いちご狩りの流儀

※本コラムは社員旅行の際、イベントであるいちご狩りの評判が悪いと悩んでいた社員旅行幹事のために執筆したものです。


 今年の1月に公開され話題になっている『キングスマン:ゴールデン・サークル』という英国映画をご存知だろうか。ロンドンにある「キングスマン」という高級テーラーが実は、難事件を解決するスパイ組織だったというコテコテのスパイ映画である。007のダニエル・クレイグが無地のトム・フォードのスーツにタブカラーシャツ、ナロータイを身につけるように、キングスマンのメンバーはダブルブレストでストライプのスーツを身にまとっている。


 この映画が流行った理由の1つに、かつてのスパイ映画のオマージュが多く含まれている点があるだろう。特に007からの影響は大きい。ジェームズ・ボンドはマティーニを愛し、「ウォッカマティーニをステアではなくシェイクで」と注文する。キングスマンの主人公エグジーはバーでマティーニを注文し、「もちろんジンで。10秒間ステアして。」と付け加える。また、007の爆発するオメガよろしく特殊な武器も多く登場する。その武器を開発するマーリン(これも007のMの影響だろう)がいい仕事をしているのだ。詳しくは映画を見て頂き、その足でダブルブレストのスーツを誂えに行ってもらいたい。


 良い映画とは、主人公が魅力的なのはもちろん、衣装などの小物や脇役がきちんと主人公を引き立てているものだ。食事でもそうだ。食前酒がスパークリングなのは炭酸が胃の動きを活発にさせ、食欲を活発にするからだ。フレンチでスープと魚料理の間にパンが出てくるのは、口の中をリセットし、魚、肉と続くメインを美味しく頂くためである。


 さて、主人公を引き立てる名脇役の話を続けよう。それは映画『プリティ・ウーマン』で登場する。リチャードギアがジュリアロバーツをホテルに誘い、ルームサービスでシャンパンといちごを注文する。「いちごを食べてシャンパンを飲んでごらん。シャンパンの味が引き立って美味しくなるよ」と口説くのである。シャンパングラスにいちごを添えるだけで完成する簡単なこのカクテルで、いちご本来の役割を思い出す。


 ショートケーキの主役は生クリームなのだ。生クリームの甘みを十分堪能するために酸味のあるいちごがあるのだ。いつだっていちごは名脇役だ。それはまるで、いくら奔走しようとも決してスタッフローフに名前の出ることのない広告代理店営業の私たちのようではないだろうか。ちなみに、ぶり大根の主役が大根であることも声を大にして言いたい。
 賢明な社員の皆様であれば、ここまで言えば私の最も言いたいことがすでにおわかりなのではないだろうか。


 いちご狩りの主役は練乳なのである。小学生の時にチューブから直接練乳を吸い、あっという間に空にして親から怒られた経験も一度くらいならあるだろう。私たちは練乳を飲むためにいちご狩りにいく。舌が肥えた私たちは、甘みを引き立てるのは酸味であると学んでいる。だからこそいちごを狩るのである。
 いちごを狩り、練乳を美味しく堪能するためにも、いちご狩り前夜祭は29時までにしたい。


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