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フォロワー200万人超のTikTokクリエイターが、人気映画のプロモーションを担う。いま、映画業界に起きているプロモーション手法の大変革<ぞのさんっ×ソニー・ミュージックエンタテイメント 担当 インタビュー>

2020年11月、一つの映画がSNSを中心に大きく話題となりました。

3組の男女の物語を紡いだ映画『たぶん』です。

この作品は小説を音楽にするユニットYOASOBI、第四弾楽曲「たぶん」の原作小説(しなの:著)を元にしたオリジナルストーリーです。主題歌となる楽曲の人気も後押しとなり、大きな話題となったのです。

実はこの映画、物語の内容だけではなく、プロモーション手法にも注目が集まりました。

同作のプロモーションはTikTokでも実施され、公式アカウントでは映画のメイキングや役者名でのアカウントも作成。

撮影の裏側を切り取ったショート動画が、大きな反響を集めたのです。

@tabun_movie

たとえ足場が悪くても最高のカットのために,,,@tabun_movie_kawanoeguchi #映画たぶん

♬ たぶん - YOASOBI

そして驚くことに、こちらの動画の撮影・編集を手がけたのはTikTokでフォロワー200万人超の人気TikTokクリエイターぞのさんっ(@zono.sann)らのチームなのです。

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(TikTok人気クリエイターのぞのさんっ)

現在はオンラインサロンのチームを率いて、月に10件以上もの企業の映像制作をサポートしているぞのさんっ。

従来の映画プロモーションは、”専門家”のみで構成されるケースが主流でした。

こうした状況の中、ぞのさんっが映画プロモーションのクリエイターとして大抜擢された背景には一体何があったのでしょうか。
今、クリエイターのキャリアに大きな変革が起きています。

その大変革の詳細を明らかにしていきます。

「TikTokを使うならば、TikTokで人気のクリエイターを起用したほうが面白いですよ」

話を聞いたのは、ぞのさんっと、チームメンバーのたけち(@takechi0318)さん、映画『たぶん』のプロデューサーを務めたソニー・ミュージックエンタテイメントの佐藤さん。

映画のメイキングムービーをSNS発のクリエイターが制作するのは、業界でも異例の試みです。

なぜ、ぞのさんっに白羽の矢が立てられたのでしょうか。

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(ソニー・ミュージックエンタテイメントの佐藤さん)

「この映画の主題歌を担当しているYOASOBIはSNSからヒットした次世代型のアーティストです。今回のプロジェクトでも、通常の映画プロモーションとは別の、今の時代にあった宣伝方法を模索していました。そこで候補に挙がったのがTikTok。主題歌担当アーティストのYOASOBIファンはTikTokとの親和性も高く、宣伝の場として活用したいと以前から考えていたんです」(佐藤さん)

元々「TikTokについてはほぼ無知だった」という佐藤さんでしたが、動画の話題性やリピート性を考え、映画のメイキングムービーをTikTokで配信することが新規プロモーション手法として”正解”という結論に達したのです。

「TikTokの担当者さんにご相談したところ、『TikTokを使うならば、TikTokで人気のクリエイターを起用したほうが面白いですよ』とアドバイスをいただき、確かにと思ったんです」(佐藤さん)

餅は餅屋。郷に入っては郷に従うーー。

そこで紹介されたぞのさんっの映像を見て、佐藤さんはすぐに魅入られたと言います。

「とにかく風景描写を撮るのが上手い。このまま監督をやってみたらいいのにと思うくらい綺麗だったので、すぐにお願いしました」(佐藤さん)

(確かに、スマホ一台で撮影しているとは思えないクオリティ…。)

対するぞのさんっは、このソニー・ミュージックエンタテイメントからの突然の連絡に度肝を抜かれます。

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「業界最大手のソニーミュージックさんが映画化するプロジェクトです。これほどの大役を任されるとは思っていなかったので、嬉しさと驚きが入り混じった心境でした。ただ、依頼内容を伺って、相性は良さそうだなと。私の映像制作チームでもメイキングムービーはずっと作っていたので、そのノウハウを活かせると思いました」(ぞのさんっ)

実は1年半前まではまったく別業種の仕事をしていたぞのさんっ。
(詳しくはこちらの記事をご覧ください https://note.com/tiktok/n/n17f6c7ab9c82)

そんな彼がたった1年半でTikTokクリエイターとしての実力をつけ、映画作品のプロモーションを担うことになったのです。

まさに、「TikTokドリーム」です。

動画の長さは21秒以内。緻密な仕掛けで“見られる動画”に

名シーンの撮影風景から俳優の素顔を映した動画まで、映画「たぶん」のメイキングムービーは多岐にわたります。

印象に残っている動画を聞いてみると……。

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「伊豆の海沿いで川野(寄川歌太)と江口(吉田美月喜)を撮影した動画ですね。ぞのさんったちは、映画のカメラマンより前にいると錯覚するくらい波打ち際に近づいて、何度も波を撮り直していました。その結果、ぞのさんっの本領発揮とも言うべき動画に仕上がったと思います」(佐藤さん)

@tabun_movie

海辺で撮れたエモい映画の裏側! @tabun_movie_sasanokanon @tabun_movie_kuronari @tabun_movie_kawanoeguchi #映画たぶん

♬ たぶん - YOASOBI

ほかにも夕焼けが夜空に変わるまでスマホを向け続けたり、自転車で駆けているシーンを伴走しながら撮影したりと、ぞのさんったちのアナログな仕事にも驚かされたという佐藤さん。

「一般的な映像の撮影だと、現場に関わっている人が多く、撮り直しを繰り返すのは難しいんですよ。でも、スマホなら素材をいろんな角度から撮って、自由自在に編集できる。スマホ一台で完結することのメリットを感じました」(佐藤さん)

一方でぞのさんっのお気に入りは、監督の仕事にフォーカスしたこちらの動画。

@tabun_movie

自転車の乗り方にもこだわる製作スタッフさん!凄すぎます😌@tabun_movie_kawanoeguchi #映画たぶん

♬ たぶん - YOASOBI

「自転車の漕ぎ方ひとつ取っても、監督さんや助監督さんといった多くの大人たちが真剣に議論していて。確かに、私たちも同じような議論はするんですが、それを客観的に生で見るのはすごく面白かったですね。皆さんの仕事へのこだわりを、しっかりとカメラに収めておこうと思いました」(ぞのさんっ)

また、普段ぞのさんっが投稿している動画と映画のプロモーション用の動画では、制作の手法も違うはず。

動画を作る際、どのような点を意識したのでしょうか。

「TikTokの動画はテンポの良さが大事ですが、映画はセリフやナレーション、俳優さんの表情などでじっくりと魅せるシーンが多いです。考えた結果、動画の“掴み”の数秒はシーンを素早く切り替えて、最後まで視聴を継続したくなる構成にしました。その後はテンポを落としながら綺麗なカットを増やすことで、映画の魅力も伝わりやすくなると考えたんです」(ぞのさんっ)

TikTokの特性を押さえつつ、映画の特性も殺さない見事な解決策。

さらに恐ろしいのは、シーンを切り替える秒数の最適解まで知り尽くしていることです。

「動画の冒頭は、素材自体にも早送りをかけて1〜2秒で切り替えています。9秒前後の地点から徐々にスピードを落としていき、全体の尺は長くても21秒以内に収めました。画力で勝負するタイプの動画は、23秒くらいになると最後まで見られにくくなるので、19秒ほどに仕上げるケースが多いです」(ぞのさんっ)

それって、企業秘密級の情報では…!

美しさを追求するだけでなく、見られるための仕掛けを緻密に設計する。

フォロワー200万人以上を誇るトップクリエイターの口からは見事にTikTokが”科学”されていることが伺えます。

企業がTikTokクリエイターを起用する”本当のメリット”

とはいえ、企業にとってTikTokクリエイターを起用するのはまだまだ挑戦的な取り組みです。

実際にコラボしてみて、佐藤さんはどのようなメリットを感じたのでしょうか。

「今回とても助かったのは、ぞのさんったちがTikTokのトレンドを熟知していたこと。SNSには時流もあるので、仮に有名人がビジュアルの良い動画をアップしても、それだけではバズらないと思うんですよ。どんな企画がウケるのか、映像の色味はどうするのか。それは最前線で活躍している人にしかわからないので、積極的にご提案いただけたことは大きな力になりました」(佐藤さん)

そう、映画のプロモーションを行う際は、SNSマーケティングの必要性は感じていても、”中の人”にその最新のトレンドを熟知している人が十分にいるとは限らないのです。

特に、最近のTikTokやSNSはトレンドが日々激しく変化します。

「確かに、TikTokのトレンドの入れ替わりは激しいですね。私たちはさまざまなコンテンツを視聴し、アイデアをストックしたり市場を分析したりしています。今回も、それを映画の脚本と照らし合わせて、このシーンにはこのトレンドがマッチするんじゃない?とチームでアイデアを出し合いました」(ぞのさんっ)

つまり、各SNSの流行を熟知し、呼吸するように”バズを科学”している彼らと組むことで、その知見やノウハウを活かして映画のプロモーションができるのです。

さらに今回の施策は、ソニー・ミュージックエンタテインメントの社内にもポジティブな影響を及ぼしていました。

「TikTokに対する見方は変わりましたね。特に普段TikTokを見ない、使わない世代は『ここまで映像を作り込むのか』と驚きの声を上げていました。所属する俳優陣も、これまでは流行っているらしい、くらいの認識でしたが、現在では頻繁にTikTokを更新しています」(佐藤さん)

円滑なコミュニケーションを手助けした“クリエイター兼ビジネスマン”の存在

一方で、企業とTikTokクリエイターという“異業種”がビジョンやノウハウを共有するには、円滑なビジネスコミュニケーションが欠かせません。

その点、ぞのさんっの場合、チームでビジネスを回すスキームを確立していたことも、スムーズな仕事につながっていたと言います。

「今回のプロジェクトは業務フローが多かったですが、ぞのさんっチームがシートにわかりやすくまとめてくださったため、スムーズに展開できました。TikTok初心者も多い中、全員が満足できるコンテンツに仕上がったのは、シートが導いてくれた部分も大きいです」(佐藤さん)

キーマンとなっていたのは、ぞのさんっ陣営に参画し、ご自身も46万人以上のフォロワーを抱えるたけち(@takechi0318)さん。

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(たけちさん)

「私はシートの作成やスケジュール管理など、プロジェクトがスムーズに進行するようなサポート役として参画しました。もともと1年前までは、フリーランスで就活生向けのマッチングイベントを開催していたんです。“クリエイター兼ビジネスマン”として、裏方作業を徹底的にやらせていただきました」(たけちさん)

成功の裏には、個人の動画投稿者の枠組みを超えて、さまざまな個性が適材適所でプレゼンスを発揮するビジネスチームの姿があったのです。

ちなみに、そんなたけちさんも、現在は映像制作の仕事をメインにしているTikTokクリエイターの一人。

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「僕はTikTokを始めて2ヶ月くらいでバズって、3ヶ月目で今回のプロジェクトに携わらせていただきました。それからは仕事の内容も見える世界も変わったので、間違いなく人生の転機になったプロジェクトです。TikTokは本当に夢があるなと思いますね」(たけちさん)

わずか1年のサクセスストーリー。ぞのさんっが夢を掴めた理由

振り返れば、ぞのさんっが映像制作を生業にするようになったのも、実はここ1年ほどの出来事です。

まさに絵に描いたようなサクセスストーリーですが、夢を掴めた理由はどこにあるのでしょうか。

「一番は継続ですね。正しい戦略を立てたとしても、結局は発信を続けるのが何よりも難しい。そのために必要なのは、面白いよねと言い合える仲間が近くにいること。子どもの頃って、ゲームやドッジボールに対して『なんでやっているの?』なんて聞かれないじゃないですか。楽しさを原動力にしていれば、継続は苦にならないんです」(ぞのさんっ)

「私には同じような志を持っている仲間がいたことも大きいです。今回のプロジェクトに参画したたけち君もそうですし、あああつし(@aaa_tsushi_)君もそうです。一緒に撮影していても、常に誰が上手く撮れたかを競い合っていますから(笑)」(ぞのさんっ)

そして、クリエイターとして企業と仕事をするためには欠かせない能力もあると付け加えます。

「今回のプロジェクトで言えば、頭の中にある演出をしっかりと言語化できないといけません。また、事前に打つべきプロモーションも説明できないといけない。一言で表すなら、価値を整理して話す力。私はサラリーマンとして5年ほど勤めていましたが、その能力を学べたことが今に活きていると思います」(ぞのさんっ)

企業がTikTokクリエイターに仕事を発注する時代。

かつて、クリエイターがキャリアを築くためには、学校での勉強や企業での長い下積み期間が必要でした。

しかし、現在はTikTokをはじめとしたSNSで発信して人気を獲得すれば、誰かの目に止まり、短いキャリア期間でも仕事を獲得できるようになったのです。

こうしたTikTokクリエイターと企業がプロジェクトを共創する流れは、今後も加速していくのかもしれません。

禁無断転載

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