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早食い裕次郎

私には大学時代にできた2人の親友がいる。

私の通っていた大学は
日本全国から学生が集まる。

巷では年収1000万円の親が〜
と言われるけれど
みんなお金持ちの親から
生まれてきたわけではない。

そうなると家を借りるのが大変だから
大学の寮に入ることになる。

うちの大学は13組とか35組とか
まさか大学生にまでなって
クラスかいと思ったけれど
振り分けられる。

僕も含めてこの3人組は
同じクラスで同じこの貧乏寮出身だ。

家賃は破格の10000円

通学には自転車と電車で1時間かかるが
贅沢はいえない。

3人でご飯を作ったり
夜中までテスト勉強したり
大声で歌ったり
バーベキューして怒られたりして
いい思い出がたくさんあるけど

印象深いのは
激安の殿堂まで
愉快に歩いて行ったのに
一缶のお酒を買うお金を
みんな持ってなくて
まあいいかと帰ったことだ。

で、みんな無事に大学を出た。

ここ3年くらいは何回か釣りに行っている。
3人組の1人が
小さい頃から釣りをしていたから
手ほどきしてくれたのだ。

でも僕らのする
さびき釣りは
海岸にある公園で小エビを撒いて釣る
一番簡単なやつなので
なかなか釣れない。

2回くらい坊主になってしまったので
今度は沖に出ることにした。



京急の金沢八景には
船宿がたくさんある。

相乗りでハセ釣りに参加した。

船員らしいひとが
釣り方を説明してくれる。

先端のおもりが
とにかく危険らしい。

これがフラフラしていると
人の頭に当たって
血が出るらしい。

海釣りは怖いな、
緊張してきた


そういえば僕は酔いやすい。
お腹がグーっとなった。
空腹だと酔うって聞いたな。

もうすぐ出港するらしい。
あわてておにぎりを2個たべた。



船は快調に東京湾をすすんだ。
15分ほど沖に出て、
シロギスが釣れるスポットについた。

釣り針にエサのイソメをつける。
なげる。

10分ほどして仲間のひとりが先に釣れた。
負けないぞ。


船は定期的にエンジンを入れて、
魚のスポットに移動する。

動きだしはガソリンのにおいがする。

3回ぐらい移動したころ、
嫌な予感がする。

餌をつけるときに
下を向く。
イソメはちょろちょろ動くので
針につけるまで1分ぐらいかかる。

下をずっと向いていると
ん、なんか酔ってきたぞ。
やばい。

すかさず海の遠くを見る。
はるか先に港のクレーンが見える。

でもぼやぼやする。
目を凝らす。
もっと凝らす。

5分くらいして酔いがおちつく。
でもまたガソリンのにおいにやられる。

ぐはっ。
また遠くをみる。
目を凝らす。
もっと凝らす。

釣りの手が止まっている僕に
友達が気づいた。

どしたの?

酔った。

顔すごい険しいね。
石原裕次郎みたいだね。

そう、僕は海の上で
そのはてに目を凝らす
裕次郎になっていたのだ。

遠くを見ていると、
少しずつ酔いがさめるけど、

ガソリン、イソメ、波のトリプルパンチで
またすぐ気持ち悪くなる。

だからまた裕次郎になる。

友達はそれを見て
ケラケラ笑っている。


あと10分で終わりまーす。

船長さんのその声で
安心して気を抜いた裕次郎、
ついに吐いてしまった。

よくあるのだろう。
船員さんが慣れた手つきで
裕次郎のそれをバケツで流す。

船の排水口にするする流れていく。
よく見ると米粒が全部キレイな形をしている。
もう米を研いだ後みたいにキレイな米粒だ。

これをみた友達に
りんちゃんは早食いだから
きちんとご飯を噛みなさい。
と説教されました。

ちゃんちゃん