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時が動いた日~J1昇格プレーオフ決勝戦

平常心を保ちたかった、決戦の日


2023年12月2日。土曜日。

時刻は午前8:00を回ったあたり。朝マックを片手に国立競技場に到着し、仲間と合流。

もはや年の瀬まで一ヶ月を切っている中、普段と変わらないルーティン。

この年、観戦スタイルは大きく変わりました。試合開始ギリギリではなく何時間も前に来て、仲間たちと談笑しながらスタグル の列に向かい、今日の試合についてああでもない、こうでもないと話すのが当たり前になっていました。

スタジアムに来て一年目、誰とも会話せずスタジアムを去ることも珍しいことじゃなかった昔の俺。こんな日常が来るなんて、思ってもいなかったな。

しばらくして集いのメンバーが次々と集まる。久々に顔を見せるやつもいた。今季最後だからと記念撮影をしました。
「フラグになんなきゃいいな」
「やめてくれよ笑」

なるべく、平常心でいたかったんです。
間違いなく緊張して胃が痛くなるだろうし、この試合の大事さを意識しすぎるとパフォーマンスが落ちる気がしました。

選手たちはもっとプレッシャーが半端ないはず。
だからなるべく、いつも通りのいい雰囲気を作ってあげたい。
だからなるべく、リラックスするようと心がけてました。

そして程なくして国立に入り、決戦の時がきたことをあらためて感じました。

15年分の想い


会場に入って、席を取る。
3年ぶりにくる友達を今日は久しぶりに呼んでました。
本当はもっと前から声かけはしていたけど、なかなかタイミングが合わずに実現しなかった。
でもこの試合に来てくれるっていうのも、それはそれで、運命を感じた(?)

試合開始が近付く。
あまり、「J1を決める」って思わないようにしてました。
心の中で、叶わなかった時のダメージが最低限になるように、保険をかけてたんだろう。
全く、腑抜けだぜ。それでもサポーターかよ、俺。
その代わり思ってたのは、「悔いがないサポートをする」「全力を出し切る」ことでした。

そして、しばらくしてコンコースで決起集会が始まる。
「15年、ここまでやっと来た。
選手たちが頑張ってくれて、ホームで出来る。引き分けでも勝てる。
このクラブは無くなりかけた。悲しいことや辛いことがたくさんあった。
その気持ちをエネルギーに変えて、今日絶対勝とうぜ!」
チャントが始まる。みんな競るように飛び跳ね、チャントを歌う。

気持ちが最高に高まる。
弱気になったらダメだ。
勝ちたい、J1に上がりたいっていう気持ちを応援にぶつけよう。
絶対やってやろう!

そしていつものルーティンが始まる。
いつも以上に緊張する。すぐ喉が渇く。以前にも何度かこんな試合は味わったけど、それ以上に感じた。

友人にほぼ最前列ということを伝えずに連れてきてしまい、最初めちゃくちゃ戸惑われていた(ごめんなさい)
しかし徐々に手拍子、チャントをしてくれるようになっていった。

そしてキックオフ前に、コレオの準備に入った時、ふと上層とバック、メインを見渡した。
信じられない光景だった。
3階層まで緑の服でぎっしりと埋まり、メインやバックも席が見えないほど埋まっていた。
2000人を割ることもあり、4~5000人入れば「今日は多いな」と思っていた日々。
J1の試合に行くたびに、ここは別世界だと言い聞かせてきた。
その光景が目の前にある。
自分の目に映っているものが信じられなくなって、目頭が熱くなった。


試合が始まって、いつものように飛び跳ねていたけど、いつもより喉が枯れるのも早く、体が痛くなった。

一つ一つのプレーのたびに、緊張が止まらなかった。
これが、何かがかかった試合なのか。

今年の最終節も、5年前のプレーオフ横浜FC戦も、そういう試合だったはずなんだけれど、比べ物にならない緊張していた。

スコアは動くことなく、ハーフタイムへ。

心が折れかけた瞬間

あと45分。このまま守り切れればJ1。あわよくば、ゴールを取りたい…。

しかし現実は、甘くなかった。

63分。ロングボールからこちらのPA内で競り合い。バウンドしたボールが森田の手に当たってしまう。

長い笛。ペナルティスポットが指さされる。

嘘…だろ…

止めてくれという希望も空しく、チアゴサンタナのシュートがゴールネットに突き刺さり、痛恨の1点が清水エスパルスに。

正直に言います。

まだ残り時間があるのに、心が折れかけてしまった。

またダメなのか。伸ばしかけた手を払いのけられてしまうのか。

せっかくここまでやってきたのに。

過去の辛い記憶たちが、フラッシュバックしてくる。

そして昇格を逃したことで待ち受ける、辛い未来が脳裏に浮かび始める。

想いが通じた一瞬

試合はいよいよATに差し掛かろうとしていました。

何かが起こるような気配は、まだない。

既に足はパンパン、声もとっくに枯れて何度も飲み物を口にした。

もはや気力だけで、叫んでいるような状態だった。

しかしその時。PA内に入ったロングボールを染野が納め掛け、決死に清水DF高橋にクリアされた。

その時、フラッシュバック仕掛けていた記憶が、塗り替えられ始めた。

そうだ、思い出せよ。

このチームは今季今まで出来なかったことを、何度もやってきたじゃないか。

2点差をひっくり返したことも、ATの最後のFKに合わせて勝ったことも何度もある。

逆に相手を圧倒して勝ったことなんて、数えるほど。このチームの強さはあきらめないこと、ワンプレーで何かを変えること。

1点取ればいいだけだ。

何かを起こすワンプレーがあれば、追いつけるかもしれない。

そう!引き分けでも勝てるんだ!

表示されたATは…8分!!!!

十分だ!やれる!

誰も諦めてなんかない!力を振り絞れ!

運命のPK

そしてついに「その時」が来ました。

ライン際で清水ボールになりかけたところをハイプレスで奪う、そして前線にロングボール。

ボールを収めて、ゴール前へ。遠くて見えないけど、誰かが前に向かう。

倒される。数秒後に、長い笛。

ビジョンにでかでかと表示された「penalty kick」の文字!

PKだ!!!!!!!

VARが入るかと思われたが、交信はしていたもののOFRはなし。誰が見てもこれは妥当だったようだ。

友人がハイタッチを求めたけど、落ち着いて「まだ」と伝えた。

ボールをセットする染野。

運命が決まる。

オレンジ一色に染まったアウェイゴール裏から地鳴りのようなブーイングと相手キーパーへのコールが聞こえる。

ゴール左隅を狙ったシュートは…相手GKの伸ばした手を弾き…ゴールネットに突き刺さる!!!!!!!!!!!!!!!

緑に染まったゴール裏で抱き合う俺たち。歓喜が爆発しカオスと化していました。

まだゲームは終わっていない。しかしこの土壇場で、ついにJ1昇格を手繰り寄せるゴールが生まれた。

残り時間はあと何分かわからない。しかしもう再度勝ち越されるような恐怖はありませんでした。

そして自陣でのロングスロー、競り合いの中天空にボールがぽーんと蹴り上げられ…

試合終了の笛が、国立競技場に響き渡る!

時代の流れ、人の夢


GKマテウスがトラックを走り出す。ベンチから選手、監督が飛び出し、ピッチ上の仲間たちに抱きつく。

そして、再び抱き合う俺たち。

一年ともに戦った顔もいる。

今日初めて会う顔もいる。

でも、関係ない。このクラブの歴史が大きく変わった瞬間の当事者だ。

涙ながらにインタビューを受ける受勲者のソメ。キャプテン森田。そして俺たちの指揮官・城福監督。

J1昇格のボードが天高く掲げられ、昇格記念Tシャツへと着替えてトラックを周り、いつものセレブレーション。

いや、いつもじゃない。スタッフも、控えメンバーも、社長も、ボールボーイを務めたジュニアユースの子たちもみんな一緒だ。

J2最後…とはまだ言う権利はないかもしれないけど、J1昇格を掴んだ最高のラインダンス。

そして写真撮影。この時間、この空間がいつまでも続いて欲しいと思うほどだった。

応援を終え、友人を送り周りと健闘を讃え、祝勝会へと向かう。

料理に舌鼓を打ちながら、苦しい時代から何年も辛抱強く支えてきた人からは昔の苦労話をたくさん聞かせてもらう。

逆に今年から新しく来た人からは、このクラブを応援し始めてからの発見、新鮮に感じた出来事を聞かせてもらう。

長年応援し続けて、いつか待ち望んでいたはずの日なのに、あまり実感は湧かない。あまりにもJ2にいることが、当たり前になりすぎた。

でも、感じる雰囲気はいつもと全く違う、成し遂げたという達成感に満ち溢れていました。

来年からは、さらに壮絶で大変な世界が待っている。

でも今は、過ぎ去った日々、歴史に思いを馳せて楽しい時間を過ごしたのち、解散しました。

2023年12月2日。
それはこのクラブの長く止まっていた時間が、ついに動いた日…

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