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ピアノのキーを叩く肉球 〜 デイジーの想い出


ピアノを聴く(実際はそのフリだけ)ネコは2匹ほどいるが、デイジーはピアノを弾くネコだった。そして明らかに楽しんでいた。その頃あまりYouTube などを見ずに、ビデオに録っておくということを真剣に考えなかったので証拠はないが、彼女の即興曲は15分程の立派なピースだった。それが生まれるタイミングは私がピアノを弾いている時に限った。つまり自発的にピアノを弾こうということはなく、私が弾いている最中に思いついたように膝に飛び乗って来て、そこから鍵盤へジャンプして演奏を始める。そして私が席を立った時が終わりになる。カメラを取りに行こうと席を立つと、どんなにそ〜っと立ってもオルゴールに蓋をするかのようにぱたと終わるので、やはり録れた試しがなかった。今ではピアノを弾くネコはネット上では珍しくなく、オーケストラを率いてコンサートを開くネコもいるようだ。もっと綿密に計画してでも世に残しておくべきだった。彼女はその数年後に他界してしまったのでそれらは遺作となってしまった。

デイジーのオリジナルのピースは明らかにパターンがあり、テーマがあった。それには私が思いつかないヴォイシング(和音)やインターバルが使われた。というのも彼女の歩幅は一定なので、同じ音の組み合わせが幾度か登場する。人間は指が届くところから曲が出来やすいとわかった。当然といえば当然だが、鍵盤は人間の指のサイズに合わせて設計されていたのだ。猫の肉球はひとつのキーの1.5-2倍のサイズなので、不協和音が僅かに前後に重なり合って微妙な世界を創造する。要は指で弾くか手で弾くか、はたまた手で弾くか足で弾くかの違いだ。この音の分析は彼女自身も楽しんでいたようで、鍵盤の上を行ったり来たりすることからインプロビゼーションは出来上がっていった。なので人間のように、椅子に座って2本の手(前足)を動かす図を想像しないでほしい。足が4本あって鍵盤の上を右往左往できるのは、アドバンテージだったのだ。どこかのジャンルに入れるとしたらそれは現代音楽風のサウンドだった。カッコイイ。同じ速度では歩かずに、一時停止したり走ったりもする。明らかに音を聴いて、作曲していた。
    多くのネコと暮らしてきてピアノを弾くことに楽しみを見出したのは彼女だけだったので、やはりどちらかといえばネコにとっては奇特な趣味といえるかもしれない。


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