二次会と紳士のモスコミュール

※本コラムは社員旅行の際、二次会会場が遠いと悩んでいた社員旅行幹事のために執筆したものです。 


 二次会会場と旦那の実家は遠いほうが良いと思いませんか。東京出身の男とは結婚できない、と酔いが回り始めると思うのです。だって姑と毎日会うなんて地獄ですよ。酒を飲みながらこのコラムを書いていることがバレそうですが、御茶ノ水で飲んだあと1人で銀座のバーに来ているのです。


 日本でバーの聖地とは言うまでもなく銀座です。有名なバーと言えば、スタア・バー・ギンザを思い浮かべる方も多いでしょう。あるいは太宰治が丸椅子で膝を立てている写真があまりにも有名なBARルパンでしょうか。ミーハー心で有名所のバーに行くと、人間失格とまでは言いませんが、しっぽりとした銀座のバーの醍醐味を何も味わえません。雑居ビルにあるバーに行くべきです。ですが、そう言う私もルパンには行ったことがあります。


 私もミーハー心がある太宰治ファンの1人なのです。もう一つの理由として、ここは大好きなモスコミュールが有名なのです。モスコミュールを頼めば銅のマグカップで出て来るのが良いバーの証です。そうなった理由は諸説ありますが、アメリカの禁酒法時代にモスコミュールを銅マグに入れて提供し、これはソフトドリンクだと言い張ったからという背景があります。良いバーというのはそういったお酒の歴史や背景まで提供してくれるものです。
一方で男性はバーでウイスキーをロックで飲むのがかっこいいと思っています。プロ相手に講釈を垂れてはいけません。シングルモルトか、ブレンデッドかくらいで注文し、あとはおまかせで頼めばいいのです。カウンターの真ん中にドシッと座り、ちびちびと一二杯飲んで帰る。それがカッコイイのです。だけど、そういう紳士と出会ったときもやはり東京出身ではないかと気にしてしまいます。まだ目も合っていないのに。


 未来の旦那の実家は東京でも良い、と百歩譲りましょう。でも二次会会場は遠い方が良い。これは譲れない。一次会会場から15分歩く。タクシーで1メーター移動する。それくらいがちょうどいいのです。ゴルフも歩いてラウンドした方が楽しいじゃないですか。この移動時間にいろいろと想いを馳せることができるのです。仕事のことも、恋のことも。少し酔った頭でプラス思考に、しかし冷静に。


 さて、これから大宴会に向かう皆さんに、少し遠い二次会会場への行き方をお伝えするので刮目ください。 
 宴会場を出て左に曲がり階段を降りる。階段を降りたら左に曲がり渡り廊下を渡って南館へ。南館に入ったら右手にある階段を降りる。階段を降りきると、そこはコンパニオンがいない、上下関係もない地上の楽園です。どうぞ本日はお楽しみください。

 あ、モスコミュールを飲んでいても素敵な紳士はいるんですよ。雑居ビル4階のバーで出会った彼は、ダブルのブレザーの右胸に「モスコミュールください。」と刺繍を入れているくらい、モスコミュールを愛している方でした。その紳士とどうなったかは、言うまでもないですよね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?