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大好きなシャニマスの世界~人を理解するということ~

 アイドルマスターは何をするゲームだろうか。

 恋愛ゲームだとか音ゲーだとか、そんな側面が無いわけではない。シミュレーションゲームだとか育成ゲームと言われれば、本質に近づいているような気がする。しかし私は、アイマスはコミュニケーションのゲームだと思っている。

 アイマスではストーリーのことをコミュ、すなわちコミュニケーションと呼んでいる。基本的にはアイドルとプレイヤーとのコミュニケーションだ。そのゴールは究極の相互理解
 疑似恋愛ゲームの側面のあるアイマスにおいて、この究極の相互理解によって得られるカタルシスは計り知れない。だからそのシナリオは、プロデューサーとの信頼関係と仕事の成否が比例していく様を楽しむものになっている。

 しかし、シャニマスはそうではない。
 結論から書くが、シャニマスの世界は人は究極的には理解し合えないものとして描いていると、私は感じている。アイマスをコミュニケーションのゲームだと思っている私にとって、そんな描かれ方をするシャニマスの世界はとても恐ろしく、そしてそこが大好きなのだ。

これは、色々なコミュに散りばめられたテーマの中で共通すると感じるものを、私の思考を整理するためにまとめたものです。ネタバレも多分に含まれるためご注意ください。


人を理解することは簡単でないと捉えるアイドル達

 シャニマスのアイドル達はみんな一癖も二癖もある、なんて表現は正しくない。そもそも、人間は誰しも表面的な一言で表すことなどできないのだから。生きてきた長い年月の中で、見たもの聞いたもの感じたことのすべてが、その人の人格を形成している。
 この世には誰一人として同じ経験をしてきた人間はいない。ならば誰一人として同じ考えを持つ人間はいない。そして登場人物たちもそのことを理解している。


pSR【チエルアルコは流星の】八宮めぐる(19/04/19)
同調の水、されど

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W.I.N.G. 市川雛奈(20/04/12)
take the cake!

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 最も他人との心の壁が薄いめぐると、壁が厚い雛奈が、口を揃えている。これこそがシャニマスの世界なのだ。裏を返せば、相手のことを理解したつもりにならないことは、相手のことを尊重しているということではないだろうか。

めぐるは自然体で社交的な元気っ子だから友達もいっぱいいそう
三峰は好きなサブカルのネタについて早口で喋りそう
霧子は常に包帯を巻いてるから精神病んでて自傷行為してそう
樹里は金髪に染めてて素行の悪いヤンキーっぽい
凛世はおっとりした喋り方だから感情の起伏が乏しいアンドロイドっぽい
あさひは我が道を行くから周りが着いてこれなくても気にしてなさそう
冬優子は可愛いアイドルを演じてるけど実は腹黒なオタサーの姫っぽい
透は持ち前のカリスマ性でアイドルも楽々こなせるんだろうな
にちかはなんか華が無くてモブキャラにいそう

 なんて第一印象は、長い年月をかけて作り上げた自身を守るための鎧であったり、あるいは本人にとって切迫した弱点だったりする。そんな他者から見た自分の印象とどう向き合っているのか、彼女らの胸中を記号化して理解しようなどと到底おこがましい。
 となれば、その人間の深層を暴き理解しようとすることがどれだけ尊く、また時にどれだけ無粋であるかが分かるだろう。



それでも、Pは理解しようと努力を

 それでもシャニPがアイドルにとって一番の理解者になろうとする、その姿勢を崩すわけではない。シャニPは常に、彼女たちが何を感じて何になりたいのか、その言葉を引き出そうとしている。なぜなら、彼のプロデュースのモットーが『望む空に羽ばたけるように』だからだ。


W.I.N.G. 樋口円香(20/04/06)
心臓を握る

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 しかし、アイドルといえど直ぐに心を開いてくれる訳ではないし、逆に関係が進むことで隠されてしまう心もある。2人は互いを想い合っているのに、それによって起こるすれ違は、プロデュースにも影響を与える。
 凛世のプロデュースにおいてはその問題が特に顕著だ。彼女はシャニPに好意的であるが、シャニPが彼女の望む空を捉えることは難しい。それでも心という名のレコードに針を落とし、音に出すように促すのだ。


pSSR【水色感情】杜野凛世(19/09/20)
R&P

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pSSR【われにかへれ】杜野凛世(20/08/11)
月があたらしい

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G.R.A.D.杜野凛世(20/05/13)
he

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 凛世はシャニPに対して、恋心あるいはそれに近しい感情を抱いているアイドルだ。しかしその禁断の想いは、シャニPが凛世の心を知ろうとすればするほど奥底へと押し込まれてしまう。かといって無私に徹するほど禁欲的な少女ではなく、隙を伺いその心恋【うらごい】を覗かせる。そしてそのもどかしい想いは、アイドル活動の原動力にも障壁にもなり得る。
 そんな綱渡りのような凛世のプロデュースにおいて、凛世の秘める想いのすべてをシャニPが理解することが正解だとは思わない。それでも、シャニPが凛世のことを知ろうとする姿勢はそれ自体が救いになり得るのだ。


pSSR【ロー・ポジション】杜野凛世(21/03/22)
木に花咲き

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 また一方で、シャニPがアイドルの理解を深めようとする行為が、必ずしも好意的に受け取られるとは限らない。その距離感に警戒される場合もあれば、拒否反応を示すアイドルすらいる。


pSSR【それなら目をつぶりましょう】三峰結華(19/05/10)
だから守って、踏み込んで

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pSSR【ギンコ・ビローバ】樋口円香(20/10/21)

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 生きてきた長い年月の中で、見たもの聞いたもの感じたことのすべてが、その人の人格を形成している。その人格に不用意に迫る行動は、それそのものが非常に無粋な行為だ。プロデューサーとアイドル、というビジネスパートナーの間柄では限界がある。異性であれば尚更だ。
 その距離感に恐怖や嫌悪感を示す子も、多感な時期の少女達の中には居て当然なのだ。そしてシャニマスはそんな当然を描写する。

 シャニマスを追う上で忘れないようにしたいのは、プレイヤーである我々の視点とシャニPの見えている景色が違うことだ。
 シャニPは『大人しくて喋るのが苦手な少女』の役はめぐるとはちょっと違うタイプだと考えている。凛世のモノローグを聞くことができないシャニPは、彼女の秘める想いの全容を捉えられていない。上記の三峰のセリフも、コミュタイトルが彼女の本心を記しているのだが、そんなメタ視点はシャニPには無い。私たちはBGMからも空気の流れを感じ取れるが、シャニマスの世界の人間はそうではないのだ。

 しかし、ここにこそシャニマスの落とし穴がある。
 我々プレイヤーはシャニPより高い視点でコミュを眺められるからアイドルの本心を理解できているんだ、というそんな驕りは我々に牙を剝く。

 コミュ内で開示されている部分だけでアイドルを理解した気になっていると、我々は大火傷をしてしまうのだ。


pSSR【NOT≠EQUAL】三峰結華(19/08/31)
動点Pとの距離を求めよ

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pSSR【ギンコ・ビローバ】樋口円香(20/10/21)

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アイドル同士でも、通じ合うことは容易でない

 同じユニットの仲間同士でも、容易に『通じ合う』なんてことにはならない。言葉にして伝える、あるいは言葉にするように促す、そうしたことの積み重ねでしか互いの理解度を上げることはできないのだ。


【Catch the shiny tail】(19/01/31~)
第6話 ー あのね、あるの、悩み事

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ファン感謝祭アンティーカ(19/04/01)
ヤケン・イウトヨ/ねえ、アンティーカ

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【薄桃色にこんがらがって】(20/02/29~)
第6話 ー 薄桃色にこんがらがって

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 シャニマスは言葉にして伝えることの尊さを説いている。それはとても痛みを伴う行為であり、それによりアイドルの「弱い面」「汚い面」「嫌な面」が露出することだってある。しかし言葉にすることで本人もそういった自分の側面を自覚し、また仲間からも声を貰い、自分という人間を見つめなおす機会となる。それがアイドルとしての、そしてユニットとしての成長へと繋がっていくのだ。

 ひとつ壁を乗り越えたように見えたからといって、その後は容易に通じ合えるというわけでもない。問題を乗り越えたことにより別の問題が露呈することもある。長い時間を共有したからといって、その分声に出さずとも通じ合えるというわけでもない。だから、決して声をかけることをやめてはいけない。心にかけることをやめてはいけない。相手を理解した気になって、耳を傾けることを疎かにしてはいけない。


【天塵】(20/06/30~)
第2/5/6話 ー 視界1/視界3/

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ファンとアイドルという非対称コミュニケーション

 プロデューサーとアイドル、あるいはアイドル同士という極めて近しい関係でさえ理解し合うことが難しいのに、それがファンとの間ともなると簡単なわけがない。ファンという一方的に言葉を浴びせることができる不特定多数の人々との意思疎通、という部分はどうしても話が生々しくなりやすく、他シリーズでは敬遠されがちなテーマだ。
 しかしシャニマスの世界では多種多様なファンが登場し、様々な視点でアイドルを評価していく。そして『見られるのが仕事』である以上、そういった自分の人物評が望まぬものであったとしたら、時には戦い、時には折り合いを付けていかなければならない


pSSR【オ♡フ♡レ♡コ】黛冬優子(19/11/20)
#EGOIST

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ファン感謝祭ノクチル(20/11/10)
感謝祭本番後(MVP)

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Landing Point 幽谷霧子(21/06/11)
霧子

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 その言葉の中には本人の励ましになること、原動力になることもあれば、否定したいこと、見抜かれたと感じること、あるいは意識していない部分を突かれ困惑することもあるだろう。そんなものが入り混じる中で、アイドルは『自分の届けたいアイドル像』を示していかなければならない。

 そしてコミュニケーションにおいて、届けたい形がそのまま相手に届くとも限らない。アイドルがこれで良いと自信を持っていた行動も、自分を応援していた人を傷つけることだってある。


G.R.A.D.白瀬咲耶(20/06/10)
ラブレター・フロム

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【many screens】(20/08/31~)
第4話 ー 大入御礼

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 プロデューサーとアイドル、あるいはアイドル同士という場合と違い、ファンとアイドルのコミュニケーションは非対称だ。ファンは、自分達に向けられたアイドルの言葉を全て受け取ることができる。しかしアイドルは、自分に向けられたファンの言葉の全てに応えることはできない。
 アイドル業的に考えれば、最大公約数的な声に応えるのが正解だろう。そんな中では上図の言葉達はノイジーマイノリティになる。しかし、だからといって軽く流すのは難しい。その言葉に対し時には戦い、時には折り合いを付けていかなければならない。

 ファンとアイドルのコミュニケーションはどうしようもなく非対称なのだ。ファンがどんなに声を枯らして応援しようと、そのすべてを聴き分けることはできない。そしてアイドルが言葉や行動を尽くして、そのたった一人のファンに応えようとしても、反応なんか得られない。たった一人のファンの返事なんか見つけられない。咲耶は次の手紙を待ち続ける自分を都合が良すぎると評し、果穂も自分の行動がハガキの子に「届いているといいな」と想いを馳せて物語は幕を閉じる。

 ファンが考えを改めてくれた、アイドルの想いはちゃんと届いた、なんて明確なハッピーエンドをくれるシャニマスではない。そんなに簡単に、人は人を理解できないし、ファンとアイドルの非対称性は飛び越えられない。それはシャニマスのシナリオが描く、美しく、残酷で、アイドル業に対しての誠実さが感じられる部分だ。

 そんな世界でのファンとの向き合い方は、やはりアイドルによって違う。何故なら誰一人として同じ考えを持つ人間はいないのだから。


pSSR【AKQJ10】有栖川夏葉(20/03/19)
Quenchless…

――なんか今度のイベントでアイドルがコスプレして宣伝するらしいんだけど、なんで?
――この有栖川って人はじめて知った
――この人出てた番組見てみたけどインパクト薄くてもう内容忘れたわ
――似てるとか騒いだやつは責任持ってイベント行け
――そもそもなんでアイドルにやらせるんだよ
――運営は何考えてんだ

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pSSR【♡LOG】市川雛菜(21/02/19)
CAM:P

――283プロって綺麗なんだな、なんか安心したわ
――こんな所映して大丈夫? 雛奈怒られない?
――雛奈ちゃんはノクチル以外で仲いい子いる?
――ソファに雛奈ちゃんの好きなキャラのクッションある!
――そのキャラあんま可愛くなくない? 笑
――今度料理してるところ撮ってよ!
――雛奈ちゃんの部屋見たい! 今度やってくれる?

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変化する人間への理解

 そして時間が経過する中で、本人も環境も変化していく。成長していく人間は決して不変的ではない。そんな流動的な『人間』を完全に理解することなどできない。


【The Straylight】(21/01/31~)
オープニング ー ON YOUR MARK

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 アイドルから見えている景色も、成長と共に変化していく。これは人間への理解を常に更新し続けなければならないことを意味している。その人に寄り添いたいのであれば、その人の成長を追いかけ続けなければならない。


 そしてそれは逆に、一度心を近づけた相手であっても、こちらが停滞していればその人との距離は徐々に開いていってしまうことを意味する。ともすれば目の前にいる理解の追いつかない現在の相手より、思い出の中にいる理解が追いついていた頃の相手の方が魅力的に見えてしまうことさえあるかもしれない。そんな、アイドルゲームとしては異色のテーマが、最近のイベントで扱われた。


【アンカーボルトソング】(21/05/31~)
第1話 ー かわった

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第3話 ー  memory

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第5話 ー  みんな

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 人を理解し、その人が見ている景色を感じ続けたいのであれば、その人の変化と成長を追いかけ続けなければならない。一度心を近づけた相手であっても、それを維持したいのなら互いに成長し続けなければならない。それはプロデューサーでも、アイドル同士でも、ファンであっても変わらない。


第6話 ー  のびる、びる

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理解しようとすることそれ自体が

 今まで見てきたものが違うから、互いを理解するのは簡単ではない
 信頼関係が無ければ、人格に迫る行為はそれそのものが無粋で
 言葉を尽くさなければ、近しい人にすら想いは伝わらない
 力を尽くしても、遠くの人に想いを届けるのは難しい
 そしてこれからも変化を続ける心を、追いかけるのはあまりにも――

 だとしたらやはり、人は究極的には理解し合えないものなのだろう。それなのに理解し合いたいと望むなら、その想いはもう理解することよりも尊いに違いない。シャニマスは世界をそんな風に描いている。


【くもりガラスの銀曜日】(20/05/31~)
第6話/エンディング ー くもりガラスの銀曜日/星空を、ひとつまみ

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【見て見ぬふりをすくって】(21/02/28~)
エンディング ー いつつのままでひとつ

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 また変化していく相手のことを知っていたいのなら、常に今の目の前の相手を見つめなければならない互いに相手が思い出にならないよう、努力し続けなければならない。シャニマスは世界をそんな風に描いている。


【アンカーボルトソング】(21/05/31~)
エンディング ー 槌をうつ音がきこえる

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 そしてそれは、シャニマスの中のアイドルやプロデューサーやファン達がそうであるように、その世界を見つめている我々プレイヤーも同じなのではないだろうか。例えば私が文章でいくらアイドルについて綴ろうと、それはアイドルの心情を代弁しているわけではない。今開示されているコミュまでのアイドルの心情に追いつけたとしても、時が経てばばまた変わっていく。私がやっていることは理解ではなく推察にすぎないのだから。

 それでも、シャニマスに教えられたことを体現するなら、アイドルについて知ろうとする行為はそれ自体がきっと、美しいに違いない


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 今回「自分自身とて自分のことを完全に理解しているわけではない」というテーマは、文量的にも扱いきれないと感じたので意図的に避けた。またいつか機会があれば書きたい。

→書いた


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