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運輸運送業のため「働きやすい職場認証制度(ホワイト経営)」ってどんな制度?


こんにちは。タイガー販売促進部です。
皆さんはバス・トラック・タクシーの業界は常に深刻な人材不足ということをご存知でしょうか?

運輸は日本のインフラを担う重要なお仕事なので、人材不足というのは深刻な問題です。

そこで国土交通省主導でこの問題を打破するために新しい制度をつくりました。それが、働きやすい職場認証制度(正式名称:運転者職場完了良好度認証制度)です。

1)何故、運輸運送業は人材不足なのか?

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日本が「働き方改革」という大きな取り組みが実施されている最中なのは皆さんもよくご存知だと思いますが、この制度は「適切な労働時間で効率よく働きましょう!」という前提があります。

これにより今まで【足りない労働力を労働時間で賄っていた】多くの企業にとって、単純な意味での人材不足が分かりやすく露呈してきた…という感はあります。

この前提を観光バス・中長距離トラックなどに当てはめると、人や物を輸送するということは目的地まで自動車を走らせるしかないため、労働時間の短縮を簡単にはできないのです。

まさか、自動車の速度を速くして目的地に前倒しで到着させるわけにもいかないですしね。

それに加えてトラック等は荷待ち時間問題も相まって拘束時間が長くなる傾向があったりと、様々な問題を抱えています。

極めつけは、若い世代の自動車離れです。そもそも免許証を取得しない若者で世の中は溢れかえっています。

免許証がなければ、トラックやバスどころか乗用車すら運転することすらできません。

そのため、運輸運送業では免許証取得にかかる費用の一部負担など含めた、大型免許証や二種免許を持っていない若者でも働ける労働環境を用意している会社も少なからずあります。

悪い条件が重なって兎に角、人が足りないのです。

※現状(2020/11時点)をお伝えすると、コロナ禍の影響で職業ドライバーが余るような現状も一部ございます。本文はあくまで、コロナ禍前の現状も踏まえて記載しています。

2)「働きやすい職場認証制度」のメリットとは?

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そもそも働きやすい職場認証制度とはどんな制度なのでしょうか?公式サイトのトップページでの一文を抜粋させていただきます。

「働きやすい職場認証制度」とは、職場環境改善に向けたトラック、バス、タクシー事業者の取組みを「見える化」することで、求職者の運転者への就職を促進し、各事業者の人材確保の取組みを後押しすることを目的とした制度です。

つまり「働きやすい職場認証」を取得することで、求職者に対して優れた職場環境であることをPRし、人材確保の後押しをしてくれるというメリットがあります。

例えば、ハローワークの求人票への記載、認証事業者へのマッチング支援や求人エージェントへの本認証制度の展開など、幅広く周知できるようにしていく予定となっています。

そこには認証を取得させることで、運輸運送事業者の職場・労働環境の改善を促したいという国土交通省の狙いも見えてきます。


さて、本制度の骨子に係わる仕組みの部分も簡単に説明していきたいと思います。

本制度は1つ星~3つ星までの3つのランクが用意されています。因みに今年(2020年)は本制度の初年度になります。

そのため、2020年度に取得できる星は一つ星のみとなっています。

本制度では以下5つの取り組み要件を満たせば、

A.法令遵守等    9項目
B. 労働時間・休日    3項目
C. 心身の健康              4項目
D. 安心・安定    8項目(タクシーは10項目)
E. 多様な人材の確保・育成 1項目

1つ星の認証がとれる仕組みとなっています。次年度はMax2つ星、三年目からはMax3つ星が取得可能です。

いずれにしても1回で3つ星はとれないのでその点は誤解なきよう。

本制度の認証実施団体は「一般財団法人日本海事協会」になります。

因みに認証を取得するには、審査(要審査料)を受ける必要があるのと審査が通った場合に登録料を収める必要があります。

①審査料: 5万円(税別)/1申請あたり
(インターネットにより電子申請の場合、3万円(税別)に割引)
②登録料: 6万円(税別) /1申請あたり

後は、申請したい営業所の数だけ審査料も登録料も金額が加算されるので、その辺も意識した上での申請が必要です。

因みに紙で申請するより電子申請の方が早くて安いので、選択の余地は無いように思います。

様々な申請書類を準備する必要はありますが、人材確保につながる強力な武器として期待ができる制度と言えます。


3)働きやすい職場認証制度のポイントとは?

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この制度の審査基準は6つの要件を満たしていれば、一つ星を取得することが可能なわけですが、6つの要件はさらに25~27の評価項目に分かれており、各条件をクリアする必要があります。

ここから先の内容については公式サイト2020年度 申請案内書 ダウンロード』のページから取得した申請案内書をベースにお話をいたします。

P33~35をご覧になりながら以下の内容をご覧いただくと分かりやすいです。

ここからは申請案内書の審査内容についての各項目の要約と認証取得のためのポイントを記載していきたいと思います。

A.法令遵守等 9項目

基本的には一般法令に対応した運用をしていれば、ここは普通に通ります。ポイントは以下の通り

1.労働基準法違反をしていない
2.労働基準法違反で送検されていないこと
3.中央労働委員会等から救済処置が出ていないこと
4.貨物自動車運送事業法関連の行政処分が累積20点を超えていないこと
  注)行政処分がある場合は各内容すべてに改善報告書類の提示が必要
5.就業規則の提出(10人以上の場合は受付印押印されたものが必要)
6.36協定の提出(10人以上の場合は受付印押印されたものが必要)
7.労働通知書(労働条件を記した書類)の写し
 ※注)本人に渡してあることが前提
8、9は割愛します(通常あり得ない内容のため)

細かい説明は割愛します。なんというか・・・法令順守してください。

B. 労働時間・休日 3項目

項目は3つで少なそうに見えますが、実は11番の項目はさらに細分化されており、①~⑬の内容の中で最低3つ以上(合計6点以上)の条件を満たしている必要があります。
因みにここが内容的には重要な項目になります。

10.拘束時間並び、休日限界労働時間を超えて、行政処分の累積点数が5点を
 超えていないこと
11.労働時間、休日に関する規定を契約や規則で定めていること
     注)①~⑬の項目の内最低3つクリア
12.時間外労働時間、休日労働時間を賃金台帳やソフトで管理していること

「11」は①~⑬の中の項目のうち最低3つ満たしていることが条件と前述しましたが、その中でもクリアしやすそうな内容をピックアップしてみました。

「⑨特別有給休暇制度」
「⑩拘束時間、運転時間、休憩時間、休息時間を一覧形式で管理…」
「⑪デジタコを分析ソフトを用いて運用している」

「⑨」は慶弔休暇を設けていない会社は珍しいので自然と加点対象になります。「⑪」はデジタコを装着している会社であれば、分析ソフトも間違いなくお使いだと思います。「⑩」は「⑪」を満たしていれば、分析ソフトに同機能がある可能性が高いので加点にしやすいと思います。

C. 心身の健康 4項目

この項目は中々難しいところがありますね。

13.労働安全衛生法に基づき、~中略~ 安全衛生に関する従業員の意見を聴くための機会が設けられている。
14.健康診断受診義務違反に対する行政処分による違反点数を受けていない
15.所要の健康診断を実施し、その記録・保存が敵世知に行われている
16.心身の健康に関する先進的な取り組みを実施している
注)①~⑥の少なくとも3つクリア

「13」従業員からの意見を聴く場や、実際に聞いた意見の議事録などが保持されていることがポイントです。「14」「15」は健康診断を実施し、記録・保存がされていれば問題はありません。
但し、「15」は50人以上の事業所の場合は定期健康診断1回分の写しと労働基準監督署の受付印が入ったものを提出する必要があります。

「16」も「11」と同じで詳細項目の中の3つ(6点)を満たしていれば良い形です。こちらは少しハードル高めですが、以下などがクリアしやすい項目と言えます。

④管理職や人事担当者による人事面談を年1回以上実施している
⑤パワハラ、セクハラ等のハラスメントの相談窓口となる部署~省略~
⑥その他、上記項目に該当しない心身の健康に関する取り組みを実施

④は年1回の人事面談ができていれば問題ありません。⑤は少々ハードルが高いのですが、社内にハラスメント窓口の担当部署・連絡先の掲載されたものを掲示・周知していればOKです。⑥自由記入項目なので、社内で行っている取り組みを記載できれば良いのでクリアしやすい項目と言えます。

D. 安心・安定 3項目

17.社会保険等加入義務違反の行政処分による違反点数を受けていない
18.社会保険等に適切に加入している
19.運転者の安心・安定のための先進的な取り組みを実施している
注)①~⑥で少なくとも合計4点以上になること
20.交通事故を発生させた場合の違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をしていないこと
21.最低賃金法違反に対する行政処分による違反点数をうけていない
22.最低賃金以上の賃金を支払っている
23.歩合制度がある場合でも各運転者の労働時間に応じて6割以上の賃金が保証されている。あるいは歩合制度を採用していない
24.時間外労働、休日労働、深夜労働の割増賃金を支払っている
25、26はタクシー限定の内容なので割愛いたします。

「17、18、20~24」は何をか言わんやな内容なので、問題は「19」です。他の項目と同じように①~⑥で最低2項目クリアしている必要があります。

④定年廃止や定年延長又は再雇用により、65歳を超えて働ける制度がある
⑥他項目に該当しない運転者の安心・安定のための取り組みを実施している(自由記述欄に取り組みを記載)

内容を見て中々厳しいものが多いと感じたのですが、④、⑥が内容的に言うと一番クリアしやすいのではないでしょうか?後は疾病、疲労を測定する機器などでドライバーの管理をしている場合なども、そういった機器を導入していれば有効です。

E. 多様な人材の確保・育成 1項目

この項目は1項目しかないのですが、例によって細分化した①~⑧の内容の内最低3つクリアしている必要があります。

多様な人材の確保・育成のための免許・資格取得支援制度を設けている
注)①~⑧のうち3つクリア(合計6点)

社内で行っている支援制度がメインです。各種免許支援(大型免許、フォークリフト、クレーンなども含む)や女性ドライバー支援、育児支援など・・・何かしらの支援をしていれば、おそらく3項目くらいは該当するのではないでしょうか。

①~⑧の中だと⑧は何かしらの制度を設けている会社が多いので、クリアしやすいと思います。

⑧運転者が利用できる福利厚生制度を設けている

社員寮、空き家紹介制度、住宅手当、転居手当などが例として該当します。
これで全部になります。

細かく内容を一つ一つ紹介するときりがないので、ポイントに絞ってお話しました。

補足ですが、どの内容も事務局から監査に入られた場合を想定して、エビデンスを整えておく必要があります。就業規則、36協定書、労働条件通知書(1営業所任意1名分)、健康診断結果(1営業所任意1名分)、労使協定書、各項目を実際に実施しているという証拠書類や、議事録など…ありもしない社内の制度をさもあるように見せると碌なことがありません。

申請案内書のP33~35の表の一番右に「保管書類」というものが記載されていますのでそちらを必ずご確認ください。

後は、1つ星の評価には関係ないのですが、P36~37に記載されている参考項目も後の2つ星の評価の参考にされるようなので、意識しておいた方がよいでしょう。

4)この制度は人材獲得の起爆剤になるのか?

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あくまで私の主観であると前置きいたしますが、結論から言うとスタートダッシュをすれば人材獲得の起爆剤にはなると推測しています。

所謂、先行者利益というやつです。

ただ、この制度の仕組み上ですが、制度の運用年数が経過するごとにありがたみが減っていく可能性が高いです。

この認証制度を取得しないことがいずれ企業にとってマイナスにしかならない時代が来るはずです。

取得するのが当たり前になれば、取得していないと人材が集まらなくなるので周りの企業は必ず取らなければいけない制度になってくるのが目に見えています。

故にこの制度は取得ができるなら、初回から取得した方がよい制度だと思います。

この制度の悩ましいところは二つあります。

新規参入したばかりの企業は取得までに最低3年間リードタイムができてしまうので、その間は人材確保が難しい状態ができる(続く)のではないか?というとこが一点。

もう一点は認証を取ることが自体が目的となり、実態に伴わない運用にならないのか?というのは課題になりそうな気はします。

日本のインフラを担う大事な業種のはずが、古参の運輸運送業にのみ恩恵が受けやすい環境にならないのか少々心配ではあります。(まあ、そこまでは計算済みの制度なんでしょうけど)


とはいえ、現時点を言うならコロナ禍の影響で人材確保に困ってはいないかもしれませんが、今後無視することができない制度になることは容易に想像がつきます。

こういった取り組みの先に国が期待する運輸運送業にあり方が見え隠れしているように思いますが、運輸運送業の固定費や初期費用がこれにより下がるわけではなく、むしろ上がっていく未来しか見えないのは問題点のように思います。

車両が余って人が足りない状態よりは勿論良いことだと思いますが。

このように運輸運送業では人材の確保・教育、各種車載器搭載による先進化・車両の維持費・燃料費、社内のシステム化に…お金がかかることは沢山あるわけで、利益率3~5%と言われているこの業界にとって、この制度による事業の可視化が企業にとって良い働きをすることを願うばかりです。