天狗の投げ筆
天狗の投げ筆 民俗採訪昭和30年号
久右エ門という字の上手な医師がいて、人々は彼に書き物を頼んだ。
あるとき山で白髪の老人に「二三日手蹟を貸してくれ」と言われ、請け負った。
その後二三日は惚けたようになり、これも手を貸したためと思われた。
数日にして山にいくと、老人は礼をいい、お礼に火伏になるという書き物をくれた。
字が下から書かれ、ところどころに投げたように墨がついていた。
後に久右エ門の家は貧乏になって軸は他家に渡った。
特別に一室を作り、大切にされた。
しかし、渡った先の家が火災にあったときは、掛け軸だけが抜け出して焼け残った。
これは他家に渡ったから火伏せの力がなくなったためという。
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