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井の中の滝壺

はるか遠くで、景色は流れてゆく。 世界は動いてゆく。
それは流れ落ちてゆく滝のように、太陽の光を反射してきらめいて、時には月の満ち欠けを知らせるように響いていて。
激流が到達した、終わりの一つたる池のなかで、同じように太陽と月をつるつるの体に映す小石。 成り行きに研磨されてきたいびつな体は、澄み切った水の中にすこしだけ不釣り合いに濁りを落とす白色。
それが私。

新たな流れへとつながる水路が遠くに見えている。
滝壺が作り出す波紋をわずかにその身で感じながら、じっと、そっと、ずっと。 ここで眺めている。 水草に頭をもたせかけて、泳ぐ魚たちを見物している。
遠くから響く動物の声は感情のままに喜び、争い、分かち合い、憂い、どれも等しく滝壺の音に紛れて消えていく。
虚しさは石の中へ消えていく。

太陽が出ているあいだ、浅瀬はほんとうに過ごしづらい。
生温い、動物たちの体温。 隠していた、泥と土の汚れが舞い上がる。
すこしずつ沈んでいきながら、いずれこの一部となりゆくことを恐れるがゆえに忘れて、夜には濁りが消えていることを願う。
月の輝きをいちばん綺麗に受けるために。

はるか遠くで、景色は流れてゆく。 景色は動いてゆく。
それは流れ落ちてゆく滝。


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