尊敬するKさんへ

※本文は弊社の先輩の結婚にあたり執筆したものです。実名をイニシャルに変更して掲載します。 

 尊敬するKさんへ。ご結婚おめでとうございます。2018年9月1日、仏滅でございます。式場が安かったのだろう、いかにも遊び尽くした当社の営業らしい選択だなと推測しております。ではなぜ、仏滅は縁起が悪いと思われるのか。実はその起源は曖昧なのです。仏滅はブッダが亡くなった日と思っている方もいるかも知れませんが、月に何回も仏が死ぬなどたまったものじゃありません。実は大安、仏滅などは六曜という暦であり、仏教とは無関係なのです。
 六曜、つまり6日刻みの暦は何曜日が仏滅だろうと瞬時にわからないため、印刷屋がカレンダーを売るためにつけ始めたという逸話が残っています。行政でも根拠が全くない六曜をカレンダーに記載しないよう積極的に排除を行っています。つまり大安仏滅などの六曜は信じるに値しない、こじつけなのです。しかし、普段風水などを信じていなくとも、この部屋は気の流れが悪いなどと一家言ある人に言われると気持ち悪くなるのが人間の性です。仏滅に祭事は良くないと、江戸末期から言われていることならなおさらではないでしょうか。


 そこで、一つお伝えしたいことがございます。仏滅は「物滅」と書くこともあるそうです。その解釈は「物が一旦滅び、新たに物事が始まる」であり、大安より縁起のいい日という人もいます。なんと、Kさんにぴったりではないですか。今までのクズKが滅び、新郎Kとして生まれ変わる。Kさんの結婚式にこれほどぴったりの暦があるでしょうか。

 私が中学3年生の頃、国語の最後の授業で『美しい言葉』という短編を読みました。その授業中に先生が、私が最も美しいと思う言葉としてある短歌を教えてくれました。俵万智の『チョコレート革命』という歌集に掲載されている代表作です。


「男ではなくて大人の返事する君にチョコレート革命起こす」
 

当時中学生の私には理解できませんでしたが、なるほど、先生も俵万智も既婚者に恋をしていたんだろうなと、Yさんに片思いをしてわかるようになりました。やはり以前から私が言っているように、モテる男とはモテる男なのです。既婚者というのはその最上級ではないでしょうか。Kさんが今後より一層モテるようになるのは火を見るより明らかです。
 しかし、新郎Kなら安心です。クズKですら、女性がホテルでシャワーを浴びているときに書き置きをして彼女のもとに帰るくらいですから。しかし、しかし寂しい。今後Kさんと遊ぶ回数が減ると思うと悲しい。「昼も新規、夜も新規」とUさんから教えられましたが、それが口だけではない、ナンパは営業だと身をもって教えてくれたのはやはりKさんでした。私はKさんに倣い精一杯遊んでいるところです。俵万智は同じ歌集の中でこうも詠んでいます。


「逢うたびに抱かれなくてもいいように一緒に暮らしてみたい七月」
 

例に漏れず、これも不倫の歌というのは容易に分かります。今の私はむしろ、「抱くために銀座に行くのは疲れるが誰かと暮らしてみたい平成」といった気持ちで銀座に繰り出す日々を相変わらず送っています。早くKさんのように、抱かなくてもいい大人の余裕を身に付けたい限りです。
 しかし、やはりですが、男に生まれた限り抱くために逢う、抱くために銀座に行くというのも必要になってくると思います。
 尊敬するKさんへ。最後に私が今最も好きな歌人である佐々木あららの代表作を紹介します。


「それなりに心苦しい 君からの電話を取らず変える体位は」
 

尊敬するKさんへ。結婚は忍耐という人がいますが、結婚はいかに要領よくするかではないでしょうか。
 ご結婚おめでとうございます。素敵な家庭を築く良い夫と、後輩の模範となる良い先輩は別物だと思います。

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