#30日物書きチャレンジ day17 『殺意』を抱く瞬間を描写


 「よし、いける……!!」
 目の前の24インチモニターに、俺はいまだかつてないほどの勢いで全神経を集中させていた。今の俺の姿をもし誰かが見れば、そこには食い入るように画面を見つめる頭のおかしい男の姿が映るだろう。
 だが、それも無理のないことだとどうかご理解願いたい。なぜって今俺が挑んでいるのは世界という単身で挑むにはあまりにも高い壁。しかし俺が立つその場所は、その壁の頂点にして終着点。すなわちオンライン上にて行われているゲーム大会の決勝戦である……!!
 プレイしているのはTPSゲーム。それもアクティブユーザー数は全世界で3億人以上とも謳われ、動画投稿サイトには雲霞の如く実況プレイ動画がアップロードされる超マンモスタイトルだ。そんなゲームの、言い切ってしまえば一番強い奴を決める選手権。その頂上決戦は、俺を含めて100人のプレイヤーによって争われた。
 100人が荒野に一斉に降り立ち、フィールドに落ちている武器を拾って戦うこのゲーム。勝つためにはテクニックもそうであるが、得意な武器を引き当てる強運や、武器であればまんべんなく得意である事も求められる。俺自身、この頂へと挑むために毎日毎日練習を繰り返し続けてきた。その自負にかけても、この戦い負けるわけにはいかない!
 そして試合も大詰めの局面。残る生き残りは10人。泣けど笑えどこれが最後という場面まで、俺は駒を進めることに成功した。さあ、ここからだ!
 「……ッ! ……!!」
 気合を入れた直後から、俺はほとんど無言のままでいた。しかし目は瞬き一つせず常に状況を観察し続け、キーボードの上ではせわしなく指が踊り続けている。
 一人仕留め、また一人の頭を撃ち抜く。いまだかつてないような極限の感覚。脳みそが沸き立ちのどが渇いてくっつくかのようだ。そして、とうとう生き残りは俺ともう一人だけになった。こいつを仕留めれば、その瞬間俺の優勝が決まる。
 上をとった。丘の上。相手も気が付いてはいるが、取り返すのは難しいロケーション。ここから俺はアサルトライフルでの掃射を始めた。相手にプレッシャーをかけて出方を伺う。
 だが、相手もここまで生き残っただけはある猛者だ。なかなか出てはこない。むしろ小刻みに体を揺らし、遮蔽物の右と左のランダムに出てくることで、なかなか狙いをつけるのも難しい。
 「あれだ!」
 だが、勝利の糸口を見つけたのは俺の方だった。丘の上から延びるゴンドラ。これに乗って相手の真上をとれば、そこから一方的に射撃できる!
 早速俺はゴンドラに飛び乗った! ゴンドラが動き出し、相手が身を隠す遮蔽物の真上へと迫る!
 「ここだーーー!!」
 相手の真上に着た瞬間、俺はありったけの銃を乱射した! しかし
 「あ?」
 俺は間抜けな声を上げていた。なんと射撃を始めた瞬間、俺のキャラクターは地面に向かって真っ逆さまに落下しだしたのだ。
 そしてそのまま、俺のキャラクターは落下ダメージで死亡した。優勝したことになった相手のプレイヤーキャラが、画面の中で踊っている。
 「なんで」
 皆目理解ができない。いや、おそらくはコントローラーのトラブル。射撃のボタンを押したときに、誤作動を起こしてゴンドラから降りる入力が受理されてしまったのだろう。
 「だからって、どうして今」
 コントローラーが使い古しという事はない。大会に備えて新しく購入し、調節をしたものだ。だとすれば
 「新品の時点でもう故障していた……?」
 信頼して、高い金額で購入したコントローラーがとんでもない粗悪品だった。
 その事実に、俺は愕然とし、そして次の瞬間、猛烈な怒りが吐き気とともにやってくるのをノドで感じた。

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