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大好きなシャニマスの世界~自分を見つめるということ~

 シャニマスの世界は人は究極的には理解し合えないものとして描いていると、私は感じている。

 これはすなわち、自分を理解できるのは自分だけである、という意味だろうか。いや、これも恐らく正確ではないだろう。
 自身のアイデンティティを無理やり言語化しても、自分を納得させることはできない。自分のことを見つめるという行為は、時として他人を理解することよりも更に難しく、そして答えが無い

 そして自分を知った先で、自分らしい生き方が社会で受け入れられ、自分の個性から生まれる可能性で人を幸せにできることが、いかに尊く、そして困難であるかを、シャニマスは描いている。

これは、色々なコミュに散りばめられたテーマの中で共通すると感じるものを、私の思考を整理するためにまとめたものです。ネタバレも多分に含まれるためご注意ください。


鏡を覗いても自分色なんて自分じゃ見えない

 私たちは思春期に差し掛かる頃、自ずと他人と自分の違いを探すようになる。それがすなわち個性。自分という人間に価値を見出すには、必要不可欠な要素といえるだろう。
 特に、個性を武器にするアイドルにとって、自分の個性と向き合うことは避けては通れない。一方で多くの人間がそうであるように、彼女たちにとってもまたアイデンティティの確立は容易なことではない。だからこそ、それらを言語化して掘り下げなければならない。


sSR【迷走チョコロード】園田智代子(18/04/24)
普通の女子高生?

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【廻る歯車、運命の瞬間】(18/05/04~)
第3話 ー 凛と咲く、そのために

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 本来なら自身のアイデンティティを見つけるのに期限はない。長い人生で時間をかけて向き合っていくものだ。しかしアイドルという生業にとって、個性とは記号的であり即物的に求められてしまう。
 それは売れるための個性付けとして本質を見失う危険性も孕んでいる。


 そんな中で、シャニマスには仕事において事前アンケートやプロフィールを準備する描写が非常に多い。恐らくは実際のタレント業もそうなのであろう。アイドルたちには常に自身と向き合う機会が用意されており、それだけ個性が求められていることを物語っている


pSSR【好きなものはなんですか?】大崎甜花(19/04/29)
連載第1回『ゲーム』

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pSSR【10個、光】浅倉透(20/05/13)
1こめ

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Landing Point 風野灯織(21/05/10)
知らない

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 そして彼女たちは皆、それらの答えに頭を悩ませている。人は自分が思っているほど自分自身を理解できてはいない。それらが商品になるなら尚のこと、他人から見られる自分を強く意識して言語化しなければならない。

 シャニマスの物語の中には、そんなアイドルに寄り添ってアイデンティティの確立に努めるエピソードが数多くある。それはアイドル業の特殊性を抜きにして、私たちの人生にも通ずる気付きがあると感じずにはいられない。


Landing Point 風野灯織(21/05/10)
『ない』はない

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周りの人から見た自分

 自分を見つめるにあたり、一人で思考を煮詰めても効果は薄い。個性とは相対的なものであり、言い換えれば他人と自分との差分なのである。ならば、自分を知るには他人を知る必要がある周りの人から自分がどう見えているかを知る必要がある。人々との密接な関りが、自己を見つめることに繋がっていくのだ。


G.R.A.D. 有栖川夏葉(20/05/13)
また、明日から

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sSR【咲耶と摩美々のぶらり旅】白瀬咲耶(19/01/21)
光のしずくが落ちる場所

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【完録、クエストロメリア!~サイコロ編~】(19/04/29~)
第4話 ー 大人じゃないんだもん

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 他者から見た自分は往々にして、自分の思い描く姿と乖離している。そういった言葉を貰うと、自身のことを誤解されいると感じてしまうだろう。しかし自意識に塗りつぶされた自分像より、客観視された近しい人からの印象の方が核心を捉えていることだって少なくない。私たちはいつだってそのことに葛藤し続けている。
 だからこそ、そうした人格に触れる部分を互いに伝え合うことが、自分像の輪郭を捉えるヒントになるのだろう。


Landing Point 八宮めぐる(21/05/10)
私じゃなくてもいいでしょう?

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 めぐるは、最初に声をかけてくれた友人のおかげで、自身の社交性が生まれたと考えている。友人は、たまたま自分がきっかけであっただけで、めぐるは元から社交性のある人間だと感じている。2つのどちらが真実、なんてことは誰にもわからない。
 めぐるは友人への感謝の気持ちに疑いなく、しかし明確に互いの想いを伝え合ったことはこれまで無かった。伝えることの大切さを知ったから、めぐるは友人に数年ぶりに声をかけたのかもしれない。

 シャニマスは言葉にして伝えることの尊さを説いている。
 自分という存在はどう感じ取られているのか、他人の目に映る自分を知ることで自意識が覆ることだってある。その羽の君色を伝えられるのは、一番近くで大切に想ってくれる人なのだと、めぐるは教えてもらったのだ。


Star n dew by me(19/10/31~)
エンディング ー 呼吸のソルフェージュ

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アイドル以前の自分像と向き合う

 当然ながら、彼女たちの人格形成はアイドルになるより以前から始まっている。特別なアイドルである以前に、普通の少女である彼女たちの人格に向き合う必要があるのだ。

 例えば、社会活動の中で自然体を歪めて自分像を作り上げるのは、別にアイドルに限った話ではない。周囲の人間とコミュニティを形成する上で、人は誰しも自分像を調整しているのだ。そういった性質も含めて、その人の個性と言えるのではないだろうか。
 状況や自分を見ている相手に依って自己を演じ分ける様は、社会学で論じられるところのドラマツルギー的な立ち振る舞いというのだろうか。結華には特にその描写が多く、彼女は作り上げた自分像を明確に意識している。


pSSR【それなら目をつぶりましょう】三峰結華(19/05/10)
だから守って、踏み込んで

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【見て見ぬふりをすくって】(21/02/28~)
第2話 ー 珍しいこと

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Landing Point 三峰結華(21/06/11)
私の真ん中を知っている

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 結華は自分のことを異常なまでに客観視できているアイドルだ。親しい相手には、それ自体を自虐的なコミュニケーションツールしている節すらある。その性格ゆえに器用にアイドルをこなす彼女は、しかし人知れない湖の奥で苛まれ続けている。そしてそんな自分を誰にも知られたくないし、理解されないと思っている。だから自分像を演じ取り繕ってしまうのだ。
 ならば、負のスパイラルに陥りやすい彼女の自意識を救うには、そういった彼女の性質すべてを知った上で、包み込まねばならない。

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 幼少の頃の体験や親からの教育が、自身の性格付けの要因となることも珍しくない。物心がついた瞬間から私たちの人格は育ち始めているのだ。
 凛世は芸事の家元に生まれ、幼少から姉が稽古を積む姿を見てきた。そのため彼女の芯には舞台に臨む姿勢が刷り込まれていた。


Landing Point 杜野凛世(21/07/10)
きみはサンカク

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 舞台とは、自分を見てもらうため、自分を可愛く見せるために臨むものではない、と凛世は幼心に刻んでいた。その心得はともすればアイドルと相反するもののように思える。芸とは繊細に、丁寧に、無私に徹して景を見せるものであると。その様は凛世の奥ゆかしい性格のルーツといえるだろう。
 しかし凛世は、アイドルと、そしてプロデューサーと出会った。アイドル活動を続けるにつれて芽生える『欲しい』という感情。『魅了したい』という欲望。それらは今までの自分の生き方と対極なのだろうか。

 芸事とアイドルも、奥ゆかしい凛世と貪欲な凛世も、その本質は同じなのかもしれない。アイドルにとって見せるべき景とは、自身なのだから。


Landing Point 杜野凛世(21/07/10)
舞台

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 人は誰しも、正解だけを選び続けて生きてきてはいない。長い時間をかけて築かれた自分の性質を変えるのは、恐ろしくて勇気の要るものである。彼女たちがアイドルを続ける上で、真にやりたいこと、望むことの為に、変わるべきことがあり、変わる必要のないことがある。アイドル以前の自分像と向き合い、時に自分の殻を破り、時に自分を尊重する。そうした選択の積み重ねで、人は成長するのだろう。


G.R.A.D. 櫻木真乃(20/05/13)
空はつづく

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能動的に生み出すアイドル人格

 生きてきた中で生まれた自意識や個性だけでは、アイドルとして通用しない。既存の自分を成長させてアイドル像に繋げる者がいる一方で、既存の自分とは別の個性付けでアイドル像を能動的に作り出そうとする者もいる。

 それを凡庸に『キャラ付け』と形容してしまうのは容易い。しかしアイドルの思考プロセスを丁寧になぞることで、そこに相応の努力と覚悟を読み取れるシナリオになっている。セルフプロデュースあるいはブランディングなどと呼ばれるような、プロ意識の賜物であるのだ。


G.R.A.D. 園田智代子(20/05/13)
マイ スイート♡ウェポン

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 されどアイドル活動のために作った自分像。ただでさえ多感な時期の少女たちにとって、そこへの葛藤は計り知れない。
 最初から特別好きな訳ではなかったチョコをキャラ付けとして選んだ智代子、自分を守るために自身と正反対のクールキャラを選んだ愛依。少女としての自分とアイドルとして作り上げた自分の差異に、彼女たちは自身の在り方を考える。心の持ちようを考える。


【[MAKING]スノー・マジック!】(20/01/01~)
第2話 ー [behind]usachiyokame

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 しかしその作られた個性、人格、自分像は、アイドルとしてファンの期待に応えるため、なりたい自分になるために生まれてきたのだ。自分を見ている相手に依って自己を演じるのは、アイドル(偶像)たる彼女たちのファンへの愛のカタチに他ならない。

 だとしたら、その人格は作り物であったとしても偽物であるはずがない。そうまでして大切な人を喜ばせたいという想いと行動力は、紛れもなく彼女たち自身の個性であるのだから。


【The Straylight】(21/01/31~)
第5/6話 ー PLAYBACK/GET SET

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G.R.A.D. 黛冬優子(20/07/10)
ひとりじゃなくてふたり

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受動的に生み出されるアイドル人格

 アイドルという職業柄、彼女たちを見ているのは親しい人間だけではない。シャニマスの世界では多種多様なファンが登場し、様々な視点でアイドルを評価していく。

 時として、自分の知らない一面をファンに教わることだってある。アイドルとファン、近いようで遠いはずの関係性で「スキ」という気持ちひとつでアイドル自身も知らない魅力を見つけてくれる。それはきっとアイドル業の持つ最も美しい性質のひとつだろう。


sSSR【ラムネ色の覚悟】西城樹里(18/08/20)
You're my dream

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sSSR【夏風渡るdiary】櫻木真乃(21/06/30)
また会おうね、3人とも

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 アイドルになり、劇的に変化する環境の中で、アイドル活動の為の人格が受動的にも生み出されていく。しかし、そこで知らない自分に出会うのは必ずしも心地の良いことばかりではない。
 新しい自分の姿に自分の心が追いつかないなんて状況に陥ることもあるだろう。知らないうちに自分の個性が増やされていくことに、恐怖や嫌悪感を抱かずにはいられない。自意識の外側で否応なく成長する自分を見つめながら、軋む心が描かれる。


sR【283プロのヒナ】樋口円香(20/04/13)
溶ける言葉

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G.R.A.D. 大崎甘奈(20/06/10)
無理にでも浮かび上がる

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pSSR【NOT≠EQUAL】三峰結華(19/08/31)
これが間違いなのだとしたら

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 自分の預かり知れぬ領域にある、他者からの期待の込められた自分。自己肯定感の低い者ほど、今まで生きてきた自分像と地続きでない姿に異物感を覚える。自覚の無い魅力を見出され、それが誤解ではないかと不安になる。
 しかしどんな魅力も、彼女たちの内から生まれた自分色であるのだと、そう自信を持つことが大切なのである。その羽は光の当たり方で如何様にも色を変えるものなのだから。


pSSR【I♡DOLL】大崎甜花(19/11/11)
I am a DOLL

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 自覚の無い輝きを見つけるヒントは、何気ない日々の中にある。自分は空っぽだと思っている少女に、根気よく寄り添い、目を離さず、耳を澄ませて、そうして初めて感じ取れる原石の輝きの気配を逃さぬように。プロデューサーの役目は、アイドルの一番近くで彼女らの個性を、魅力を、輝きを見つけて、支えていくことなのだ
 そして、自身の新たな一面に彼女たちの心が追いつくまで、寄り添っていかなければならない。


pSSR【ピトス・エルピス】樋口円香(21/08/31)
gem

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自分自身との闘い

 ファンに望まれる特別の自分。彼女たちが夢見た望む姿の自分。アイドルとして多くの人を勇気づけることができる自分。しかしそこに到達してなお、葛藤は終わらない。
 普通の女の子であった人格は、決してアイドルの人格に上書きされることは無い。特別な自分が脚光を浴びるほど、普通の自分がくすんでいくような感覚。自分の価値が『アイドルであること』に支配されてしまいそうな恐怖と、彼女たちは闘っている


G.R.A.D. 桑山千雪(20/06/10)
予選前コミュ

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 アイドルとして成功に近づくほど、摩耗する自己肯定感。そんなテーマにまで切り込まれるシナリオ。
 そして、プロデューサーの答えはいつだって決まっている。自分の資質、能力、個性、人格を値踏みされ続けるアイドル活動の中で、しかし自分の本当の価値を決められるのは自分自身であるべきなのだ。


G.R.A.D. 桑山千雪(20/06/10)
C.K

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G.R.A.D. 浅倉透(21/04/21)
息したいだけ

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 大勢の人に自分の個性を見られ続ける、私たちには想像もできないような環境に身を置いている少女たち。不安定な年頃の彼女たちに、想像を絶する重圧がのしかかる。そんな日々の中で、他人に見いだされた偶像(アイドル)に呑み込まれないように、自分を見失わないように、彼女たちは闘い続けている


G.R.A.D. 浅倉透(21/04/21)
泥の中

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Landing Point 幽谷霧子(21/06/11)
心があるところ

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少女たちの自己実現

 少女たちは、時に自分のことすら理解できないと苛まれている。
 アイドル活動でそれまでの自分が成長することもあれば、新しい自分に出会うことだってある。でも全部ひっくるめて自身から生み出された個性の輝きであり、それによって多くの人を勇気づけている。そして自身はその環境に圧し潰されぬよう、自分を見失わないよう、闘い続けている。

 人は、自分らしい生き方が社会で受け入れられ、自分の個性から生まれる可能性で人を幸せにしたいという欲求を持っている。最も尊く、最も人間的な欲求。いわゆる自己実現欲求。


【Run 4 ???】(21/10/31~)
第4話 ー soliloquy

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【明るい部屋】(20/12/11~)
第6話 ー 消防士

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 それはもう、アイドルに限らない。自分のやりたいことが仕事にできて、人の役に立てたら、人生においてこんなに幸せなことは無い。

 だからシャニマスの少女たちもいつだって、自己の在り方と向き合い、個性を見つめ、自身の望むことを追い求めてきたのだ。幸せそうな色をして、望む空に羽ばたけるように。



 しかしそんな少女たちを描いた上で、シャニマスは今一度そのテーマをひっくり返し、私たちに再考させようとしている


W.I.N.G. 七草にちか(21/04/05)
may the music never end

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 身に纏ったアイドルというアバターは、それが真実であっても狂気であっても自分自身に他ならない。アイドルになる為に、誰かになる必要なんてない。283プロにはたくさんのアイドル達がいて、その全員が異なる歩みで自己の葛藤を乗り越えてきた。
 しかしそんな環境で最後に283の門を叩いた2人の少女は、ありのままの自分がアイドルとして通用しないのではないかという恐怖を、今までの誰よりも色濃く抱えていた。


W.I.N.G. 七草にちか(21/04/05)
on high

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 自身の才を悲観した結果、自分のアイドルとしての在り方を他人に縋ってしまう少女。自分の個性なんかに価値は無く、偽ることでしか認めてもらえないと怯えるその姿は、自己実現とは程遠い。


W.I.N.G. 緋田美琴(21/04/08)
become

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 価値があると信じて自分の信念を貫いた結果、長い時間停滞をしてしまった少女。自分のやりたいことが、実は誰にも必要とされていないのではないかと怯えるその姿は、自己実現とは程遠い。


 アイドルとは憧れの職であり、生半可な覚悟で選択できる道ではない。
 だからアイドルになった彼女たちにとって、やりたいことを仕事にするという望みは既に叶っている筈だと、そう思ってしまう。少なくとも現実のアイドルに対して、私は少なからずそういった目を向けていた。
 しかし、アイドルという職自体は、他の数多の生業と同じく、自己実現の手段にはなってもゴールにはなり得ないのだ。


 人は、自分らしい生き方が社会で受け入れられ、自分の個性から生まれる可能性で人を幸せにしたいという欲求を持っている。それは最も尊く、最も人間的で、そして恐ろしく達成困難な欲求。だからシャニマスはもう一度そのテーマを中心に据えて、私たちに問いかけている。


【OO-ct. ──ノー・カラット】(21/06/30~)
第4話 ー 

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 これは、わたしがわたしになるための物語。自分を見つける物語。
 それは恐らく、2人に限らずシャニマスのすべてに共通するテーマ。私たちの人生にすら通ずる、人類にとっての永遠の命題。

 アイドル(偶像)として走り出した少女たちが、自分らしい生き方、自分の望むやり方で、人々を笑顔にできるのか。自分を笑顔にできるのか。プロデューサーは少女たちをどうやって望む空へ羽ばたかせるのか
 シャニマスはその決して簡単ではないテーマに、決して簡単ではない物語を用意して、私たちを待っている。


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