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TikTok上で内省、成長、癒しを得るZ世代──生活を豊かにする「ジャーナリング」のかたち

世界で月間10億人以上のユーザーに楽しまれているTikTok。幅広い世代から多様なコンテンツが集まるTikTokでは、アプリを超えて社会に大きな影響を与えるトレンドが日々生まれています。今回は、アメリカ在住のライター竹田ダニエルさんから、今年TikTokで注目を集めたShadow Work Journal(シャドーワークジャーナル)やTikTokで大人気の様々な「#journaling」方法について、アメリカ現地での体験とともに紹介いただきます。

筆者:竹田ダニエル

ジャーナリング、つまり「日記」に関連するコンテンツはTikTokで大人気だ。「#journaling」のハッシュタグをつけて投稿された動画は70億回再生を超え(11月19日時点)、ユーザーから人気クリエイターまで、様々な人たちが自分たちの独特のジャーナリング習慣をシェアしている。可愛いノートを選んだり、綺麗な文字で書いたり、お洒落なシールを使ったりといった「映え」も大事でありながら、「取り掛かりやすさ」や「自由さ」がTikTokにおいては重要であることがよくわかる。TikTok特有の自由でカオスな雰囲気が、「とりあえず生活を豊かにするためのジャーナリング」に直結しているのだ。

ルールがなくて、無理せず長期的に続けられて、楽しめることが大事なポイントになっている。今まで他の動画プラットフォームやSNSで流行っていたような、几帳面なブレットジャーナリングのあり方とは異なる、個性的なジャーナリング方法だ。スクラップブック的でもいいし、内省的な文章を書くでもいい。一人の時間を楽しむための「趣味」として、そしてメンタルヘルスを維持するための「ツール」として特にZ世代の間で重宝されている。あえてアナログな手段で丁寧に絵を描いたり、いろいろなものを挟んで分厚くなったノートを山積みにして、過去の思い出を振り返ることもできる。

TikTokでは、様々なジャーナリングの方法が紹介されている。例えば、1日の終わりに振り返って書く日記ではなく、朝に3枚書くと決めてとりあえず頭の中身をダンプするMorning Pagesも人気だ。1日の始まりにすっきりできる、というメリットが強調されがちだ。

他にも、”audio journaling”と呼ばれる、ボイスメモなどで自分の声を録音する手法のジャーナリングもあり、TikTokで”audio journaling”に関連するコンテンツは28億回再生を超える(11月19日時点)ほど話題になっている。まるで友達と長電話をするように、自分で気になっていることやイライラしていること、心配していることなどを独り言として声に出す。「誰かに愚痴を聞いてもらいたい欲求」を解消できることや、ノートを買ったり手を使う必要がないことが大きなメリットだとされている。

「ボイスジャーナルやオーディオジャーナルは、自分の考えを素早く吐き出すための最新で最高の方法だ。紙に走り書きしたり、メモアプリで早打ちしたりする代わりに、携帯電話のボイスレコーダーに直接話しかける。ボイスジャーナルなら、スマホを手に取り、思ったことをそのまま書き綴るだけだ。」

そして今年TikTokで大バズしたのがこのShadow Work Journal(シャドーワークジャーナル)。ユング心理学の「影」の理論を取り入れたドリル方式のノートで、「インナーチャイルド」、つまり自分の中にある「内なる子ども」と向き合うことでヒーリングを目指すもの。大人になってからも無自覚に抱えていたトラウマや不安の根源と深く向き合い自覚することで、成長と癒しを得る効果があると話題になった。

シャドーワークとは、恐怖、恥、罪悪感、不快感から知らず知らずのうちに拒絶してしまっている自分自身や自分の人生の一部と向き合い、それらの部分を自分の存在に再び統合することに焦点を当てたメンタルヘルスの実践方法だ。

TikTokクリエイターたちは、インナーチャイルドを癒し、より深いレベルで自分を愛することを学び、より健康的な方法で感情を処理するための方法として、シャドーワークの経験を共有している。シャドーワークの日記をつけることは、TikTokで最も人気のある方法となっている。感謝日記をつけたり、夢の詳細を記録したりするのと同じように、驚くほど身近で、手頃な値段でできる。さらに、書くことで自分を表現し、潜在意識を探求することができる。何より、真っ白なノートと、自分自身の最も暗くて陰鬱な部分を掘り下げる意欲があれば、始めることができる。

このシャドーワークジャーナルの作家であり、(2023年9月時点で)24歳のケイラ・シャヒーンは、「オプラ・ウィンフリーよりも売れている24歳」として、アメリカのメディアでも話題となった。”shadowwork”に関連する動画はTikTok上で総再生回数が23億回を突破し(11月19日時点)、2021年秋に創刊されたこのジャーナルは、アメリカのTikTok Shop(日本では未導入)に投稿された後、売り上げ29万部以上の大ヒット商品となった。

「シャドーワークジャーナル」の内容は非常に単純だ。例えば、1ページ目に「罪悪感」や「見捨てられ」といった言葉を丸で囲むことで、幼少期の傷を特定するよう促している。空欄を埋めるセクションでは、幼い頃にトラブルに巻き込まれたり、仲間はずれにされたと感じたりしたときの感情的な反応を思い出すよう促されたり、体が緊張する原因を書き留めるよう求められたりする。呼吸法のエクササイズを紹介するQRコードや、"リアルタイムで自分の影と向き合う "ときに浮かんでくることに気づくための、裏打ちされた、基本的に白紙のページもある。」

8000万回以上再生されている(11月12日時点)この動画では、このノートを通して、自分がどれほど多くの精神的な問題を抱えているか実感させられたと言った趣旨を伝えているが、コメント欄でもこのノートに興味を示したり、ヒーリングの重要性を議論しあっている。例えば、2023年3月に公開された、世代間トラウマをテーマにした映画作品では、多くのミレニアル世代以降から「ヒーリング」という言葉が大きな人生のテーマになっている。インナーチャイルドが癒えないと、未来にいつまでも傷を引きずってしまう。より良く生きたいという自覚性が特徴的なのではないだろうか。

このように、アメリカの若者たちの間でのシャドーワークジャーナルをはじめとしたジャーナリング系コンテンツの人気の理由には、メンタルヘルスに関する一般的な興味関心の爆発的な向上と同時に、医療制度の問題による支援やリソースのアクセス不足が挙げられる。

セラピーに通うことが「クール」な時代になりつつあるが、実際に相性の良いセラピストを見つけたり、良いセラピストの予約待ちをしなければならないハードルを超えるのは難しい。もちろん、セラピー費用も一般的にはとても安いものではない。

セラピストを見つけるのは難しいし、セラピストが見つかっても合わないこともある。完璧な代替品にはならなくても、20ドルの日記用ノートなら買って試してもいいか、ボイスメモで独り言を録音してみるか、という好奇心を、共感性をそそるようなTikTokクリエイターたちは後押ししてくれる。

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