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感想文、A3! / ゲーム編

高校生の頃、演劇部だった。
この話はあまり人にしたことがない。大学生になって「演劇部はオタク」って言われたことがあって、そんなつもりで入部してなかったからびっくりして恥ずかしくなった。それからずっと「ほぼ帰宅部」で通してきたし、どうしても言わないといけない時は「先輩たちの顔が可愛くて入部した」と人には言っていた。これは本当の理由だ。でも実はもう一つ理由がある。私は演劇に憧れていた。

小学生の頃、学校の体育館で年に1回行われる演劇鑑賞。
クラスのみんなは面倒そうにしていたけど、実は私はそれが大好きだった。
鮮明に今でも覚えている、体育館の真ん中に作られた小さな正方形の舞台。小学生の兄妹の話。小学男子は、どう見ても大人が演じていた。奇妙だった。それは体が大きいのに中身は子供で、まるで逆コナンくんみたいだったからだ。
その奇妙なおとなこどもが突然マウンテンバイクで平均台を渡る芸をし始めた。喋り方も駄々をこねる様子もずっと小学生なのに、どう見ても小学生じゃない自転車の乗りこなしをしていた。そこだけ虚構とリアルが入り乱れて、時空が歪んでいた。そのちぐはぐさと、静かな体育館に響き渡る自転車のタイヤの音を今でも鮮明に思い出せる。体が熱くなって、単純に、めちゃくちゃかっけーしおもしれーって思った。それが自分が舞台芸術に初めて触れて興味を持った瞬間だった。
それからどんどん興味の幅が広がって色々と鑑賞するようになるが、自分の興味は徐々に海外の舞台に向いていく。国内の演劇からはどんどん遠のいていった。

高校の演劇部に入部するも、そのギャップに苦しむことになる。自分の思っている舞台芸術と高校演劇は当たり前だけど規模も予算も考え方もなにもかも大きく異なっていた。
部活としても弱小だったので大会では賞なんてもらえるわけがなかったし、部内恋愛で揉めたり、人間関係の問題のが浮き彫りになった。
そんな中でも音響や大道具として、舞台上に別の空間を作ることや、音響としての演出はすごく面白い。裏方の仕事は夢中になれた。
高校を卒業してからも、なんだかんだで劇団に入ろうと試みた。しかし肌に合わず3ヶ月で辞めてしまった。

そんなのはもう10年も前の話だ。
時間と共に、演劇には興味はあってもたくさんある趣味の中の一つになり、私は他のことで満たされていた。演劇への未練が心のどこかに残っていたとしても、忘れてしまっていた。

数年前、友達に「A3!」というゲームを勧められた。
これはいわゆる女性向けのイケメン育成のアプリゲームだ。
主人公(=自分、ヒロイン)が監督(舞台監督ではなく演出に近いポジション)として、キャラクターたちを一人前の役者に育てていくというシナリオ。
私は女性向けコンテンツに興味を持とうとしたことが何度かあるが、面白さの理由は理解できても、個人的に興味を持つことができなかった。
「イケメン」に抵抗があって、キラキラのイラストやイケボも苦手意識があった。アプリゲームもほぼやらないし、キャラとヒロインの恋愛にもブロマンスにも興味はなくて。難しかった。

「やってもいいけど、はまらないと思う」と、かなりはっきりと思った。友達にも実際に言ったかもしれない。

ただ、始める時に「この作品の舞台がある」と言われて興味が少し沸いた。
一体どういうこと?主人公は女の子で、商業的に考えたら出てくる訳ないよね?と言ったら、彼女は笑って「観客席に話しかけてきて、ヒロインが喋る代わりに音が鳴る」と。
いや、なんだそれは。いきなり観客と舞台を隔てる第4の壁と対峙させられるんだ。純粋に面白いことに挑戦してる、と思った。ゲームを舞台にするって思っていたより興味深い、自分が見たことのない演劇があるのかもしれない。凄まじい偏見だけど、商業的でイケメンがたくさん出てきて関係性がたくさんあればOK、みたいな訳じゃないのかもしれない。
そう思って、まずはゲームを始めることからスタートした。

しかし、これがめちゃくちゃ時間がかかった。
全てに慣れていなかった。「イケメン要素」に対しての強烈な抵抗感と、アプリゲームの操作感とシステム理解のなさ。ストーリー自体はゲーム性がなく、開放されたシナリオを読むビジュアルノベルタイプだったので、とりあえず友達のアドバイスを聞きつつ進めた。

どんどん読み進めていきながら、一人で唸った。なんだこれは。ちょー演劇じゃん。

初っ端から演劇鑑賞の話が出てきた。演劇鑑賞会って私だけの思い出だと思っていたけど、その時の想いを胸に舞台に立つキャラクターがいることに自分を重ねて既にグッときていた。
脚本を書くのも懐かしい。仲間内で揉めるのも懐かしい。聴き慣れた用語も、舞台に響く足音も、汗が滲むような照明の熱も。猛烈なノスタルジーに襲われた。
完全に忘れていた演劇への未練が掘り起こされた。
しかもそれを私は「監督」というポジションで、他の役者を送り出すことをゲームの中でやることで、未練は、あっという間に昇華された。なんてこった。

キャラクターの悩みと成長も惹きつけられた要素の一つだ。
全員が記号的な外見とは裏腹に、非常に個人的な悩みやトラウマや過去を抱えている。ハンディキャップを持った子もいて、周囲がどう受け止めるか、といった現代的な視点もある。それらが我々とかけ離れたテンプレのようなものではなくて、身近な題材なのも良い。
学生の物語ではないので、登場人物たちは年齢もバラバラで大人も多く、大人ならではの悩みや、年齢関係なく成長できると感じさせてくれて、遠い青春を見ているだけではないのもありがたかった。(さまざまな需要に対応するレンジの広さなのかもしれないが、良くできていると思った)
そして、それぞれが様々な形で、最終的に受容されていく。キャラクターが受け入れられることで、私自身も過去の演劇との向き合い方や演劇を諦めた自分も全て救われていくような気がした。
変化を見守り、変わらない優しさに救われ、時に背中を押し、成長していく姿をみて、プレイヤーの自分は指を滑らせながら涙した。なんてこった!

そんなこんなで順調にストーリーを読み進めて、本当にあっという間にハマった。
苦手だったイケメン要素にもどんどん慣れて、良さもわかるようになった。ゲームに課金することや、「推し」を作る文化も実践的に体験することができた。

そんな推し活動をしている自分も客観的に見てなんだか面白かったのもあるが、何よりもその俯瞰した面白さを超える作品への愛が上回っていた。

メインストーリーを公開されているもの全て読んで、
ついに最初に興味を惹かれた「舞台」を観ることとなる。

つづきます。

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