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「ダイ・ハード」(1988)

最悪のクリスマスプレゼント!!聖なる夜に飛び交う銃弾!!


監督:ジョン・マクティアナン
製作:ジョエル・シルバー、チャールズ・ゴードン
脚本:ジョブ・スチュアート、スティーブン・E・デ・スーザ
音楽:マイケル・ケイメン
出演:ブルース・ウィリス、アラン・リックマンほか


「プレデター」で大ヒットを飛ばし時の人となったジョン・マクティアナンが送る新感覚サスペンス・アクション映画であり、ブルース・ウィリスの大出世作でもあります。本作以降、アクション映画の潮流が大きく変わったといわれています。というのもそれまでのアクション映画、特に80年代初頭からはシュワルツェネッガーやスタローンに代表される、鍛え上げた肉体を携えた俳優が縦横無尽に暴れまわる荒唐無稽な作品がスタンダードになっており、メジャー・B級ものを問わずワンパターン化の兆候が見え始めた時期でもありました。そんな時代にひっそりと登場した「ダイ・ハード」は巧妙に練り上げられたシナリオと従来のアクション映画の常識を大きく覆すキャラクター造形などで大ヒット、4本の続編が作られるほどの人気シリーズになりました。公開からすでに35年が経過していますが、今観てもじゅうぶん満足できる完成度を誇っていると思います。


あらすじ


クリスマス・イブ。ロサンゼルスの街に、ひとりの男が降り立った。彼の名はジョン・マクレーン。ニューヨーク市警で働く刑事である。別居中である妻ホリーに会うべくロサンゼルスにやってきた彼は、ホリーの勤務するナカトミ商事の社屋であるナカトミ・プラザを訪れた。受付でホリーの名前を探すマクレーンであったが、彼女は旧姓であるジェネロの名で勤務していたことが判明する。社内ではクリスマス・パーティーが開かれており、マクレーンは友人と歓談するホリーを発見、彼女を静かな別室へと連れ出す。マクレーンは彼女との別居は一時的なもので、ほとぼりが冷めればすぐに戻ってくるだろうと思いニューヨークに留まっていたが、彼女はすでに会社で一定の地位を築いており、結局ふたりは仕事観や夫婦観の違いから口論になってしまい、復縁どころか夫婦間の溝を深めてしまうこととなった。

一方そのころ、テロリストの集団を満載した車両がナカトミ・プラザへと向かっていた。彼らは素早く警備員を射殺して受付を制圧すると、コンピューター制御であらゆる出入口を封鎖してしまう。そのまま社員がパーティーを楽しんでいるフロアへ乗り込み、けたたましい銃声が室内に鳴り響く。テロリスト集団の目的は、社内の金庫に保管されている数億ドル分の無記名債権であった。こうしてナカトミ・プラザは陸の孤島へ姿を変え、社員全員が人質となった。リーダーのハンスは見せしめとして協力を拒んだタカギ社長を射殺し、部下に金庫のロック解除を指示する。マクレーンは別室にいたため難を逃れるが、物音を立てたために存在を気付かれてしまい、やむなく工事中の上層階へと逃走する。

追跡してきたテロリストのひとりを格闘の末に倒したマクレーンは、敵の持っていた偽造の身分証や重火器から彼らがただの強盗ではないことを見抜き、ひとり行動を開始する。消火設備を作動させたり警察無線に割り込むなどしてなんとか外部と連絡を取ろうとするが、ハンスの策略によりすべてさえぎられてしまう。ビル内部にまだ抵抗する人間がいることを知ったハンスは数人の部下を上層階へ送り込み、銃撃戦の末にマクレーンはなんとかこれを撃退。続いて見回りにやってきたロサンゼルス市警のパウエルが乗るパトカーへテロリストの死体を投げ込み、ビル内で事件が起きていることを伝えた。程なくしてSWATやFBIを含めた大部隊がビルを包囲、状況は一気に進展する。しかしその裏で、ハンスの陰謀も進行していた…。


※ここから先、映画の展開や結末に関するネタバレが
含まれています。まだ映画を観ていない方はご注意ください。










ボヤキ刑事ジョン・マクレーン


本作の主人公であるジョン・マクレーンはニューヨーク市警の刑事です。犯罪が多発する眠らない大都市を生き抜いてきただけあって銃器や爆発物、文書偽造など犯罪に関してあらゆる知識を持っています。しかし決してタフな男ではありません。着ている服は地味な色遣いでどこかおっさん臭く、苦労の染み込んだ顔つきは実年齢以上に老けてくたびれた印象を与えます。おまけに頭髪の後退も始まっています。おでこの総面積は作品を経るごとにどんどん広くなっていき、4作目ではとうとう丸坊主になってしまいました。閑話休題。格闘能力も一般人に比べれば高いですが、厳しい訓練を受けた経験のあるテロリスト相手にはかないません。奇襲をかけたり不意を突くのは得意ですが、戦闘が長引くと基本的にやられっぱなしになります。本作においても純粋な格闘戦のみで倒した相手はおらず、階段から一緒に転げ落ちたり階段の手すりに顔面を叩きつけてチェーンに吊るしたり、決め手はいつも周囲の物です。

そんな彼を不死身の男たらしめている秘密は、強靭な精神力にあります。まずについてですが、良い意味でも悪い意味でもジョン・マクレーンは「持っている男」だといえます。そもそも本作の始まりは、妻ホリーの働くナカトミ商事を訪れたところをテロリストが襲撃してきたことに端を発しています。もちろんこれらはハンスが突然思いついたことではなく、事後の逃走経路も含めて綿密に練り上げた計画であったことは言うまでもありません。それはクリスマス・イブで会社も街もお気楽ムード、社員がひとつのフロアに集中し警備が手薄になっているところを襲撃した点からも明らかです。後々まで続くタイミングの悪さが、早くも最大限に発揮されています。マクレーンからすれば「別居中の妻に会いに来たらいきなり銃を持った男たちが大挙してビルを乗っ取った」形になりますし、ハンスたちからすれば「完璧な計画だったはずなのに紛れ込んでいた社員でもない部外者(マクレーン)にめちゃくちゃにされた」という感じでしょう、おそらく。そしてマクレーンはなんといっても死にません。たとえエレベーターシャフトを落っこちたり屋上から飛び降りたり裸足でガラスを踏んづけたりしても、必ず生き延びて戦闘を続行します。映画のタイトルである「ダイ・ハード(なかなか死なない)」を地で行くタフガイっぷりです。

続いて精神力。(テロリストと比較して)決して高くはない戦闘能力を補って余りある彼の精神力こそ、ジョン・マクレーンをジョン・マクレーンたらしめている最重要ファクターです。隙あらばタバコをふかすくたびれた外見にやる気のなさそうな態度、ぶっきらぼうな口調などとても腕利きの刑事とは思えない彼ですが、その内には刑事としての強い正義感と使命感を秘めています。ぶつくさ言いながらも困ってる人を放っておけず、自分よりはるかに強力な装備で身を固めた相手にも果敢に立ち向かっていきます。しかし恐れを知らぬ戦士というわけではありません。むしろ精神性としては一般人に近いです。圧倒的多数で襲いかかってくる敵に恐れおののき、高所におびえ、そのたびにボヤキながら己の不運を嘆くさまは、さながら現代を生きる我々の鏡写しのようでもあります。これもまた「ダイ・ハード」が従来のアクション映画の常識を覆した点でしょう。彼の代名詞ともいえるボヤキは、恐怖でつぶれそうになる心を鎮め、己を奮い立たせるための儀式のようなものなのかもしれません。時として観客に笑いをもたらす言葉が、マクレーンにとっては勇気の言葉なのでしょう。「俺はやれる、大丈夫、なんとかなる、なんとかする」と臆病な自分を肯定して精一杯戦う姿が、いまだに多くのファンを惹きつけてやまないのも納得です。つらく厳しい現代社会を生き抜くためには、ボヤキは最大の武器になることをこの映画が教えてくれます(本当か?)


頭脳派テロリスト


アクション映画の敵役といえば基本的に外道であり、沸点が低くすぐに挑発に乗っかってくるという、お世辞にも頭が良いとはいえないキャラクター像が多かったのですが「ダイ・ハード」のハンス・グルーバーは、そういった部分でも革新的でした。まずなんといっても容姿からして知将の風格が漂っています。きれいに整えられた頭髪にひげ、高級スーツをスマートに着こなし、想定外の事態にも泰然自若として対応します。時には自ら警察と交渉を行い、安っぽい嘘は即座に見抜く鋭い洞察力も持っています。作戦遂行においても用意周到であり、現場に展開したFBIが突入のために一帯の電源を落とすであろうことや装甲車で突撃してくることもすべて予期して万全の反撃策を展開、敵の行動を逆手にとって次々と返り討ちにしていきます。軽機関銃やロケット砲などの圧倒的な火力でさえ、彼にとっては敵をかく乱するための手段の一つにすぎないのです。そしてもちろん、協力に応じない人間は人質であろうとあっさり殺害し、命令に従わない部下はたとえ有能でも切り捨てるなど非情さも尋常ではありません。現場にマクレーンがいなかったら作戦は間違いなく成功していただろうと思わせるほどの知略は、明らかに今までのアクション映画には存在しなかったものでした。冷酷非道というだけではなく、行動力があって頭もキレるというハンスのキャラクター像は後発の作品に多大な影響を与え、武力より知力を重んじるボスが増えていきました。


傷持ちの人情派おまわりさん


さらに本作を語るうえで欠かせないのが、マクレーン最大の協力者にして相棒ともいえるアル・パウエル巡査部長の存在です。甘いものに目がなく、市民とも軽口をたたき合うなどフランクな性格ですが、おもちゃの銃を持っていた子供を誤って射殺してしまったという重い過去を持っています。この事件は彼の心に深い傷を残し、それ以降パウエルは銃を持つことが怖くなり現場を離れて署内で仕事をするようになりました。しかし無線連絡を受けてナカトミ・プラザに赴いたことで彼の運命は一変、ボンネットに死体を投げ落とされ機関銃で銃撃されたことで今回の事件に巻き込まれてしまいます。その後はマクレーンを励ましたり外部の状況を教えるなどして活躍、無線越しに友情が育まれていきます。ビルから出てきたマクレーンと対面する場面は涙なしには見られません。マクレーンの勝利は彼の決して諦めない心によってもたらされましたが、それを陰ながら支えたのはほかならぬパウエルです。蘇生したカールが銃を持って現れた際は携帯していたリボルバーで見事に仕留め、友のピンチに過去を乗り越えた男の勇気が爆発しました。「ダイ・ハード」のもうひとりの主人公は間違いなくパウエル巡査部長です。彼の勇気に敬礼!!

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