2023/07/21/晴れ・徹夜明け

夜を通り越して朝日を浴びると、へその上あたりから肩にかけてぐっと重くなるようになった。年のせいか、はたまた邪悪な暑さのせいなのか。よく晴れた朝日は、枯れかけている脳みそや澱んだ体を通る血液をすきとおしているようだ。日々の気づきも誰かから聞いた話も全部すきとおって必要なものだけが脳内で再生されていく。不思議と眠気はこないが、なぜだか酒が欲しくなり店で自分用にジントニックを作り、深呼吸をするように香りを鼻に運んでから、ゆっくりと肺から空気を抜いて一気に喉を通す。多少濃く作ったジントニックは、外の明るさと薄暗い店内の対比をハッキリとさせるには十分すぎるほど目を開かせた。

誰もいない店内で相対性理論が流れる。明け方には限りなく相性のいいこのバンドは、朝日が完全に上ってしまうと何故にアンマッチになるのだろうと思いながら、Spotifyが推薦するメタルを大音量で流しながらレジ金を確認して掃除を済ませる。店にカギをかけて、あと何回誰もいない店内を踊りながら、歌いながら掃除できるのだろうと思う。毎回店のカギを閉めるときは夢が覚めたような妙な覚醒感と共に街に繰り出す。ひとつの劇が幕を閉じたような、オーケストラの奏者たちが並んでお辞儀をしているような寂しさに見舞われる。これもあと何回経験するのだろうか。

免許取得のために調布に向かう。初めて訪れる調布という街は少し窮屈で、みなが都心とは違う意味で東京に慣れているように感じた。本当の生活を垣間見た気がして少しだけ懐かしくなりつつ、免許の試験場に向かう。調布を歩いた記録はまた別の機会に記そうと思った。あと数回は訪れることになるだろうから。

試験場に向かうためにバスに乗り込むと、入って一段上がってすぐ左に明らかに輝きの違う美しい女性が窓際に座り、ぼーっと、というよりぽーっと外を見つめていた。空いている席が彼女の後ろしかなかったため彼女の後ろに座るのだが、隣に人も居ないのに変に恐縮して肩をすぼめて小さく座る。箱入り娘で大切そうに育てられた子なのだろうか。声をかける隙もなく、声をかけようものならファンクラブの男か、母親辺りが出てきて遮られそうだなどと思っていると二駅後にすぐ降りた。降りるとき、前に座っていた上品な奥方に彼女は声をかけ降りていった。どうやら母子らしいやり取りを見ていると、数秒間見ただけなのに自分の感覚があまりにもどんぴしゃで当たっているところが妙におかしくなり笑ってしまった。

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