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「コマンドー」(1985)

パパは銃よりも強し!!最強筋肉伝説、ここに爆誕!!


監督:マーク・L・レスター
製作:ジョエル・シルバー
脚本:スティーブン・E・デ・スーザ
音楽:ジェームズ・ホーナー
出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、バーノン・ウェルズほか


「コナン・ザ・グレート」「ターミネーター」で鮮烈なハリウッドデビューを果たした地上最強のボディビルダー、アーノルド・シュワルツェネッガーことシュワちゃん。本作は今日に至るまでの彼のイメージを作り上げた歴史的傑作であり、アクション映画というジャンルにおけるひとつの完成型です。約90分という短い時間の中にアクション、スペクタクル、サスペンス、家族愛と、すべてが無駄なく凝縮されています。動くギリシャ彫刻と形容するにふさわしいシュワちゃんの圧倒的肉体美と人間離れしたアクションの数々、それを迎え撃つにふさわしい魅力的な悪役たち、魅力を挙げればキリがありません。日本ではテレビ版吹き替えの軽妙洒脱なセリフ回しが話題となり、4Kリマスターでリバイバル上映されるなど、その人気は公開から40年近くを経てもまったく衰える気配がありません。筋肉と暴力が支配するシュワルツェネッガー最高傑作を、ぜひお楽しみください。


あらすじ



コマンドー部隊。それは米軍最強の特殊部隊であり、選び抜かれた精鋭にのみ与えられる究極の称号であった。世界中で極秘任務をこなし、人知れず歴史の影で戦い続けた彼らは多くの人々の命を救ったが、同時に多くの恨みも買っていた。そんなコマンドー部隊が解散して数年。部隊を離れ平穏な生活を送っていた隊員たちが、次々と抹殺されていた。ローソン、フォレスタル、ベネット。そして次の標的は、コマンドー部隊の隊長であり無敵の戦士とうたわれたジョン・メイトリクス(アーノルド・シュワルツェネッガー)である。愛娘のジェニーと山奥で静かに暮らす彼のもとに、元上官でのカービー将軍が現れる。将軍はメイトリクスに一連の事件について説明し、ふたりの護衛をつけると去っていった。

それからしばらくすると、武装した謎の集団がメイトリクスの家を襲撃する。ふたりの護衛はあっさりとやられ、ジェニーも連れ去られてしまう。追跡の末に敵を追い詰めたメイトリクスだが、多勢に無勢であった。窮地に陥る彼の前に、元部下のベネット(バーノン・ウェルズ)が姿を現す。抹殺されたはずの彼は何者かと手を組んでいたのである。ベネットはメイトリクスをアジトへ連行し、娘と再会させる。ベネットはアリアス将軍という男に雇われていたのだ。彼はバルベルデという小国の国家元首であったが、非道な政策から失脚、再起を図ってベネットら元特殊部隊のメンバーを率いて暗躍していた。アリアスはジェニーを人質にメイトリクスへ協力を要請、バルベルデの現大統領の暗殺を依頼する。

バルベルデへ向かうべく空港へ向かったメイトリクスは、ベネットに「必ず戻る」と告げ飛行機に乗り込んだ。一瞬の隙をついて同乗していたアリアスの部下を倒したメイトリクスは、離陸する飛行機からの飛び降りを決行、滑走路付近の湿地帯に無事着地する。こうして敵の裏をかいたメイトリクスであったが、飛行機がバルベルデに到着するまであと11時間しかない。彼がバルベルデについていないことが敵に知られれば、ジェニーは即刻処刑されてしまう。彼女を助け出すには、タイムリミットまでにアリアスの本拠地を突き止め強襲するしかなかった。一秒も無駄にできないメイトリクスはさっそく行動を開始、空港で彼を見送ったサリーという小男を尾行することから始めた。メイトリクスはジェニーを救出し、アリアスの野望を打ち砕けるのだろうか?



※ここから先、映画の展開や結末に関するネタバレが
含まれています。まだ映画を観ていない方はご注意ください。










筋肉はすべてを解決する


「コマンドー」が公開されるまでのアクション映画において、視覚的に筋肉の力強さを表現した作品はあまり多くはありませんでした。それが1982年の「コナン・ザ・グレート」でシュワちゃん自ら異次元の仕上がりを見せて以降、シルベスター・スタローンやチャック・ノリスをはじめとする肉体美を携えた俳優が台頭してきたことにより、少しずつ潮流が変わり始めます。そして彼の初期キャリアの集大成ともいえる「コマンドー」は、アクション映画における筋肉の重要性を提示することで80年代のアクション映画におけるスタンダードになりました。わかりやすいストーリーに加えて筋骨隆々の大男が画面狭しと暴れるシンプルな爽快感は見事に大衆の心をつかみ、以降数えきれないほどの模倣・亜流作品が生まれることとなりました。

幾多のフォロワーが生まれたのにも関わらず「コマンドー」が独自性を失わないのは、漫画的なまでに誇張されたその描写にあります。身の丈以上もある巨大な丸太を片腕で持ち上げるという、初登場シーンからして凄まじいインパクト。その後も

・電話ボックスを持ち上げて中にいるサリーを引きずり出す
・10人以上の警備員に取り囲まれてもビクともしない
・天井から吊るされている風船を使ってターザンする
・車のシートを楽々と引っぺがす
・横転した車を元に戻す

など、素晴らしい筋肉描写のオンパレード。もはや「元特殊部隊だから」「鍛えているから」などという言葉では説明がつかない超人っぷりで次々と敵の幹部を血祭りにあげていきます。いちばん恐ろしいのは「シュワちゃんだからなんとなくできそう」という謎の説得力があることです。この映画はその謎の説得力が屋台骨となって、荒唐無稽なプロットをがっちりと支えています(笑)

上記のように人間業とは思えない怪力を惜しげもなく披露するメイトリクスですが、これまた恐ろしいことに思考も筋肉に支配されています。彼の辞書に「計画」という言葉は存在しません。なにしろタイムリミットはたったの11時間、あれこれ考えたりためらったりしている暇は1秒もないのです。というわけでメイトリクス大佐は怒涛の勢いで敵を尾行、強襲、尋問しあっという間にアリアスの潜伏する孤島を特定してしまいます。彼の筋肉の前にこざかしいトリックは何の役にも立たないということを、身をもって照明してくれています。敵の本拠地がわかり、突入方法にもメドが立ったところでお次は武器調達。敵側の戦力はどう少なく見積もっても数十人以上の兵力、さらにベネットがいます。いかに百戦錬磨のメイトリクス大佐といえども、ほとんど丸腰の状態では厳しい戦いになることは必至です。そこで彼が考えついた武器調達方法はなんと

軍放出品店にブルドーザーで突っ込み、中にある武器を片っ端から盗む

という驚愕のパワープレイでした。無茶ばかりやってきたメイトリクスでしたが、さしもの観客もここまでやることは予想できなかったでしょう。首尾よく侵入入店したメイトリクスは、ショッピングカートに次々と武器弾薬を詰め込んでいきます。もちろん手榴弾やアーミーナイフ、クレイモア地雷などのサブ兵器も欠かせません。そして最後に彼がカートに入れたのはなんとM202ロケットランチャー(取扱説明書付属)でした。あきらかに過剰装備です。かくして買い物を完了させたメイトリクスでしたが、派手に入店したせいで警官が殺到、あえなく現行犯逮捕。「カービー将軍に連絡をとってくれ」と警官に頼みますが、一笑に付されてしまいます。どうして取り次いでもらえると思ったのでしょうか?間一髪か…と思われたそこへシンディが到着、ロケットランチャーで護送車を派手に吹き飛ばしてメイトリクスを救出することに成功しました。これにはさしものメイトリクスも驚きを隠せず「どうやって使い方を?」と尋ねますがシンディは「説明書を読んだのよ」と小粋なジョークで返します。どうやら彼女の脳も筋肉になってしまったようです。


コンパクト&シンプルで完成度の高い脚本


シュワちゃんの暴挙の数々をひとつひとつ取り上げていったらキリがないのでここでマジメな話(?)に戻ります。本作の脚本を担当したのはスティーブン・E・デ・スーザ氏ですが、ほかの代表作として「96時間」「ダイ・ハード」などがあります。いずれもダイナミックな展開や巧妙な伏線が魅力的な名作ですが、本作の脚本もそれらに劣らず無駄のない機能的なものに仕上がっています。

「コマンドー」のシナリオが優れている点としては、まず状況説明を目的とした長セリフが少ないことが挙げられます。これは台本にその場の状況や人物の心理まで具体的に書く海外の映画ではよくあることですが、キャラクター同士がどういった関係性なのかを最低限の会話で描き、観客の理解を阻害するような余計な情報、冗長に感じるセリフ回しはほとんどありません。たとえば序盤、カービー将軍がメイトリクスの家を訪ねる場面。メイトリクスの姿が見当たらず大声で彼の名を呼ぶ将軍の背後からスッと現れることで、メイトリクスの技術が最高レベルであること、また一線を退いてもその技術は衰えていないことを動作のみで説明しています。またジェニーが将軍に対し「令状はあるの?」などとそっけない態度をとることで、父が過去に急な仕事で家を空けるのが多かった事情を暗に示しています。本作ではこういった必要最低限の描写で、行間の心情や事情まで想像させる場面が随所に見られます。それらは結果として作品のテンポを良くし、92分という短い上映時間の密度を上げることに貢献しているといえます。

次に、場面が目まぐるしく変わる点です。飛行機から飛び降りて11時間のカウントダウンが始まった直後だけでも、空港ターミナル→立体駐車場→大通り→ショッピングモール→街はずれの山道→モーテルとわずか20分前後で移すさまじい勢いで場面転換が行われます。ひとつの場面に長々と尺を割かず、観客が飽きる前にどんどん展開を先へ進めることで物語にスピード感が生まれています。本作が短い時間で濃密な体験をしたような気分にさせてくれるのは、ひとえにこの場面転換の速さにあるのではないでしょうか。


映画史に残る最強の日本語吹替


本国でも興行的に大成功を収めた本作ですが、日本での人気は一風変わったものとなっています。「コマンドー」は日本では1986年に劇場公開されたあと、TBSの「ザ・ロードショー」およびテレビ朝日の「日曜洋画劇場」で放送されたことがあります。当時は日本語吹き替えを上映するという概念がなかったため、テレビで洋画を放送する際は局で独自に吹き替えを制作するのが主流でした。本作の吹き替えもそんな流れの中で誕生したのですが、特に日曜洋画劇場のそれは異彩を放っていました。

メイトリクスはシュワちゃんのFIXでおなじみ玄田哲章氏、ベネット役には故・石田太郎氏がそれぞれ担当。ほかにも阪脩氏や坂口芳貞氏、小林勝彦氏など超豪華キャストが勢ぞろい。翻訳を担当したのは数々の日本語吹き替えを生み出してきた名翻訳家の平田勝茂氏。原語の雰囲気を損なうことなく日本語に落とし込むだけでなく、軽妙な会話をはじめとする独自の味付けで観客を楽しませる技術は業界でもピカイチ。本作においてもその腕前は健在で「10万ドルポンとくれたぜ」「筋肉モリモリマッチョマンの変態だ」「口だけは達者なトーシロばかりよく揃えたもんですな」「ただのカカシですな」などなど、思わず声に出して読みたくなるようなセンスとユーモアに満ち溢れた数々の名台詞を見事に生み出しました。

「コマンドー」はその後も民法各局の映画枠で幾度となく再放送され、近年ではインターネット各所で実況されちょっとしたお祭り騒ぎになるなど、新たなファン層を獲得してきました。なお現在は吹き替え音声を収録した映像ソフトが安価に入手可能です。直近ではテレビ東京「午後のロードショー」にて4月28日(金)に放送予定です。テレビ東京が視聴できる環境をお持ちの方は、ぜひお見逃しなく。

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