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最も魔法使いに近い人 #テオヤンセン展

前の職場の課長から、急にLINEが来て、何かと思ったら「テオヤンセンが非常に良かった」という話でした。めちゃくちゃ親しいとかでもなく、辞めてから年始の挨拶程度だったのに、急にその熱量で連絡が来たのが嬉しかったです。

ということで、ギリギリスケジュールの合間を縫って絶対に行きたく、年始から千葉まで足を運びました。

千葉県立美術館
美術館の目の前は海


テオヤンセン、あまりよく知らなかったのだけど見に行ったら楽しすぎた!
美術館初心者にこそ足を運んでほしい展覧会だし、千葉でしかやっていないのもったいない。会場が千葉だとしても、せめて都内でももっと宣伝したほうがいいのではと思いました。

テオ・ヤンセンは生命体を作っています。
風を食べて動く「ストランド・ビースト」。
プラスチックチューブ、ペットボトル、粘着テープといった身近な素材から生まれた彼らは、風力を利用してまるで生き物のように自力で動きます。
物理学者でもあるテオヤンセンが、1500もの試作を経て生み出したなめらかで生物的に動く「ホーリーナンバー」という独自の構造が、ストランド・ビーストを生物たらしめています。

ビーストの脚を構成する13の数字の比率
通称「ホーリーナンバー」


アニマリス・プラウデンス・ヴェーラ
江戸時代にオランダと長崎を結んでいた帆船がモチーフ

面白かったのは、テオヤンセンが彼の作品のことを「生命」として扱っていること。彼らには進化系統樹もあり、テオヤンセンの手を離れて自然に増殖もします。というのも、テオヤンセンはストランドビーストの要であるホーリーナンバーの設計図を公開しており、「ちょっと工作が得意であれば誰でも」彼らを自由に生み出すことができるからです。

私もキットで「ミニ・ビースト」を作りました!

本展を見て、「生命の定義」が気になったので調べてみました。
様々にあるようですが、現在最も広く受け入れられている生物の定義は
1.外界と膜で仕切られている
2.代謝を行う
3.自己複製する
の3点だそうです。

このうち、テオヤンセンのストランドビーストは、
1は満たしていますが、2.3についてはいずれも人間の手を借りないといけないため 厳密には生命と呼ぶことはできません。

新しい生命を作る、ということは、実はもう進んでいて、合成生物学という分野では「ミニマル・セル」と呼ばれる微生物がすでに作り上げられています。
その細胞は自然界に存在したことがなかった生命体にもかかわらず、私たちと同じように細胞分裂し、増殖する、「新しい生命」です。
こういったものとは一線を画していますが、逆にそれゆえの、100%新しい生命とは言い切れないものを生命として扱うことの見立ての楽しさも含めて「ストランド・ビースト」の魅力でもあります。

現代アートには見やすい・わかりやすいものと、わかりにくいものがありますが、「ストランド・ビースト」は、作品も趣旨も問いも、非常にわかりやすいです。そんなところが現代アート初心者にもぴったりだと思いました。大人から子供まで楽しめるので、私が訪れた時も家族連れが非常に多かったです。

砂浜を歩くテオヤンセンとストランドビースト


ストランドビーストたちを従えて砂浜を歩くテオヤンセンの姿に、ディズニーの「魔法使いの弟子」のほうきたちを思い出しました。
あのほうきたちは切られた木から作られた人工物だけど、いのちであるように思います。
ストランドビーストもまた、無機物と生命の間で不思議な魅力を放ちます。
ルンバやR2-D2になぜか愛着を持つように、ストランドビーストの持つ不思議な引力は彼らを再生産し続けるのです。

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