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♬ こちら千葉県幕張運転免許センター前陸橋 ♬

私は千葉県の東船橋でキャンピングカーのレンタル会社を経営しているが、ウチはキャンピングカーに初めて乗るお客さんにはできるだけ試乗をお勧めしている。それは、これまで普通の車しか運転したことのないお父さんが、初めてのキャンピングカーでも家族を後ろに乗せて安心して旅行に出られるようにという想いからだ。

というのも以前。
ウチの1階にあるケーキ屋さんにケーキを買いに来たお母さんと幼いお嬢さんが、帰りにウチのキャンピングカーを見て

「こんな車で旅行してみたいね~」

盛り上がり、その場でレンタル契約したまではよかったが、後日、お父さんがキャンピングカーを見たらその大きさにビックリして

「え???
 俺、今からこんなにデカイ車運転すんの???
 無理! ヤダ! 断る!」

言ってゴネ、出発直前に運転を拒否し始めた。
どうやらお母さんは単身赴任中のお父さんの了解を得ずに申し込んでしまったようで、
「こんな話は聞いてない!」
から始まって
「そんなこと言ったってあなた!
 アタシが運転できるはずないじゃない!ペーパードライバーなのに!」
まで、いろんな罵り合いが私の前で展開されたが結局、母と娘に説得されたお父さんが真っ青な顔をしてハンドルを握り出発していくこととなった。

「ご主人・・・・・・大丈夫そう、ですか?」
「いいえ。まったく自信がありません」

私は、これまでの人生で40を過ぎた男があれほど真っ青になるのを見たことがない。そしてそれは見送る側の私も同じことで、

「ああああああ・・・・・!
 あのお父さんの運転で、ホントに大丈夫かぁぁああ!?!?」

(笑)
こういった経緯があって【お客様の安全と、私の心労を軽減するため】私は多くのお客様を試乗に誘っている。


そして試乗をしていると可愛らしいお客様とお話をすることもよくある。それは幼い子供たちで、助手席に座っている私の後ろにやってきて

「ねぇ、おじさん。ちょっと私の話を聞いてくれる?」

お父さんもお母さんももう聞き飽きているんだろう。おしゃべりな子供が私にたくさん話しかけてくる。中には突如、ご両親の馴れ初めを話し出すおこさんもいて、慌ててお母さんが子供の口を遮ることもあったりする。(笑)
先日も、楽しい会話で試乗が盛り上がった。

小学校低学年の女の子が私に向けて話し出す。

「私、お皿を割っちゃったの・・・でもね、私・・・割ってないって嘘ついたの。
 そしたらお母さんがね
 『じゃ、誰がこのお花のお皿を割ったの?』って聞くから、
 『弟が割った』って私、嘘をついたの。
 そしたらお母さんが
 『1歳の男の子が、こんなところに手の届くはずがないじゃない』
 って私を怒るから、私大声で泣きながら『私じゃない』って言ったのよ。
 おじさん、一応言っとくけど・・・・・・嘘泣きね。
 でもね、お母さんったら、私の言うことちっとも信じないの。
 ひどいと思わない?」
「そうなんだ・・・・
 お父さん。そのマリンスタジアムの信号、イオンの方に曲がります」
「・・・・・はい」
「それでね。最後にはちゃんと『ごめんなさい。私が割りました』って正直に言ったのよ。
 そしたらおじちゃん、お母さん、なんて言ったと思う?」
「さぁ・・・・なんて?」
「『どうして最初っから本当の事言わないの?』って言うのよ。
 こっちは泣いて謝っているんだから、もうそれでいいじゃない?
 どうして、泣いて謝っている私に、そんなこと言うんだろう」
「うーーーん、どうだろう・・・・。
 お父さん。免許センターの角、左に曲がって幕張本郷方面の陸橋を渡ります。」
「・・・・・はい」
「ねぇおじさん。私の話、ちゃんと聞いてくれてる??」
「うん。ちゃんと聞いてるよ。
 でも、やっぱりおじさんも最初から本当の事言った方がいいかなぁって思うよ」
「おじさん・・・・お母さんの味方?」
「味方とか・・・・・そういうわけじゃないんだけど。」
「わたし、おじさんってもっと優しい人かと思ってた。」
「いや、その、なんというか。
 お父さん。幕張インターを船橋方面に入ってください。」
「はい・・・・・・町野さん、すみませんね」
「(笑)いえ・・・・大丈夫です。新鮮で、楽しいです」

そんな話をしながら今日もウチのキャンピングカーは幕張免許センター前の陸橋を【お客様の安全と、私の心労を軽減するため】に越えていく。


「まちのキャンピングカー屋さん」では個人情報保護の観点から、
「可愛らしいお客様」の言い分を若干脚色、変更してお伝えしております。

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