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【読書メモ】FACTFULNESS(ファクトフルネス)

スウェーデンで国境なき医師団を組成するなど、医師としての幅広い活動経験を持つハンス・ロスリング氏の著書。
原題は「Factfulness: Ten Reasons We're Wrong About The World - And Why Things Are Better Than You Think」で、2018年発刊の本です。

副題に「10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」という翻訳がつけられている通り、貧困・教育・環境・エネルギー・人口問題などの人類社会にとっての重要なトピックについて、いかに私たちが誤解した考え方をしているか?ということに気づかせてくれる一冊です。

ちなみに、タイトルになっている"Factfunless"とは著者の造語で、「ドラマチックに物事を考えるのではなく、事実に基づいて謙虚に現実を見る態度」という意味合いが込められています。

世界を誤解してみてしまう人間の本能

この本には難解な数字や複雑な理論を並べて人を煙に巻くような内容ではありません。「どうやったら世界を正しくありのままに見ることができるのだろうか?」という素朴な疑問に対して、ストーリーを語りながらその方法が分かりやすく解説されています。

本著においては、人が現状を事実と異なるように認識してしまう考え方のクセ(=思い込み)を以下のように10個あげています。

①分断本能 「世界は分断されている」という思い込み
②ネガティブ本能 「世界がどんどん悪くなっている」という思い込み
③直線本能 「世界の人口はひたすら増える」という思い込み
④恐怖本能 「実は危険でないことを恐ろしい」と考えてしまう思い込み
⑤過大視本能 「目の前の数字がいちばん重要」という思い込み
⑥パターン化本能 「ひとつの例にすべてがあてはまる」という思い込み
⑦宿命本能 「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み
⑧単純化本能 「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み
⑨犯人捜し本能 「だれかを責めれば物事は解決する」という思い込み
⑩焦り本能 「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み

それぞれが重要な示唆を含む内容なのですが、ここでは私が一番心に残った『②ネガティブ本能 「世界がどんどん悪くなっている」という思い込み』について特に取り上げてみたいと思います。

刺激的なニュースに飛びついてしまう人間の性

まさにこの『ネガティブ本能』というのは、現在のコロナ禍の人々の振る舞いにも共通する部分はあるかもしれません。

この本のなかで著者は、人々が物事のポジティブな面ではなく、ネガティブな面に注目しやすいということの危険性を指摘しています。

たとえば「世界は今良くなっているか?悪くなっているか?」と聞かれたら、どう答えるでしょうか?テレビのニュースを見ていると、世界にはその日の食べるものもない貧困層の人がたくさんいて、テロリズムなどの暴力にあふれ、環境問題もどんどん悪化している、というように感じるかもしれません。

しかし、そうした”思い込み”を本書は明確なデータを持って訂正してくれます。

世界全体での「石油流出事故」「HIV感染者数」「乳児の死亡率」「戦死者数」「児童労働」「大気汚染(二酸化硫黄)」「オゾン層の破壊」などはここ数十年で確実に減少している一方で、「識字率」「女性の参政権」「女子教育」「絶滅危惧種の保全」「安全な飲料水を利用できる人」「予防接種を受けることができる子供」などのポジティブなことは増え続けているということがデータで示されます。

たしかに、貧困や奴隷労働などのネガティブな要素がゼロになったわけではありません。しかし、着実に世界全体が良い方向に歩みを進めてきているという事実があるということを著者は述べています。

「悪い状況」と「だんだん良くなっている」ということは両立しうる。

そのことが学べただけでも、本書を読んだ価値があったなと私は感じました。

著者がこの本に込めた想いについて

本書を読んで驚いたのは、洋書のビジネス本に良くある、「良いこと言っているんだけど、結局この内容を使って講演やらコンサルやらに繋げていきたいんだろうな」というような気持ちが微塵も感じられなかったことです。

実は、著者のハンス・ロスリング氏は原稿を執筆している最中に大病を患い、出版の日の目を見る前に亡くなっているのです。ハンス氏の意思をついで、息子のオーラ氏、オーラ氏の妻のアンナ氏が原稿を完成させました。

著者が人生の最後に書き上げたこの一冊は、関わってくれた人への感謝と、未来への希望に溢れています。読み終えた後に、温かな感動を味わえる一冊です。

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ほなまたね

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