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森林火災とコアラが伝えた変革の必要性

高額な維持費を理由に大阪を去ったコアラ

 1989年からはじまった天王寺動物園のコアラの展示は、飼育維持費が高額という理由で2019年10月10日に幕を閉じました。そこから半年もしないうちに世界はオーストラリアの森林火災によって数万ものコアラが命を落とすという衝撃が走ったのです。生息域であるオーストラリアは、インフラが整った大都市や高度な動物医療が提要できる国力も用い合わせた野生動物の王国です。そのような国ですらこれほどのダメージを受けたことは大きな衝撃でした。

天王寺動物園は屋内飼育の技術を確立するなど、コアラの飼育技術に長けている動物園でもありました。そのような動物園が繁殖契約のもとイギリスの動物園へとコアラを引き渡すことなりました。しかしユーカリしか食べないなど、飼育条件はイギリスに行っても変わりません。つまり高額な飼育維持はどの国に行っても変わらないにも関わらず今回の譲渡に至りました。前回記事時代に対応したアプローチで自然保護団体の基盤なき活動の未来を記述しました。この構造は動物園の経営構造にもあてはまります。

 今回のコアラを巡る時系列は、先進国が経済的な要因で希少動物の飼育から撤退することの危険性を明確に示しました。希少動物がそれぞれの生息国で絶滅の危機に瀕したとき、最後の砦となりうるため先進国も含めた世界が一丸となって彼らの保護を強く意識しなくてはなりません。

社会的役割を果たす動物園のための収益確保

 大阪府が公表している平成30年に実施された天王寺動物園の監査結果によると、平成29年の天王寺動物園の歳入は6億8.156万円に対し、支出は10億8,516万円となっています。公表された過去4年間の推移は以下の通りです。

単純計算しても監査前の4年間で常に支出が歳入を上回る状態です。この期間中、天王寺動物園の大幅な改修などは行われておらず、最低限の維持をおこなうための支出を賄う歳入も得ることが出来ていないことがわかります。
 自然保護団体との違いは、動物園が今日の世界情勢において求められる社会的役割の大きさです。飼育されている多くの動物が世界で絶滅の危機に瀕する希少な動物たちです。これまで博物館的な施設として動物園の歴史ははじまり、今後はその貴重な動物たちを保護し、実情を社会へと普及する教育的機関としての役割を果たさなければならないのです。

 経営が難しいのであれば、動物園は閉鎖して自然で保護・繁殖させればいいとなるかもしれません。しかし現代のグローバル社会では自然だけでの保護・個体数の回復は見込めません。それは経済活動との関りなど、動物・自然とは異なるいろいろな要素からなる複合的な問題が影響を及ぼすからです。いつか無くなることが望ましいのですが、事実上叶わない以上、きたる日までは動物園という場で、動物の実情を発信し、DNAを保全する必要性があるのです。施設をもち、実際に生命を扱う自然保護団体といっても過言ではありません。
 生命を扱う以上、自然保護団体とは異なりその生命に対しての責任は重大です。動物園がその役割を維持するために動物園もまた自然保護団体のように、人間社会で機能を維持するために必要な基盤を自ら確保する形態を探っていかなければならないのです。
 ではどのように変革するべきなのか…次回の記事から、動物園の抱える問題点と改善するための例を記していきます。

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