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大好きなシャニマスの世界~社会ひいてはアイドル業界で生きるということ~

 ファンタジーとリアリティの狭間に、シャニマスの魅力が詰まっている。その舞台となるのがアイドル業界、そして現代社会である。

 アイドルがステージで輝いている裏で、夢の無い現実の社会に時に苛まれ、時に守られて、少女たちは生きている。彼女たちは本来、モラトリアムの最中にあるべき年齢で、しかし大人の社会に組み込まれてしまっている

 そんな世界でアイドルを生業にすることの過酷さと尊さを描き、果てはアイドルでいることが幸せなのか本当に大切なものは何なのか、シャニマスは問いかけ続けている。

これは、色々なコミュに散りばめられたテーマの中で共通すると感じるものを、私の思考を整理するためにまとめたものです。ネタバレも多分に含まれるためご注意ください。


夢を追いかけて社会に飛び込む

 少女たちが業界に足を踏み入れるにあたり、その周辺環境として描かれるのはこの世界と地続きの現代社会だ。私たちは人間の織り成す社会の中で生かされており、それはシャニマスの登場人物も変わらない。

 個人の資質が圧倒的な価値として評価されるアイドル業界において、スタートラインに立つことすら容易ではない。
 アイドルはこのスタートラインに立つまでに、2通りのどちらかの審査を経る。プロデューサー側から審査を申し出るスカウト、そして少女側から審査を申し出るオーディションだ。オーディション組は他業種と照らし合わせるなら就活だ。その審査は多くの社会人が味わったことのある、あるいはそれより遥かに、ドライでシビアな試練なのだ。

 それでも想い描く夢があるから、彼女たちは一歩を踏み出す。アイドルマスターは、踏み出せた者たちの物語。


G.R.A.D. 月岡恋鐘(20/06/10)
ひとりのオーディション

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pSSR【かきまぜたら*ミルク】園田智代子(19/09/30)
バイバイ、そしてはじめまして

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W.I.N.G. 七草にちか(21/04/05)
〈she〉

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会社のルールの中で生きる

 そして過酷なオーディションを乗り越え、合格した先にあるのはプロダクションという名の会社だ。福利厚生を受ける権利、コンプライアンスを遵守する義務など、会社としての機能や意識が必要になる。それはほとんどのアイドルにとって初めての社会コミュニティであり、ルールを徐々に学んでいくことになる。


【明るい部屋】(20/12/11~)
第2話 ー ドタバタ

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第3話 ー ラブコメ

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第5話 ー ブリアル

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エンディング ー La chambre libre

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 283プロの福利厚生のひとつである寮を舞台とした当コミュ内では、283プロもまた会社であるということを彷彿とさせるエピソードが多く描かれた。
 283プロは賃貸住宅を事務所にしているような零細企業であり、アットホームな社風も相まって、アイドルたちは個人の懐を痛めることで会社の負担を減らそうとしてしまう。しかしそれを会社が容認することは、コンプライアンス意識に反する行いだ。経費削減は大切だが、個人の負担にならないように線引きするのは会社に求められる機能である。


 また、自分の働きぶりと天秤にかけて忖度を考える者もいる。そういった行動がかえって、健全な営みの障害となる場合がある。


pSSR【10個、光】浅倉透(20/05/13)
4こめ

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【海へ出るつもりじゃなかったし】(21/01/01~)
第5話 ー ココア・説教・ミジンコ

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 新人の自分たちが会社の恩恵を享受する権利があるのか、少女たちは考えを巡らせる。利益貢献しているユニットのお陰で会社が経営できている、というのは事実だ。だから福利厚生や経費による恩恵を仕事ぶりに関わらず享受できるのは、学生にとって不可解な世界なのだろう。
 その本質は、新人もいずれ283プロの戦力として育ってくれることに対する投資であるのだ。そういった循環が会社と個人双方を成長させ、生産性の高い営みを生んでいく。


 会社からの恩恵がある一方で、遵守しなければいけない規則もある。
 例えば、このSNS全盛の現代でリテラシーが求められる写真の取り扱い。アイドルにとっては殊更、大事な商品である肖像の取扱いには細心の注意を要する。たとえ仕事中で無くても、一人ひとりがコンプライアンス意識を持っていなければならない。それは色々な考えを持つ人々がお互いを不幸にしないための決まり事なのだ。


【アジェンダ283】(20/07/31~)
第4話 ー  しっかりたのしむこと

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 アイドルたちは283プロを健全に営むためにコンプライアンスを守り、また283プロも会社としての機能でアイドルたちを守っている。そうして会社というコミュニティで生きることの尊さを学んでいく。

 政府は「一億総活躍」を謳い、多様な人々が働きやすい環境作りを企業に求めている。283プロダクションという会社も、厚生労働省が推進するこの『働き方改革』の意識の中で、アイドルを育てている。


【明るい部屋】(20/12/11~)
第5話 ー ブリアル

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子供が働くということ

 アイドル事務所も他業種と変わらぬ『会社』ではあるのだが、その特異性の部分にも触れなければならない。
 それは年少者(労働基準法的解釈では満18歳未満)や児童(同法では中学生以下)が就労していることである。シャニマス運営がどこまで現実世界の労働法を意識しているかは定かではない。しかし少なくとも、283プロは年齢に明確な線引きをしていることが伺える。

 シャニマスサービス開始時の初期4ユニット、すなわち283プロ発足時のアイドル紹介でその歪な年齢分布に驚いたアイマスファンも多いだろう。ほぼ全員が高校生以上の中で、唯一の児童は身長163cmの小学生。そして中学生がいない。その理由はシャニマスに触れればすぐに答えが出る。


W.I.N.G. 小宮果穂(18/04/24)
目指せ、ヒーロー

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 天井社長の方針か、あるいはシャニPの考えか、283プロは中学生以下を採用する予定は無かったようだ。この後も児童の採用は、路上でただならぬ才能を見出してスカウトしたあさひだけである。オーディション組に中学生以下がいないことから考えるに、283プロの採用応募枠は高校生以上限定なのかもしれない。

 小学生が就労するなど、一般社会においては想定されていない。多感で未熟な児童の時間を奪う行為の重さを理解しているから、283プロは採用に消極的なのだろう。


Landing Point 小宮果穂(21/07/10)

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 こういった問題に対して、本人へのケアはもちろんのこと、保護者の理解を得られているかの綿密なコミュニケーションも必要になる。小学生である果穂に対しては、多少神経質になるくらいでも気にかけなければならない。そうした誠意が届かなければ、お子さんを預けてはもらえない。


Landing Point 小宮果穂(21/07/10)

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 そして学業が本分の学生生活の中には本来、就労に勤しむ隙間は無い。それは児童に限らず、高校生や大学生も同じである。
 アイマスの世界は義務教育を終えたからと言って、アイドル業を完全優先することを良しとしていない。少女たちの将来の可能性の芽を潰さない、といえば聞こえは良いが、その負担は重くのしかかる。


pSSR【ヴぇりべりいかシたサマー】七草にちか(21/06/30)
だいぶいい感じですね

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 それらの重圧を捌けるかは、結局のところ本人のモチベーションに懸かっている。しかし、精神論でどうにか乗り切れるのも最初のウチだけだろうし、プロデューサーのケアにも限界がある。アイドルとして成功し、プライベートの時間が減るほど、真綿で首を絞めるように少女たちを圧迫していく。シャニマスの世界にも多忙の描写が増えてきた昨今、どこかで破綻してしまう未来が来るかもしれない。
 子供が働くというのは、それほどまでに過酷な道である。


【アンカーボルトソング】(21/05/31~)
第4話 ー ダメだった

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大人の築いた風習に倣う

 私たちは意識が未熟なまま社会に出ると、いつまでも学生気分でいるな、などと襟を正される。しかしアイドルになった少女たちの大半は学生のまま社会に出る。そこには先人たちの築いた多くの風習があり、子供には理解しがたいことも多い。


W.I.N.G. 田中摩美々(18/04/24)
満ち欠けマイペース

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W.I.N.G. 市川雛奈(20/04/12)
Bitter×coffee

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 仕事をする上で意識しなければならないものはコンプライアンスや会社のルールだけではない。共に働く人々を慮って、殊勝な立ち回りをすることにより社会で認められる、といった風習は根強い。それは先人たちによって編み出された、円滑に仕事をこなす為の知恵であったり、成功への近道であったりする。
 しかし、納得できない風習には従うのはストレスだ。そういった世界に直面するアイドル達に、シャニPは大人の立場から答えを説く必要がある。また時にはシャニPも、子供の視点から社会の常識を見直す機会となる。


W.I.N.G. 市川雛奈(20/04/12)
take the cake!

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 そしてシャニPでも割り切れないような局面だってある。
 社会には色々な風習や考え方を持つ人間がいて、そのほとんどが283プロよりも力を持っている。仕事を取る上ではたとえ屈辱的でも迎合するのが正解かもしれない。しかしアイドルにはそんな思いをさせたくない。
 先人の知恵として学びのある風習もあれば、権力を誇示するためだけの悪しき風習もあるのが大人の社会なのだ。


pSSR【ロー・ポジション】杜野凛世(21/03/22)
芽ぐむ頃

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競わされ続ける世界

 少女たちが幼いままに社会に飛び込み、その先で繰り広げられるのは終わりのない競争だ。学業における入学試験は、同学年全員が同じ期間で同じ日程のゴールを目指す。しかしアイドル業におけるオーディションは、そこで生きる限り半永久的に繰り返される。

 大人たちに囲まれ、自分の資質、能力、個性、人格を値踏みされる
 何度も、何度も。


W.I.N.G. 樋口円香(20/04/06)
心臓を握る

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G.R.A.D. 和泉愛依(20/07/10)
ふたりは

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 少女たちは叶えたい夢があるから、業界で競い続ける。そうして勝ち取ることは、すなわち蹴落とすこと。自分と同じように夢を追いかけている人々が涙を呑む姿を横目に、葛藤を乗り越え彼女たちは進む
 


G.R.A.D. 樋口円香(21/04/21)
無機質な廊下

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Landing Point 月岡恋鐘(21/06/11)
むらくも

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G.R.A.D. 幽谷霧子(20/06/10)
パン

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 そして当然、自分が競争に負けることだってある。
 いくら技術を上げようと、経験を積もうと、アイドルのオーディションは受験勉強のようにスコアの競い合いではない。クライアントの望むイメージに嵌らなければ、少女たちはオーディションに落ちる
 何度も、何度も、何度も。


pSR【花結びゆくゆく】櫻木真乃(20/03/10)
まだ、かたく

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pSSR【ポシェットの中には】福丸小糸(20/06/19)
花丸かくれんぼ

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pSSR【雨に祝福】三峰結華(20/11/10)
(空が)泣くなら

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Landing Point 田中摩美々
(21/06/11)
capacity-game-over?

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【薄桃色にこんがらがって】(20/02/29~)
エンディング ー エンドロールは流れない

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 プロデュースコミュでのプレイヤー手腕に依存する負けについては、正史として扱わない感覚のPも多いだろう。しかし、上記の不合格はカードやイベントのコミュであり、彼女たちの実力に対して叩きつけられた現実だ。
 アイドルの世界では競争が繰り広げられており、それは常に落選の痛みと隣り合わせだ。G.R.A.D.やLanding Pointに至るほどに成長を遂げたアイドルが、自信を持って臨んだオーディションでさえも、あっけなく落ちる。
 そんな過酷な現実をシャニマスは描き続けている。


pSSR【ヴぇりべりいかシたサマー】七草にちか(21/06/30)
言いたいことはないので

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夢の先を考える、幸せを考える

 少女たちが飛び込んだのは、大人たちの仕切る競争社会。
 スタートラインに立ったあの日から持ち続けていた夢も、過酷な環境ですり減っていく。夢を叶えるために積み重ねた時間、会社から受けた投資、それに見合うアイドルに自分はなれるのか。理想と現実とのギャップ、周囲からの重圧、終わりのない競い合い。
 足掻いた先にあるのは成長か、あるいは挫折か。


W.I.N.G. 黛冬優子(19/04/05)
台本通りの茶番劇

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G.R.A.D. 田中摩美々(20/06/10)
透明色だった、みたいに

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 そんなアイドル業界に居続けることが果たして正解なのか。夢を追いかけることが本人の幸せに繋がるのか。まだ彼女たちにとって未来は無限に広がっており、別の道を歩む選択肢だって幾らでも残されている。

 彼女たちは本来、モラトリアムの最中にあるべき年齢で、しかし大人の社会に組み込まれてしまっている。遊びの時間を削り、学業の時間を削り、部活の時間を削り、夢を追いかけている。同年代はまだ知りもしないような、会社の規則、社会の風習、過酷な競争に晒され、何を想うのか。

 それでも夢を追い続けるのか、つまるところはもう本人次第。


pSSR【琴・禽・空・華】幽谷霧子 (21/02/28)
o t o

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Landing Point 有栖川夏葉(21/07/10)
放課(1時間目)

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【アイムベリーベリーソーリー】(21/07/31~)
第4話 ー Crazy Sunday

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【きよしこの夜、プレゼン・フォー・ユー!】(19/12/13~)
第5話 ー 16:57 PM

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 そしてアイドル業は他の職業よりも早く、引退の時がやってくる。その時までに夢をかなえられていたとしても、夢半ばで挫折する結末だとしても、その先も生きていかなければならない。
 4年目に突入したシャニマスは、そんな「夢の先」に言及していく。


W.I.N.G. 七草にちか(21/04/05)
may the music never end

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【アンカーボルトソング】(21/05/31~)
第6話 ー  のびる、びる

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【OO-ct. ──ノー・カラット】(21/06/30~)
第6話 ー 

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 アイドルという夢がどんな過程を経たとしても、どんな結末を迎えたとしても、構わない。その先で幸せになれるなら、アイドルという職業自体は手段に過ぎない。283プロのバックアップも、我々のプロデュースも、彼女たちが幸せになれるための助けになれば、それで良い。
 トップアイドルを目指す物語である筈のシャニマスは、しかしそれよりも大切なものの存在を私たちに問いかけている。


【アイムベリーベリーソーリー】(21/07/31~)
エンディング ー あい

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 今回、アイドル業の仕事内容にはあまり触れず、一番外枠の無機質な部分だけを書いた。内側の部分についてはこのnoteの続きとして書きたい。

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