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【インタビュー】尚玄さんの全てが詰まった『義足のボクサー GENSAN PUNCH』①

みなさん、こんばんは🌙
東京国際映画祭 学生応援団です。

今回は、2回に渡って映画『義足のボクサー GENSAN PUNCH』についてのインタビューをお届けします!主演の尚玄さんに映画や尚玄さん自身についてお話を聞いてみました🎤

第1回目は『義足のボクサー GENSAN PUNCH』という作品の制作経緯やメンドーサ監督、役作りなどについて伺いました。ぜひ、お楽しみください!

『義足のボクサー  GENSAN PUNCH』作品概要

〈作品情報〉
『キナタイ -マニラ・アンダーグラウンド-』(09)で第62回カンヌ国際映画祭監督賞を受賞したフィリピンの名匠ブリランテ・メンドーサ監督作品。不条理な社会でもがきながら懸命に生きる人々を撮り続けてきた社会派監督が、義足のために日本でのプロボクシングライセンスが取得できず、フィリピンに渡りプロボクサーを目指した実話を基に、夢をあきらめない若者を描いた感動の物語。
主演は沖縄出身で国際的俳優として活躍している尚玄。本作ではプロデューサーのひとりに名を連ね、ボクサー体型を見事に作り上げた。
公式HPより
〈あらすじ〉
沖縄で母親と2人で暮らす津山尚生は、プロボクサーを目指し日々邁進している。ひとつだけ人と違うのは、幼少期に右膝下を失った義足のボクサーであること。ボクサーとしての実力の確かな尚生は、日本ボクシング委員会にプロライセンスを申請するが身体条件の規定に沿わないとして却下されてしまう。夢をあきらめきれない尚生はプロになるべくフィリピンへ渡って挑戦を続ける。そこではプロを目指すボクサーたちの大会で3戦全勝すればプロライセンスを取得でき、さらに義足の津山も毎試合前にメディカルチェックを受ければ同条件で挑戦できるというのだ。トレーナーのルディとともに、異なる価値観と習慣の中で、日本では道を閉ざされた義足のボクサーが、フィリピンで夢への第一歩を踏み出す。
公式HPより

8年温めた企画が、ついに劇場公開

ーー尚玄さんの中で長い間温め続けた企画だと思うのですが、映画祭での上映や、劇場で公開されたことへの、率直な気持ちをお聞かせください。(たくみ)

 8年間かけた自分の夢が実現して、正直まだ現実味を帯びていないというか、あまり実感がないですね。不思議な感じです。本当は撮影が終わったあとにちょっと、ぽっかり虚無感があって、もうどうしていいか分からない時期もあったんです。

でもそのあと、釜山国際映画祭(21)東京国際映画祭(21)で上映されて、釜山では賞(キム・ジソク賞)をもらえた。自分としても全く期待していなかった賞をいただいてすごく感動したし、今までの苦労も報われた気がしました。

ただやっぱり東京国際映画祭は、自分の家族とか友人が駆けつけてくれて、みんなで同じ時間を共有して一つのスクリーンを観るというあの体験は何とも言えないものでした。本当に感動したし、もう感情を抑えるのに必死でしたね。

第34回東京国際映画祭での舞台挨拶にて

ーー劇場で公開されてから、作品のモデルである土山さんと何か話はされましたか。(たくみ)

お互い改めて言葉を交わすのは、ちょっと照れくさいというか…(笑)
でも、沖縄で先行公開されたときの舞台挨拶で「自分はチャンピオンにはなれなかったけど、自分の半生がこうやって映画になって、そのことでお世話になった人たちに恩返しすることが少しでもできたら嬉しい」と言っていて、それを聞けて本当に嬉しかったですね。

作品によっては原作となった人たちを傷つけてしまうことがある。僕たちの映画もその可能性があったわけだから、本人がそう言ってくれたのは、僕にとってすごく意味のあることでした。

メンドーサ監督との出会いとフィリピンの印象

ーーメンドーサ監督が監督に決まるまでには、どのような経緯があったんですか。(たくみ)

エリック・クー監督(シンガポール生まれの監督。『家族のレシピ』(19)など。)にメンドーサ監督を紹介してもらって、2018年の釜山国際映画祭で初めて会いました。この時はプロデューサーに企画書を渡すくらいでした。そのあと2018年の東京国際映画祭で審査員長として来日したメンドーサ監督と再会しました。そこで色々な話をできたし、「またゆっくり企画の話をしよう」ってフィリピンのスタジオに呼んでもらえました。間髪入れずにすぐにフィリピンに飛んだら、彼の何百というトロフィーが並んでいるすごい部屋に招待してもらって、ディナーをご馳走してくれたんです。そこから少しずつ口説いていって、自分たちの本気度を伝えることができたみたいで、承諾してくれました。

ーーフィリピン、そして題名にある「GENSAN」=ジェネラル・サントスという町にはどのような印象がありますか。(たくみ)

フィリピンはすごく活気に溢れているし、フィリピンの人たちも本当に愛情深かったです。まあ時間にルーズなとこもあるけど、そこはちょっと沖縄に似ていたりね(笑)。

ジェンサンはマグロが有名なところで、ちょっと食事に飽きたらキニラウっていう魚のマリネみたいな料理を食べてました。それが、さっぱりしておいしいからそればっかり食べてました。

©2022「義足のボクサー GENSAN PUNCH」製作委員会

メンドーサ監督の人柄と演出

ーーメンドーサ監督はどのような人でしたか。(たくみ)

初めて会ったときは、巨匠だし、全然言葉を交わせなくて怖かったですね。でも、撮影を共にしてみて、メンドーサ監督は本当に温かい人だなと思いました。ストリートキッズたちに映画に出演してもらって、お金と食事を与えたり、フィルムメーカーになりたい若い子たちを教育したり、そういうことをずーっとやってきた人で本当に人格者。セットで感情的になることもないし、僕にとっては、メンターであり、父親みたいな本当に温かい存在です。

ーークランクインの半年前にメンドーサ監督の家に泊めてもらったそうですが、そのときはどのようなお話をされたんですか。(たくみ)

監督は、「信頼関係が一番大事。自分も君を信じるから、君も僕のこと信じて欲しい」と言っていました。そして、今までの自分の人生のこと、あまり人には共有していない自分の弱さだったり、コンプレックスだったり、そういうことをお互いに共有していきました。他にも日本とフィリピンの文化の違いについても色々と話したりとか、本当に毎日毎食一緒に食事をして、お互いのことを知る作業をしていきました。

そして、同時にコーチのルディを紹介してもらって、同じように時間を過ごしていきました。ナオとコーチの関係性というのがこの映画の核となる部分だったので。
日本の映画作りの現状では、こんなに役作りに時間を割いてくれる現場ってなかなか無いから、そういう意味で本当に恵まれた環境だったと思います。

©2022「義足のボクサー GENSAN PUNCH」製作委員会

徹底した役作りとリアリズム

ーー時間をかけた徹底した役作りが、メンドーサ監督の求める演技、演出と一致した印象を受けましたが、その点についてはどのように思いますか?(たくみ)

それはあると思います。僕自身がニューヨークとかLAでいわゆるリアリズムとよばれている、いろんなタイプのメソッドを勉強してきました。そして、架空の状況で真実に生きるっていう、リアリズムの根本みたいなものをやっぱりメンドーサ監督は求めていたと思います。

「カメラの前で何も特別なことはしなくていい、相手とただ感応するだけでいいから」っていう監督の教えはリアリズムの根本だったと思うし、そういう意味で言うと、僕としては、今まで積み上げてきたものがようやく花開いたというか、色んな意味で合致した現場だったかなと思います。

©2022「義足のボクサー GENSAN PUNCH」製作委員会

ーー感覚が合致したと思った瞬間、どんなことを感じましたか。(ともか)

その一瞬…相手を信じて相手と繋がる瞬間、特にルディ(コーチ役)との瞬間っていうのは、僕の中で本当に父と子のような感覚を味わえたかな。
メンドーサ監督の映画って台詞が極端に少なくて、行間の中で感情の受け渡しがある。ルディや南果歩さん(母親役)たちと、真実にそれができたことが俳優として幸せこの上ない。

注目してほしいところ

ーーここは特に注目して観て欲しいと思うところはありますか。(ともか)

僕自身は特になくて、観てくださった方が観たそのままのものを感じてくれたらと思います。でもとにかく劇場で観て欲しいですね。今回の映画って、台詞が少ない分、ちょっとした表情の変化や、目に宿る部分で繊細な心の機微や、感情の機微を描いていると思うから、やっぱりビッグスクリーンでこそ伝わるものがあると思うので、そういう意味でも劇場で観てもらいたいです!

ボクシングを題材にしてるけど、僕はこの映画を師弟愛だったり、家族愛だったり、そういう普遍的なことを描いているヒューマンドラマだと思っているし、老若男女楽しんでもらえる作品だと思うから、本当にいろんな人に見てもらいたいです!

ーーー第2回に続くーーー

いかがだったでしょうか?
話を伺っていて、この作品に込めた尚玄さんの熱い思いがものすごく伝わってきました。一つの作品にこれほどまでの熱量で挑んだ尚玄さんの俳優としての覚悟に脱帽しました。
第2回目の記事では、尚玄さん自身について深堀りします。お楽しみに!そして、ぜひ劇場へ足をお運びください🏃

〇【劇場情報】

TOHOシネマズ日比谷 6/3~先行上映中

6/10よりヒューマントラストシネマ渋谷kino cinéma立川髙島屋S.C.館
 他全国で公開

〇プロフィール

尚玄 Shogen  / 津山尚生(ナオ)役
2004年、戦後の沖縄を描いた映画『ハブと拳骨』でデビュー。 三線弾きの主役を演じ、第20回東京国際映画祭コンペティション部門にノミネートされる。その後も映画を中心に活動するが、2008年NYで出逢ったリアリズム演劇に感銘を受け、本格的にNYで芝居を学ぶことを決意し渡米。現在は日本を拠点に邦画だけでなく海外の作品にも多数出演している。近年の出演作に『ココロ、オドル』(19)、『Come & Go』(21)、『JOINT』(21)、『Sexual Drive』(22)など。今後『DECEMBER』(23)の公開を控えている。
公式HPより
ブリランテ・メンドーサ(Brillante Ma Mendoza)  / 監督
1960年7月30日生まれ。フィリピン、サン・フェルナンド出身。プロダクションデザイナーとして活動を始め、その後CMディレクターとなり成功を収める。初長編監督作品『マニラ・デイドリーム』(05)がロカルノ国際映画祭のビデオ部門金豹賞を受賞し世界に名を知られるようになる。『キナタイ─マニラ・アンダーグラウンド─』(09)で第62回カンヌ国際映画祭監督賞を受賞。『グランドマザー』(09)で第66回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に出品。イザベル・ユペールを主演『囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件』(12)は第62回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、世界三大映画祭のコンペティション部門に選出された。ダンテ・メンドーサ名義でほぼ全ての監督作でプロダクションデザインも担当している。本作は監督初のスポーツをテーマにした映画である。
公式HPより

(撮影・ともか 取材/執筆・ともか、たくみ)

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