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「トータル・リコール」(1990)

おらこんな星いやだ!!シュワよ、火星の希望となれ!!


監督:ポール・バーホーベン
製作:ロナルド・シャセット、バズ・フェイシャンズ
製作総指揮:マリオ・カサール
脚本:ロナルド・シャセット、ダン・オバノン
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、シャロン・ストーンほか


「ロボコップ」でハリウッドにその名をとどろかせたバーホーベン監督によるSF映画第2弾。今回は泣く子も黙る売れっ子俳優アーノルド・シュワルツェネッガーを主演に、フィリップ・K・ディックの短編小説「追憶売ります」を大胆に脚色して映画化しています。夢と現実のはざまで観客を翻弄する予測不可能なストーリー、個性豊かな俳優陣による魅力的なキャラクター、そして今なお語り継がれる圧倒的な特殊効果の数々。


あらすじ


近未来の地球。人類は宇宙へと進出し、火星は今や多くの人々が暮らす植民地となっていた。しかしエネルギーを採掘する大企業とその独裁的な支配にに耐えかねたレジスタンスとの戦いが頻発し、不安定な情勢が続いていた。一方、地球で現場作業員として暮らすダグラス・クエイド(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、毎晩のように見る謎の夢に悩まされていた。行ったこともない火星の風景、出会ったこともない美女。はじめはただ不思議に思うだけであったが、火星に対する思いは彼の中でどんどん強くなっていった。そしてある朝、クエイドは妻であるローリー(シャロン・ストーン)に「火星に移住したい」と打ち明けるが、平穏な日々を望む彼女からはあっさりと断られてしまう。

いつものように仕事へと向かうクエイド。通勤電車のテレビ広告には「リコール社」という会社のコマーシャルが映し出されていた。リコール社は人々に「記憶」を販売する会社であり、装置によって脳に刺激を与えて偽の記憶を植え付け、様々な疑似体験をさせることをウリにしていた。これなら火星に行けると考えたクエイドは、後日リコール社を訪れる。「ある秘密組織の諜報員として火星に向かい、そこで息をのむスリリングな体験をする」という内容の「記憶」を希望した彼は、いくつかの質問に答えると、やがて麻酔で眠りについた。そしていよいよ火星への旅が始まると思われたそのとき、突如としてクエイドが暴れだした。スタッフの不手際が疑われたが、実際には脳への記憶の植え付けはまだ行われていなかった。

「彼は本当に火星に行ったことがある」という仮説を立てたリコール社は、トラブルを恐れてクエイドを送り返す。リコール社に関する一連の記憶を消されて最寄り駅へとタクシーで送られたクエイドは、そこで同僚を含む謎の集団に取り囲まれる。銃を突きつけられ窮地に陥るも、一瞬のスキをついて全員を倒してしまう。まるでプロの殺し屋のような自分の手際に困惑しつつ帰宅すると、今度はローリーが襲いかかってきた。なんとローリーはある組織の諜報員であり、クエイドとは偽装結婚であったというのだ。組織は彼の脳内にある極秘情報を狙っており、ほどなくして新たな諜報員たちが追ってきた。命からがら追跡を振り切ったクエイドだが、孤立無援の逃避行は始まったばかりである…。


※ここから先、映画の展開や結末に関するネタバレが
含まれています。まだ映画を観ていない方はご注意ください。










とにかく映像がスゲェ


SF映画のみどころは、現実にはありえないものを本当に存在するかのように描くという点にありますが、「トータル・リコール」の映像から伝わってくる生々しさや実在感は、現代の映画をはるかに凌駕していると思います。精巧なミニチュアやアニマトロニクス、マットペインティングや操演など、人間の果てなきイマジネーションの力強さをこれでもかと見せつけられます。

まずは冒頭、火星の大気にさらされたクエイドの目玉が膨張していくシーン。ダミーの模型とはいえ開始数分からカッ飛ばしてます(笑)かなりショッキングなシーンなので、実際に本編を観たことがなくても「目玉が飛び出す映画」という感じでぼんやりと認識している人も多いです。小さいころにテレビでやっているのをたまたま観てしまい「トラウマになった」という声もよく聞きます。今では信じられないことですが、ほんの20年近く前までは暴力描写のキツい映画でも平気でゴールデンタイムに放送していたんです…。

次に頭部に埋め込まれた追跡装置を外すシーン。こちらも目玉に負けず劣らず強烈なインパクトを残す名シーン(?)ですが、やはりシュワちゃんの頭部を再現した模型が作られたようです。ほかにもロボットのタクシー運転手、「2週間よ」でおなじみの変装おばさんやクアトーなど、常人には到底思いつかないような驚愕のキャラクターが次々に登場。火星に住むミュータントの特殊メイクも「本当にこんな人たちがいるんじゃないか?」と本気で思ってしまうレベルの完成度。

特殊効果といえば美術面も外すことができません。数十m四方ものスケールで組まれた火星地表のミニチュアセットはもちろん、SF映画の醍醐味ともいえる大がかりなセットもよくできていて、作品への没入感が高まります。


クセの強い登場人物が目白押し


映像が濃ければ、出てくるキャラクターも濃ゆいやつばかりです。シュワちゃん演じるクエイドはいつも通りの無敵のタフガイ…かと思いきや股間を蹴られたり太い棒を鼻に突っ込んだり目玉が飛び出そうになったりと、割と散々な目にあってます。これに対しハウザーは常に薄ら笑いを浮かべたイヤ~なやつ。ビデオメッセージとはいえ鼻に棒を突っ込んで苦しむクエイドを尻目にニヤニヤ、正体を明かす場面でもコーヘイゲンと仲良くヘラヘラ…という、シュワちゃん的にはかなり珍しい悪玉キャラです。

彼を取り巻く女性陣も魅力たっぷり。メインヒロインのメリーナは、ロングパーマが印象的な異国情緒ただよう美女。火星でクエイドと再会するなり鋭いビンタを浴びせますが、それは強い愛情の裏返し。ふたりきりになるとすぐさま抱擁して自身の感情を素直に打ち明けるなど、いじらしさ満点。しかしレジスタンスの一員だけあって戦闘能力は抜群、後半はクエイドとともに銃をとって果敢に戦います。

偽装結婚したローリーを演じるのはシャロン・ストーン。この作品でバーホーベン監督に気に入られたのか翌年の「氷の微笑」ではセクシーな魔女を演じて話題となり、ハリウッドでの地位を確固たるものにしました。クエイドを完全に油断させるほどの演技力、正体を明かすや否や即座に刃物を向けて襲いかかってくる冷徹な二面性、火星まで追跡してくる執念深さ、その恐ろしさは枚挙に暇がありません。メリーナとの美女対決は隠れたみどころ…かもしれません(笑)

対峙する悪役はさらに強烈なキャラばかり。ロニー・コックス演じるコーヘイゲンは、圧政に苦しむ火星の人々など歯牙にもかけない冷酷非道な独裁者として描かれています。地球から火星までクエイドを追い回すリクターにはマイケル・アイアンサイド。シャロン・ストーンとのちょっとしたキスシーンから、キャラクターの関係性が深読みできて面白いです。いずれもシュワちゃんに勝るとも劣らない存在感のある名優ですが「よくもこれだけ悪人顔ばかり集めたな!」と感心することしきり。この作品に限らず、昔のアクション映画は顔もキャラクターも魅力的な悪役が多かったような気がします。


夢オチなのか?


この作品を語るうえで必ず話題になるのがラストシーン。クエイドの活躍によってコーヘイゲンは倒され地下のリアクターが作動、火星に青い空と新鮮な空気がもたらされます。青く生まれ変わった火星の美しい景色と歓喜に沸く人々、まさに夢のような光景を前にクエイドは「これも夢だったとしたら」と漏らします。それに対しメリーナは「それなら覚める前にキスして」と言い、ふたりは口づけを交わします。すると画面が白くフェードアウトしていき、映画はそこで終わります。

一見すると文句なしのハッピーエンドですが、本編の描写には疑問点が多く残ります。たとえば序盤、パートナーとなる女性の容姿を決める場面でモニターに映っているのはメリーナそのものですし、リコール社のコマーシャルに出てくる男が医師と名乗ってクエイドの前に現れたり、一度は彼を殺そうとしたローリーが再び復縁しようとしてきたり、窓ガラスが割れる危険があるのに見境なく銃撃戦をしたりと、展開的に奇妙な部分が多く出てきます。アクション映画だから…と言ってしまえばそれまでですが。

そもそもリコール社が偽の記憶を売る会社である、ということを忘れてはいけません。さらに言えば、クエイドがリコール社で暴れだして以降の展開は、彼が社員に勧められたシナリオと全く同じなのです。つまりクエイドは本当はコーヘイゲンの手下でもなんでもなく、リコール社が提供した火星旅行プランを満喫していただけだった…という解釈が可能ということです。一説には映画がホワイトアウト(白いフェードアウトの通称)で終了するのは、クエイドの脳が壊れてしまった=夢の世界から帰ってこられなくなったことを暗示しているのではないか?とも言われています。

もちろん真相が映画の中で明らかにされることはなく、ラストについてはあくまで観客にすべてを委ねる形になっています。


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