3ヶ月で7.5万部増刷!なぜ4年前に発売された小説がTikTokきっかけで爆発的に売れたのか <スターツ出版さんインタビュー>
出版不況が叫ばれて久しい現在ですが、いま出版業界で驚異的なスピードで売上を伸ばしている一冊の小説をご存知でしょうか。
それが、TikTokでの動画投稿をきっかけに話題となり、2020年6月から3か月で7万5000部の重版が決定した汐見夏衛(しおみ・なつえ)さんの『あの花が咲く丘で君とまた出会えたら(スターツ出版)』です。
日本出版販売が運営するサイト『ほんのひきだし』の「本屋で今検索されている本ランキング」2020年6月17日~6月23日では5位にランクインし、9月2日~9月8日でも6位に再ランクインしました。
さらに、 2020年12月28日には、同作の続編となる『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。(仮)』の刊行が決定しました。
実は、何より驚きなのは、この本が刊行されたのは今から4年前の2016年7月だということ。
そんな4年前の本が急激に売れている事実に、もっとも驚いているのが、この書籍を刊行した“当人”であるスターツ出版さんなのです。同社の出版マーケティンググループ マネージャー米山勝己さんにお話を伺うと、「実は、このブームは我々出版社が仕掛けたものでは一切ない」と言います。
一体、同作はなぜここまで売上を伸ばすことになったのでしょうか。
これは、4年前に刊行された一冊の書籍が大ヒット作になるまでの奇跡を追ったストーリーです。
鳴り止まぬ電話。急いでTikTokをダウンロードした
▲スターツ出版 出版マーケティンググループ マネージャー米山勝己さん
スターツ出版に“事件”が起きたのは、コロナの影響が今よりも大きかった2020年6月最終週である6月28日 日曜日のことでした。
この日は6月29日。
朝から電話が鳴り止まず、緊急事態宣言が明けたばかりの6月ということもあり、在宅勤務の社員が多かったスターツ出版では電話応対できない事態となったのです。
その問い合わせ内容は一つだけ。
その一言により、米山さんらはスマホを開き、急いでTikTokをダウンロードしたといいます。
その日から、スターツ出版は怒涛の勢いで増刷を繰り返します。
TikTokで話題になる前は2万5000部ほどの刷り部数だったというので、今年6月以降で7万5000部が刷られた計算になります。
まったく目をつけていなかった「TikTokで本を売る」戦略
「本が売れない時代」と言われますが、スターツ出版では10代向けの本を多く刊行しており、これまで他のSNSを使って本の販促を行ってきました。
しかし…と米山さんは振り返ります。
では、同書はなぜここまで反響を読んだのでしょうか。
その理由を聞いてみると、米山さんの口から出てきたのは意外な言葉でした。
米山さんいわく、10代の読者にもっとも影響を及ぼすのは、今も昔も友人やSNSでフォローしている人の口コミ。
自分の親しい人がおすすめしたら、安心して購入するのだそうです。
熱狂を見守り、それに応える存在に徹するのが“正解”なのだと米山さんはいいます。
本が売れない時代に、出版社はSNSをどう使うべきか
では、そんな“見守り”が正解とはいえ、今後出版社はどのようにして本を売っていけばよいのでしょうか。
事実、TikTokのロゴが書影に入るだけで、店頭で本を手にとってくれるお客さんが多いのだといいます。
現在、電子書籍やオーディオブックなど、新しい本の読み方が増えているのは周知の事実。
しかし、米山さんによると10代の若者にはまだまだ書店の影響力が大きいのだといいます。
口コミでしか若者に本が売れないといっても過言ではない現在、TikTokが世界中に伝播する“新たな口コミ”となっていたのです。
では、今後出版社が本のプロモーションを行う上でTikTokを活かすことはできないのでしょうか。
やはり、黙って話題になるのを待つしかない?
米山さんいわく、今や本のレビューは、テキストだけでなく、動画でテロップや音楽などで自身の感想をクリエイティブに発信する時代になったというのです。
米山さんいわく、TikTokのコメントの盛り上がりは、書籍市場を動かすほどの影響力を今後もっていく可能性があるといいます。
※ ※
通常、ヒット作を生み出した出版社さんに話を聞くと、どのような“仕掛け”を用意していたのか解説していただくのが一般的です。
口コミが生まれる場所に注目すれば、おもしろい本は必ず誰かの目に止まる。
そんな希望を抱けるスターツ出版さんのお話でした。
禁無断転載
▼その他のインタビュー記事はこちら