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水洗式(ウォッシュド)でのコーヒー精選

今回の記事ではコーヒーの水洗式と呼ばれるコーヒーの精選方式について写真を用いながら説明していきたいと思います(約3000文字)。

水洗式という名前の通り、大量の水を使用する方法で、ラテンアメリカ産コーヒーはほとんどが水洗式で生産されています。

「そもそも精選とは」

水洗式の説明をするために、まずはコーヒーチェリーの構造を簡単に説明し、精選工程はなんのために行われているのかを見ていきます。

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我々が普段コーヒーとして楽しんでいるのはコーヒーの木の種子の部分を加工したものです。写真に写っているのがコーヒーチェリーを割った様子です。

コーヒーの木は、種子を二つ持つ果実(コーヒーチェリー)を結実します。

コーヒーの果肉の内側には粘液層(ミシュレージ)があり、ミシュレージの中にはパーチメントと呼ばれる固い殻に覆われた、コーヒーの種子(コーヒー豆)があります。

この部分を取り出し、乾燥させ焙煎に適した状態にする必要があります。その工程を精選と呼んでいます。

【コーヒー豆の分別】

精選の際には果肉やミシュレージの部分と種を分ける作業がありますが、分別と乾燥をどのタイミングで行うかによって精選方式に名前がついています。

乾燥式(ナチュラル)、水洗式(ウォッシュド)、半水洗式(スマトラ式)、パルプドナチュラル(ハニー)のような種類があります。

コーヒーの栽培地域によっては水が少なかったり、乾燥させるための日光が少なかったり、と土地によって条件も変わるので、それぞれの産地に合わせて精選方式が決まります。
そしてどの精選方式を取るかによって、風味も変わってきます。

【コーヒー豆の乾燥】

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コーヒーの果肉(チェリー)は水分、糖分を含んでいます。収穫後の腐敗を避けるために迅速に水分を取り除き保存性を高める必要があります。

でもチェリーをそのまま乾燥させようとすると天日で5〜7日かかる上、乾燥するまでの間に品質劣化してしまうことも多いです。


「水洗式(ウォッシュド)を行う理由」

近年は風味に特徴を与えるため、様々な精選方式が世界中のコーヒー産地で試されています。
でも元々、生産者が気にしていたのは、いかに素早く処理を終わらせ、保存(換金)できる状態にするかということでした。

チェリーは時間をおけばカビや腐敗が進んで使い物にならなくなりますし、何より販売できる状態にしないと換金することができません。

素早い乾燥を実現するために、考案されたのが水洗式(ウォッシュド)の精選です。

チェリーの中で水分を含み、さらに除去が難しいのがミシュレージの部分。迅速な乾燥の大敵となるミシュレージは、ぬめぬめしていて簡単には除去できません。

ぬめりの原因となっているのはペクチンと呼ばれる果実に含まれる繊維成分、でもこのペクチンという成分は、時間をおくと酵素の働きでどんどんと分解されていきます。

そのため水洗式ではまず果肉を剥いて、ミシュレージを表出させ、このペクチンの分解を促します。

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写真は除去された果肉部分

この工程を発酵とよんでいます。発酵によりペクチンを分解し、ミシュレージを除去してすっきりさせた後、乾燥というのが基本的な流れになっています。

「水洗式加工の流れ」

ここからは写真を見ながらコーヒーの水洗式加工の流れを追いかけます。

【1.搬入】

収穫されたコーヒーは日を跨がずに加工設備に運ばれます。加工設備に運ばれたコーヒーは計量され、以下のようなサイロに入れられます。

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【2.機械による果肉の除去】

コーヒー豆は果肉除去の機械(パルパー)へと運ばれ外皮の除去を行います。

パルパーの中にはおろし金のように引っ掛かりのあるロールがついており、このロールが回転しながら果肉をはぎ取っていきます。下の写真に写っているのが手動のパルパーです。

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パルパーを通るとチェリーの表面がチェリーからはぎとられます。下の写真がはぎとられた大量のコーヒーの果肉です。基本的にはたい肥や土と混ぜ合わせてコンポストとして使用することが多いです。

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しかし果肉には抗酸化物質が多く含まれていることがわかっており、ハワイなどではこの果肉を用いたコーヒーパルプジュースが販売されています(アンチエイジングの効果があるとのことでした)。

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他にも果肉を乾燥させたカスカラティーも販売されています。スターバックスでもカスカラシュガーとして、果肉の粉砕品と砂糖を配合したものを活用しています。

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「3.発酵」

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果肉を取り除いたコーヒーの種は発酵槽につけられ、18時間から36時間かけて発酵させます。この時に粘液層の酵素分解が進み、除去が可能な状態になります。

発酵が終わった後は乾燥のために輸送されていきます。

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「4.乾燥」

発酵後のコーヒーの種は水分が多く含まれているため乾燥されます。
中米ではパティオと呼ばれる天日乾燥のための場所で乾燥されたり、ドラム型の機械で人工的に乾燥させたりすることが多いです。

エチオピアやルワンダでは、アフリカンベッドと呼ばれる乾燥台で乾かすことが多いです。
各地で撮影した写真もポストします。

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グアテマラのパティオ

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グアテマラの人工乾燥機

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ルワンダのアフリカンベッド

「メリットとデメリット」

今まで見てきたように、コーヒー果実の中で、多くの水分を含んでいるチェリーやミシュレージ部分を最初に取り除くことによって、効率的に換金できる状態にする方法が水洗式です。

とはいえメリット、デメリットはあります。

水洗式のメリット:乾燥が短時間で終わる。欠点豆が少なくなる。風味がクリアに仕上がり、豆や品種の特長がダイレクトに表現されやすい。

水洗式のデメリット:加工に多くの水を使用するため、環境への負荷が大きい。発酵時間をコントロールできていないと、過発酵のディフェクトが発生する。

水洗式の名前の通り、加工の際に多くの水を必要とするため水が潤沢に用意できる生産地域で見られます。

グアテマラ、ホンジュラス、ハワイ、ケニアルワンダ等、世界中の生産地域で見ることができます。一応ラテンアメリカで多いと覚えて頂ければと思います。

そんな水洗式での精選方式ですが、この方法で取り除くミシュレージや果肉には、糖分など栄養がたっぷりと含まれています。

そのため、使われた水が適切に処理されないまま、川に流されてしまうと水質汚染の原因となります。

「C.A.F.E.プラクティス」

少しだけスターバックスの倫理的な調達について触れていきたいと思います。

スターバックスではC.A.F.E.プラクティスという認証制度を独自に設定しています。こちらの制度では品質だけでなく、公平な取引や、コーヒー産業に関わる方が社会的な生活を営めるよう規定が設定されています。

環境への影響を最小限にするための各種項目が設定されており、水の使用量水使用による環境への影響の最小化、が規定されています。

今回取り上げたコーヒーの水洗式による精選は水を多く使い、さらに養分を過多に含んだ水を生み出してしまいます。そのため以下のような具体的な基準が設定されています。

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基準の中では水の使用量を低減するために「水の再利用を義務付け」や、「各工程に使う水の量を規定」していたり、「一年を通して計測した1㎏のチェリー加工に必要となった水の量を報告する義務」があったり、その最大値を規定しています。

また排水が出た際にも、水使用による環境への影響の最小化のために周囲の水源への影響がないように処理方法を規定していたりします。

「現地の水資源を守る」

コーヒー産業による水質汚染が生じると、川を生活用水として利用する地域では、住民の健康が脅かされるようなことにもつながります。

われわれが、普段飲んでいる美味しいコーヒーが現地の方の生活用水を、汚染しながら生産されたものでないということを確信できるかどうか、現地を知った後には確認したくなってしまいますし、これを伝えていくのが自分の役目だとも思います。

「まとめ」

今日は水洗式の精選方式を見てきました。
クリアな風味になりやすいこと、グアテマラなどのラテンアメリカ地域で採られている方法であること、ミシュレージを発酵によって取り除き乾燥効率を上げるための方法であること。
これらを知っていると日々のコーヒーの選び方も変わってくるのではないでしょうか。

果肉の活用法としてのカスカラティー、カスカラシュガーなんかを知っていると、見つけたときに一味違った楽しみが広がると思います。

今日もコーヒーとともに豊かな時間を!

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