横浜市RPAの成果による過度な期待を目の当たりにした
忙しい人の為のアジェンダ
・横浜市の業務自動化の成果は数字ほど大きくない
・RPAで人減らしが発生するのは随分と後の話
・横浜市のRPAへの取り組みは賞賛されるべき
そもそもRPAとは?
簡単に言うと、PCを人間の代わりに操作するソフトウェアのことです。今回の横浜市の事例で活用されたWinActorの公式HPから紹介文を拝借します。
RPAとは「Robotic Process Automation /ロボティック・プロセス・オートメーション」の略語で、ホワイトカラーのデスクワーク(主に定型作業)を、ルールエンジンやAI(人工知能)などの技術を備えたソフトウェアのロボットが代行・自動化する概念、と定義されています。
つまり、PCによるデスクワークを自動化できるソフトなんです。
RPAで誤解されやすい表現
※この記事のきっかけとなったIT Leadersさんの記事よりタイトルを抜粋
これだけ読むとRPAに凄く期待しちゃいますよね。(期待できなくても、もう少し下まで読んで欲しいです...!)
実際に、凄そうに見えた方も多いみたいで省人化を危惧する記事を書いた方もいらっしゃいました。
99.1%が削減ということは、その仕事って「まぼろし」だったのではないかと思うほどです。その業務を定常的に実施していた職員は確実にいるわけで、「RPAによる人減らし」は、破壊的な威力を持って現場を荒らしに荒らしているとしか言いようがありません。
まだ人減らしに直結するような成果ではない(私見)
理由は以下の通りです。
・成果が極端に限定的である
・運用の工数を考慮していない
・勝手に働き続けてくれる訳ではない
(下2点に関しては色んな人が論じているので、解説は不要かもしれませんが)1点目を誤解している人が多そうなのでちょっとグラフ化してみます。
削減時間はどの程度?
こちらに掲載されているPDF文書(以下、報告書)を読ませて頂きました。
確かに、見出しの通りの割合が書かれていますね。
ちなみに想定年間削減時間の合計時間は約574時間です。(切り上げ)
さて、この数字が来年度よりどのような変化を巻き起こすのでしょうか。
全職員の勤務時間をどれぐらい削減したのか
横浜市の職員の人数:35,890人
横浜市の職員の1日の標準勤務時間:7時間45分
横浜市の職員の年間平均出勤日数:240日
※横浜市の職員の想定年間残業時間:250万時間(課長補佐級以下)
標準労働時間だけで6700万時間程度なので残業時間は誤差かもしれませんね。これをRPAで自動化された574時間と比較すると以下のようになります。
グラフにするまでもなかったですね...
え?全組織に導入した訳ではないですって?おっしゃる通りだと思います!
導入組織の勤務時間をどれぐらい削減したのか
数えましたよ組織図から導入組織の人数...!(間違ってたらごめんなさい)
総務部 総務局 法制課:19人
総務部 総務局 労務課:31人
総務局 しごと改革室 ICT基盤管理課:23人
財政局 契約部 契約第一課:23人
健康福祉局 生活福祉部 保険年金課:45人
健康福祉局 高齢健康福祉部 地域包括ケア推進課:31人
会計室 審査課:18人
そして、今回は残業時間の計上は勘弁することにしましょう...
(また、会計室も削減時間の結果を計上していないため数えません。)
つまり、172人×240日×7時間45分=319,920時間 となります。
全職員の0.5%程度となると2桁も差がある勤務時間になりますね。
依然として誤差の範囲ですね。
それもそのはず、まだ導入組織の稼働時間の0.18%程度の削減なんです。
でも職員数人分は仕事がなくなるんじゃないの?
1人×240日×7時間45分=1,860時間
574時間はざっくり0.3人分のお仕事って所でしょうか?
もし、全職場で導入したらどうなる?
WinActor構築の難易度や運用の稼働を考えたら10年以上必要になりそうな気がしますが。
現状の割合を全組織に反映すると...
6700万時間*0.0018=12万時間→64人の職員の削減
64人ともなるとそれなりに影響が及びかねないですね。
日本の人口減少とどちらが早いかは分かりませんが...
(そもそも、現状の250万時間の残業時間の削減が優先なのでは?)
ちなみに、人減らしがまだ起きない他の理由は?
・成果が余りに限定的である
・運用の工数を考慮していない
・勝手に働き続けてくれる訳ではない
RPAってのはとにかく良く止まるんですよね。お掃除ロボットのルンバを想像してもらえればわかると思うんですけど...
人間がルールを作って動くタイプのロボットはとにかく予想外の事象に弱いです。例えば、以下のような事象で止まります。サクッと。
・ブラウザの仕様変更(フォントが変わる、など)
・サーバーエラーによるアクセス不可
・ロボットの気まぐれ(これマジ理不尽なんですよ)
しかも。途中からの作業がヤバいことになってるパターンも多いんですよ。
支出スケジュールの予定表への登録業務を例に考える
(ちょっと図の編集が雑ですが、)
以下のRPAの作業がちょうど半分の所で止まったとします。
「え?こんなのもう1回動かせば良いじゃん?」と思うかもしれませんが、そうは問屋がおろしません。自動化された内の半分まで動いたということは、前半の分のスケジュールは登録済みとなっています。
つまり、残り300分のスケジュールを手作業で行うか、前半300分のスケジュールの取り消しを手作業で行うか、どちらかを実施する必要があります。
もし、自動化を担当した人が途中で止まった場合のリカバリーも自動化していれば良いのですが...横浜市職員の方の難易度の所感を見る限りITリテラシーが高い方は少なそうなので、そこまで考慮して作成できる人は稀でしょう。
つまり、横浜市職員の人減らしは起きないのか?
向こう5年ぐらいはRPAの浸透に時間がかかると思いますし(今回RPAに触れた職員の方は全体の0.5%程度)、RPAの導入が原因の職員数の減少は解雇が発生するほどではないと予想しています。
それでも、先ほど紹介した省人化を危惧する記事に書かれていたような定型化されたルーチンを正確にこなすことが得意な人にとっては心穏やかではないかもしれませんが、ほとんどがマニュアル化されているであろう公務に置いて彼らの活躍の場はしばらくなくならないと思います。
むしろ、定型業務が得意な人が定型業務を担当し、そうでない人が非定型業務を担当するような、業務の振り分けや新たな制度設計がマネージャー層に求められると思います。
そもそも横浜市は本当にスゴい!
新規業務に着手するセンス
RPAの応用は現業の効率化と新規業務の創出の2種類に分類されると思ってます。このトライアルのタイミングで新規業務の創出に着手するのは勇気のいることだと思います。恐らく、横浜市役所の会計室には優秀な人材がいるんでしょう。
BPR重要性を強く認識している
RPAに限らない話ではあるんですが、ITの導入において最も大事なのが既存の業務の整理と可視化なんですね。重複している業務や、やる必要がない業務が当たり前のように存在しうるので。
個人的には、Excel単独の処理はVBAを使った方が良いという意見に横浜市の未来の明るさを強く感じました。ICT基盤管理課(情報システム部門みたいなとこ?)に優秀な人材を配置してますね。
【用語解説(簡易版)】
BPR:業務内容やフローの見直しや再設計すること
VBA:Excel等を自動で処理するためのプログラミング言語
何故ネガティブなタイトルにしたのか
過度な期待。ダメ。絶対。
ITmediaさんのハイプサイクルを解説した記事を読んで頂けるととても分かりやすいのですが、新しい技術に過度な期待を抱くと必ず幻滅期がやってきます。上の図では安定期まで描かれていますが、実際は幻滅期にて利用されなくなる技術も多いです。そのため、世の中のRPA関係の皆さんはできるだけ幻滅しないように期待値を調整して欲しい気持ちです...
このニュースのタイトルはあくまで事実ベースで書かれていると思います。ですが、人によっては勘違いしかねないタイトルであることを知って欲しいです。
横浜市の真の成果とは?
これは私個人の意見なのですが、RPAって即効性のある業務効率化を目的として導入するものではないと思ってます。(Saas等活用の方が効率化の効果がありますからね。)
RPA導入を通じて、「誰もが業務にITを活用する文化」を取り入れる、ために導入するものだと思っています。
【理想的な文化の変遷】
・RPA(今回はWinActor)の有効性が認められる
・RPAソフトウェアが誰でも触れるような環境になる
・RPAを活用する人と活用しない人のアウトプットの差が生まれる
・評価を上げるためにみんながRPAソフトウェアを活用するようになる
こんな感じに横浜市が変化していって、他の自治体に良い影響を及ぼしてくれるととても嬉しいなぁと思ってます。
※もしかしたら、自治体の中で先駆けとなったつくば市の影響を受けた結果の今回の事例なのかもしれませんが。つくば市のスピード感はいつも本当に凄いです。
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