が多く住む地区だった。おいしいインド料理屋がたくさんあったのを思い出す。

私は一瞬考えた。

「落とし物の話が嘘だったら…。家に入ったとたん、縛られたり脅されたらどうしよう…!」

その時、夫は会社で家には私1人だけ。

ほんの数秒悩んで、「どうぞ」とOKした。何かあったら大声をだそう。

その人はサッと部屋を横切り、窓を開け、ベランダに出て、さらにベランダを超えて、落下防止のフェンスの上に落ちていたTシャツをサッととって戻り、「ありがとうございました!」とさわやかに言って去っていった。

素早い身のこなしで、ボーッと見ていることしかできなかった。1分もなかったかもしれない。

なんだ、疑って悪かった。そうか、Tシャツね…。

夜になって帰宅した夫にこのことを話すと、「あー、たまにあるんだよね」とのことだった。へぇ、あるんだ、たまにね…。

・・・・・・・・

自宅にフラリとやってくる誰かの飛ばされた落とし物。

落とした当人は困っているだろうけど、なんだかほっこりする。

「ちょっと、とらせてもらっていいですか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます」

なんてことを言い合える、穏やかな関係がうれしい。




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