エロくなりたい。

 『なぜ、詐欺師のスーツはアルマーニなのか』という本を17歳の夏に読んだ。その本の中で紹介されていた事例に次のようなものがあった。絶対に車が来ない横断歩道の赤信号で多くの人が待っている。作業服の男性が信号を無視して渡っても誰も付いてこないが、スーツを着たビジネスマン風の男が渡ると、多くの人がつられて信号無視をしたという。要するに人は人を見た目で信用に足るかどうか判断しているということらしい。


 この本を読んだからではないし、アルマーニでスーツを買ったこともないが、私はスーツに結構なこだわりを持っている。まず、自分がどう見られたいか考える。私の場合は「いかに仕事ができそうに見えるか」、「どことなくエロい」というテーマを持っている。それと流行のいい塩梅を探りながら生地とディテールを考えて仕立てている。
スーツを着こなそうと思うと、スーツの歴史を知る必要があると思う。スーツのすべてのディテールには意味があるからだ。そしてその歴史はスーツを着る上でのルールと言っても過言ではない。


 下町ロケットに出演中の殿さんこと立川談春の著書『赤めだか』の中に、「型ができていない者が芝居をすると型なしになる。メチャクチャだ。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになれる。」という談志のセリフがある。スーツのルールを知らないのに妙なオリジナリティを出してはいけない。とにかく、ジェームズ・ボンドのようにネイビーか暗いグレーの無地のスーツに、白無地のシャツ、無地のネイビーのタイを合わせる。白のポケットチーフも忘れない。そして黒のストレートチップを履けば良いのだ。それこそがスーツにおける型である。


 一方で、色も柄も使わず完璧なおしゃれに見えるのは、良い男だけ。つまりジェームズ・ボンドだけだ。我々一般人がやるとどこか味気なく、つまらない。そこで柄とオリジナリティを入れるのである。
 月9ドラマSUITS内の織田裕二は(私が記憶している限り)いつもピークドラペルのシングルブレストのジャケットである。ピークドラペルとは本来ならタキシードかダブルブレストに使われるディテールで、ジャケットの襟の先が尖っているあれである。一般的にシングルブレストのジャケットに使われるのはノッチドラペルという。奇抜だなという印象を与えずオリジナリティを出すには良いこだわりではないだろうか。ピークドラペルは襟の面積が大きくなる分、威厳が出るとも言われている。敏腕弁護士という役柄にも最適だ。


 私の場合は、まだ迷走しているきらいがあるが、柄を2つ使う。2柄の場合は柄のピッチをずらす。幅が狭いストライプシャツの場合は、大柄のネクタイを合わせるといった具合だ。いつかあいつらしいスーツだなと言われるのを夢見ている。また、スーツにおいて柄を3つ使うのはよほどの洒落者でない限り事故になる。1柄が無難である。SUITSの織田裕二もいつも1柄だ。


 生地にもこだわりたい。織田裕二は艶のある生地だが、私は少し起毛した冬らしい生地が好きだ。夏はリネンかコットンだ。


 そういえば生地に異常なこだわりを持っている女性がいるらしい。というのも、下着姿になるのは恥ずかしいくせに、水着は恥ずかしくない。その理由として下着の素材はザラザラしているが、水着はテラテラしているから良いなどと言い放つ。なるほど。ではユニクロのワイヤレスブラなら水陸両用じゃないかと言うとそれは違うという。では濡れてもいい素材なら良いのだろう。GORE-TEXのブラジャーがあれば流行るだろうか。


 下着姿は見たい。おっぱいは当然見たい。しかし、パンティラインだけは見なくていい。私は声を大にして言いたい。Tバックを履け。タイトパンツのときはTバックを履け。白いパンツのときはタイトじゃなくてもTバックを履け。


 アンジャッシュ渡部は女性のパンティラインについてこう言っている。「どっちに転んでもエロい」と。パンティラインが見えていればそれでエロいし、見えていない、つまりTバックを履いているとしてもエロいと。それは違うぞ渡部。パンティラインはただの怠慢である。背中の産毛以上、脇毛の剃り残し未満の怠慢である。


 渡部、お前は佐々木希のパンティラインを見たことがないから言えるのだ。佐々木希ほどの女がパンティラインを見せるはずがないだろう。人に見られる仕事をしている以上、そんなところに気が回らないはずがない。生まれた瞬間完璧な容姿。まつ毛より下は全身脱毛済み。専属スタイリストがいて、トレンド、サイズ感、自分らしさどれをとっても完璧な服装。なのにそんな佐々木希にパンティラインが浮いている。ショックを受けるに違いない。


 しかし、ブラジャーの紐、こいつは別だ。なぜか。見えるからである。パンティラインは一律に同じ形しか見えない。ブラジャーの紐が見えるのもただの怠慢かもしれない。しかし、見えるのは形だけはない。色!素材まで!ありがとうございます!


 色と素材の情報を頂ければ、脳内では下着姿で歩いていると言っても過言ではない。しかもどっちに転んでもエロい。見えれば私の脳内ではすでに下着姿だし、オフショルダーの服なのに見えない。つまり、ストラップレスか、ヌーブラかノーブラである。どっちに転んでもエロい。ただ、ヌーブラを剥がした後の乳首はネチョネチョしていないかと、ゴムの味がしないか心配なだけだ。


 私もどっちに転んでもエロい男になりたい。ジェームズ・ボンドのスーツ姿はいつもエロい。ある日突然、スウェットで出社しても多分エロい。そんな男に私はなりたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?