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【005】コロナと法人の意思決定機関

気がつけばもう6月。
noteも丸2か月放置していたことになります。
時が過ぎるのはあっという間だということを改めて実感します。

さて、6月ですが、
多くの企業、法人が事業年度を4月~3月と定めているわが国においては
株主総会が行われる月でもあります。

私は現在、起業独立している身ではありますが、
Uターン時に拾っていただいたご縁もあり、
非営利法人、具体的には公益財団法人の運営の支援に携わってもおります。

公益財団法人を含める、いわゆる非営利法人のうち、
(公益・一般)×(財団・社団)の法人は
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(一般法人法)
によって、規定されております。
このうち、公益財団法人と公益社団法人に関しては、さらに
公益社団法人及び公益財団法人の認定に関する法律(公益認定法)
によって規定されていますが、ここでは特に触れないので、具体的な内容については割愛します。

この一般法人法ですが、制定は平成18年と意外と新しく、
公益法人制度改革に則して制定された法律です。
内容はというと、その前年に制定された会社法のパク・・・いや、会社法をベースに作成されており、名称は違えどスキームは同等、というのが多々見受けられます。

例えば、会社における意思決定機関ですが、
最高意思決定機関を株主総会としており、株主が出席します。
また、取締役設置会社においては取締役会が設置され取締役が出席し、
さらに監査役設置会社においては監査役が存在し、取締役会にも出席して意見を述べたりもします。

では一般法人はどうかというと、
株主に代わる存在として社団法人では社員、財団法人では評議員がおり、
株主総会に代わる存在として社団法人では社員総会、財団法人では評議員会が設置されます。
ただし、株主とはその企業に出資をした者ですが、社団法人における社員や財団法人における評議員は出資を要件とはしていないため、厳密に言えば全く同じ定義というわけではありませんが、意思決定機関での位置づけを考えるとまあ同じようなものです。

さらには取締役に代わる存在として、これは社団も財団も共通なのですが理事がおり、監査役に代わる存在として監事がおります。
理事の中で最高責任者となるのが理事長、登記上は代表理事となります。
一例を挙げると、日本相撲協会の場合、2021年5月現在で同協会の最高責任者は八角「理事長」ですが、同協会もまた公益財団法人です。
そうなると取締役会に代わる存在となるのが、理事会です。
日本相撲協会が大関や横綱に昇進しそうな力士が発生した場合に開催するのが理事会です。

で、前置きが長くなってしまいましたが・・・

何を言いたいのかといいますと、
このコロナ禍における理事会の開催方法です。

折しも私が住む広島は、5月16日から緊急事態宣言が発令され、
当初は6月1日まででしたが、さらに20日まで同宣言が延長されたところです。
冒頭、6月は株主総会の季節、と申し上げましたが、
一般法人・公益法人においては6月が社員総会または評議員会の季節であり、その前月である5月中に理事会を開くのが通例となっております。
私が運営に携わっている公益財団法人においては、今年はこの緊急事態宣言下、リアルで理事会を開くのは困難と判断し、代替手段を模索しておりました。
ちなみに前年の2020年5月はどうだったかというと、確かに5月初頭は緊急事態宣言が発令されておりましたが、その後感染状況が落ち着き、理事会を開催する5月下旬には宣言が解除され、理事会は通常どおりリアルで開催しました。もっとも、前年と今年では感染状況は全く異なるのですが。

リアルでの開催が困難、となると、当然書面によるみなし決議、いわゆる決議の省略と報告の省略が検討俎上にあげられます。こちらは一般法人法に規定があります。

(理事会の決議の省略)
第九十六条 理事会設置一般社団法人は、理事が理事会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき理事(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監事が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の理事会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。
※第百九十七条にて、一般財団法人への準用を規定

(理事会への報告の省略)
第九十八条 理事、監事又は会計監査人が理事及び監事の全員に対して理事会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を理事会へ報告することを要しない。
2 前項の規定は、第九十一条第二項の規定による報告については、適用しない。

ここで気になるのが報告の省略を規定した第98条第2項ですが、ここで登場する第91条第2項にはこう書かれています。

(理事会設置一般社団法人の理事の権限)
第九十一条 次に掲げる理事は、理事会設置一般社団法人の業務を執行する。
一 代表理事
二 代表理事以外の理事であって、理事会の決議によって理事会設置一般社団法人の業務を執行する理事として選定されたもの
2 前項各号に掲げる理事は、三箇月に一回以上、自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない。ただし、定款で毎事業年度に四箇月を超える間隔で二回以上その報告をしなければならない旨を定めた場合は、この限りでない。

報告の省略というのは、本来は理事会の場で報告すべきことを代わりに書面にて各理事・監事に報告し、「理事会で報告したことにする」というものですが、現行法令では職務執行状況報告の省略は不可とされています。要は「理事会をちゃんと開いてから報告しないと、報告したとはいえない」ということで、書面による報告でちゃちゃっと済ませるのはダメだと言っております。
同様の規定は実は会社法にもあります。参考先の法令なので、まあ当然といっては当然ですが。

(取締役会の決議の省略)
第三百七十条 取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。
(取締役会への報告の省略)
第三百七十二条 取締役、会計参与、監査役又は会計監査人が取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)の全員に対して取締役会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を取締役会へ報告することを要しない。
2 前項の規定は、第三百六十三条第二項の規定による報告については、適用しない。
3 指名委員会等設置会社についての前二項の規定の適用については、第一項中「監査役又は会計監査人」とあるのは「会計監査人又は執行役」と、「取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)」とあるのは「取締役」と、前項中「第三百六十三条第二項」とあるのは「第四百十七条第四項」とする。
(取締役会設置会社の取締役の権限)
第三百六十三条 次に掲げる取締役は、取締役会設置会社の業務を執行する。
一 代表取締役
二 代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定されたもの
2 前項各号に掲げる取締役は、三箇月に一回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならない。

となると、方法としては次のいずれかです。
①リアル開催の代わりに、Web理事会を開き、職務執行状況報告を行う。
②リアル開催ができる時期に、改めて理事会を開き、職務執行状況報告を行う。

①のやり方は総務省もOKを出しています。ただし条件としては、
・各出席者の音声や映像が即時に他の出席者に伝わる
・適時的確な意見表明が互いにできる仕組みになっており、出席者が一堂に会するのと同等の相互に十分な議論を行うことができる環境になっている
・Web会議システムを用いて理事会を開催した旨を議事録に記述
などがあります。(参照:公益法人information「よくある質問(FAQ)」

次に②のやり方ですが、これは例えば秋ぐらいにリアル理事会を開こうというものです。
一般法人法において理事会の開催回数は年4回以上と定められています。ただし、定款に定める限り、年2回とすることもOKとされており、多くの法人では各事業年度において決算理事会で1回、予算理事会で1回、計2回開くというのが多いようです。決算理事会はだいたい5月ごろ、予算理事会は3月、早いところでは2月といった感じです。
ですので、通常秋ごろには理事会を開かないものですが、職務執行状況報告ができてないもんだからやむなく開く、こういった対応策です。ぶっちゃけ現実的な対策ではありません。

となると、①のやり方が適切なのですが、果たしてこれはあらゆる法人が対応可能なのかと思ってしまいます。取締役会をオンラインで開く、これは何となく可能な気がします。取締役会設置会社には少なくとも3人の取締役がいますので、規模としてもそう小さくはない、であれば、オンラインによる開催もできるのではないかという気もします。

ところが、一般法人・公益法人の中には、かなり零細な法人もあります。そしてこれもあるあるなのですが、企業や官公庁を定年まで勤め上げたベテランが関係者に請われて法人の役員になる、という場合が多々あります。この場合、果たしてWeb会議の導入がスムーズに可能なのかと思うわけです。理事会中に何らかの操作ミスにより通信トラブルが発生した。当人はPCに不慣れなことによりリカバリができない。誰がサポートするのか、サポートできなければそのままフェードアウト・・・その場合、当理事会に出席したといえるのか、などなど。

今回、私が携わる法人で迷ったのが、まずWeb会議形式にするかどうか。御多分にもれず、役員は高齢者が揃っているので、Web会議は難しいのではという結論に達し、上記②による方式を採用することとしました。折しも秋ごろに理事会に諮るべき議題がありましたので、併せてやってしまおうというプランです。
ちなみにその後、各理事・監事にオンラインは可能かと確認したところ、意外と「カメラがあれば可能」との回答が多く、もっと事前に準備しておけばオンラインも可能だったのではとちょっと反省した次第です。

一般法人における職務執行状況報告の論点は意外と見落としがちではありますが、単純に書面でやってしまうと厳密には法令違反となります。
職務執行状況報告の省略ができない、という本来の趣旨は理事会や取締役会における職務執行のガバナンスを利かせるというものであったのでしょうが、一方ではこういった事態においては杓子定規かなという気もするし、他方ではいかに小規模零細な法人とはいえ、ウチはしょせんオンライン化は無理だから、とあきらめてはいけないのだ、ということを改めて思った次第です。

コロナ禍によって業務のありかたが変わりつつ一例でした。

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