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[感想] ダークタワー VII 暗黒の塔

ついに、終わった。塔へ至る長い旅が。
他の本も合間に読んだりしてたから読み終わるまでにかかったのはちょうど1年ぐらい。
時間がかかったからこそずっと一緒に旅をしていたような気がする。

これまでのあらすじ

真紅の王の勢力により吸血鬼の巣窟である"ディキシー・ピッグ"に連れ込まれたスザンナとミーア。彼女たちの出産の時は近づいており、もうすぐ妖魔の子・モルドレッドが産まれようとしていた。
スザンナを救うべく"ディキシー・ピッグ"にやってきたジェイクとキャラハン神父。彼らは自分たちの死を予感しながらも彼女を救うため突入する。
一方、薔薇の件を解決しスティーヴン・キングと会い衝撃の事実を知ったローランドとエディ。彼らはスザンナのいる時代に向かう。

感想

上下巻で1200ページ以上あったから読むのに結構時間がかかってしまった。仲間との別れはすごく辛かったけど、塔に取り憑かれたローランドの宿命ともいえる気がする。そしてラストシーンで本当に驚かされた。このラストを読んで、旅は目的地に行くことが大事なのではなくその過程こそが大事なのだということをダークタワーを通して感じた。ローランドとともに旅した時間は本当に楽しかった。
正直、自分は作者の熱心なファンとは言いがたい。読んだことがあるのは『IT』、『ミザリー』、『シャイニング』、『恐怖の四季』のみ。
その中ではこの作品が一番のお気に入りになった。

気に入ったところ(長い&ネタバレあり)

 ジェイクは、ここで死ぬんだと確信して足を踏み出しながら、自分の真の父であるローランド・デスチェインが言った二つのことを思い出していた。わずか五分の戦いが千年も語り継がれる伝説を生み出す。そして、もうひとつ。自分の最期が来たときに幸せに死ぬ必要はないが、心満ちたりて死ぬべきである。

"ディキシー・ピッグ"へ突入する際、自らの死を覚悟するジェイク。彼はまだ少年なのに覚悟を決めて自分の役割を果たそうとするところに心を打たれる。そして死への恐怖が全く描写されていないところに驚愕。やはり彼も少年ながら立派なガンスリンガーになったということが分かる。ジェイク、死ぬな。

そしてスザンナたちと合流する道すがら精神だけがトリップしたローランドとエディ。彼らは仲間のいる時代へトリップした。

 無鉄砲であろうが、そうでなかろうが、ローランドはジェイクをかぎりなく誇りに思った。ローランドは、少年が自分自身とキャラハンのあいだにカンダの体勢を取っているのを目撃した。その距離(ふたりの状況によって変わってくる)が自分たちより多勢の敵に一撃で倒されないようにしている。

自分がいなくても教えたことをちゃんと実行しているジェイクを誇りに思うローランド。弟子が指導者の教えを守っているのを目撃するのは本当に嬉しいと思う。

そしてローランドとエディは仲間の元へ向かう前に寄り道をする。

 エディは、カラムの通行料金箱をさらい、ローランドに六ドル分の二十五セント硬貨を手わたした。
「あそこに行ってくれ」エディはドラッグストアを指差した。「アスピリンを一瓶買ってきてくれ。見たらわかるよな?」
アスティンだな。わかるだろう」
「おれがほしいのは、小さなサイズの瓶のやつだ。六ドルってのはたいした額じゃないからな。それから隣の店に行ってくれ、ブリッジトン・ピザ&サンドイッチと書いてあるところだ。まだその硬貨が少なくとも十六枚残ってたら、サンドイッチのホーギーをほしいと言うんだ
 ローランドはうなずいた。だが、エディは満足しなかった。
「言ってみてくれ」
「ホーキ」
「ホーギーだ」
「ホンキ」
「ホー──」エディはあきらめた。「ローランド、プアボーイって言えるか?」
「プアボーイ」
「よし。もし少なくとも十六枚の二十五セント硬貨が残ってたら、プアボーイをくれと言うんだ。それから、〝マヨネーズをたっぷりと〟って言えるか?」
「マヨネーズをたっぷりと」
「よし。十六枚もなかったら、サラミとチーズサンドイッチって言うんだ。サンドイッチだ、ポプキンじゃない」
虱と膣産道一致
「まあ、いいや。極限状況にでもおちいらないかぎり、それ以上一言も口をきかないでくれよ

ローランドはじめてのおつかい in USA!
英語と彼の話す言葉は意思疎通が問題なくできるほどかなり近いが、全く一緒ではない。ローランドに発音できない単語もある。それを知っているエディは店員に怪しまれないよう正しく発音できる言葉を確かめる。実際に言わせて確認するエディの抜け目のなさに感心する。このシーンはシリアスなシーンが多い終盤でもほっこりできる数少ないシーンのひとつ。
果たしてローランドはおつかいを完遂できたのか…。

プアボーイ産道一致だ」ローランドは言った。「マヨネーズたっぷりで。そいつがなんなのか知らないがな。おれ自身は、そんな精液に似ているソースはごめんこうむるが、おまえの好きにするがいい」
 エディは両目をぐるぐる回した。
なんとまあ、実に食欲がわくご意見だ
「そうか?」

サンドイッチちゃんと買えた!買えたよ!
それにしてもマヨネーズを精液に似ているソースと形容するローランドはひどい。しかもこれから食べようとしている人の前で。
皮肉が分からないローランドにもめげずに皮肉を言うエディ。でもやっぱり通じてない。分かっていても無意識に言ってしまうんだろうな。

再出発し、かつてエルドに忠誠を誓っていた者の成れの果て(スローミュータント)を目撃する彼ら。
王の血筋であるローランドはその者から情報を聞き出す。

 エディは(中略)ローランドが銃をかまえる姿を思い描きつづけていた。ひざまずいている生き物に狙いをつけ、引き金を引くさまを。そんな男を、おれは指導者と呼び、友人と呼んでいるのだ。だが、塔〉に近づくために必要とあらば、ローランドは同じことをおれに……またはスーズに……あるいはジェイクにしないと言いきれるか?言いきれない。それでもおれはローランドとともに行く。心では、スザンナが死んでいる──ああ、めっそうもない!──と確信していても。なぜなら、そうしなくてはならないからだ。いまやローランドは、おれにとって指導者や友人以上の存在だからだ。
おれのオヤジ(My father)」エディは、ローランドが助手席側のドアを開けて入ってくる前に、ボソッとつぶやいた。
「なにか言ったか、エディ?」ローランドがたずねた。
「ああ」とエディ。「目的地まで、あともう少し(a little further)、そう言ったんだ」

自分に向かってひざまずいているスローミュータントに向かって躊躇わず引き金を引くローランド。彼を苦しみから解放するためとはいえ、なかなか冷酷だ。エディはいざとなれば自分を切り捨てるかもしれないと思いながらも彼とともに塔へ向かう。なぜか?
旅を続ける中で、ローランドはエディの中で指導者であり、友人であり、父のような存在になったからだ。照れくさいのかローランド本人にはぼかして伝えないところがかわいい。

一方、スザンナは…。

 産気づくにしたがい、スザンナ・ディーンは、ローランドの教えを実行した。すなわち、あたりを見まわし、敵が何人いるか数えたのだ。ローランドはこう教えた。敵の人数がわかるまで、または決してわからないのだと悟るまで、あるいは死ぬ覚悟ができるまで、銃を抜いてはならない。

出産を終えたら隙を見て脱出をしようと計画するスザンナ。彼女はローランドの教えを実行する。見よ、ローランド。おまえの教えは弟子たちにちゃんと受け継がれているぞ。ガンスリンガーの教えっていちいちカッコイイから困る。

場面は戻ってローランドとエディ。用事も一段落して出発の準備を整えている。

「おまえの銃を身につけろ、エディ」ローランドは擦り切れた白檀の銃把のリボルバーを差し出した。
 おれのだ。ローランドはいま、それはおれの銃だと言った。
エディは、少し寒気を感じた。
「おれたち、スザンナとジェイクのところに行くんだと思ったけど」と言いながらも、エディはリボルバーを手に取り、喜んで腰につけた。
 ローランドはうなずいた。
「だが、我らはその前に、ちょいとやっておかなければならないことがある。キャラハンを殺し、ジェイクを殺そうとしたやつらを相手にな」ローランドの表情はそう言いながらも変化しなかったが、エディ・ディーンとジョン・カラムはぞっとした。一瞬、ガンスリンガーをまともに見ることができなかった。

ちょっと前に精神トリップでスザンナやジェイク、キャラハン神父の様子を見ることができたので彼らに何があったかは分かっている。仲間を殺され、あまつさえジェイクも殺そうとした異形の物たちに怒りを隠せないローランド。どれだけジェイクを愛しているか伝わってくるシーン。"ディキシー・ピッグ"にいるやつら絶対全員殺すマンだ。そして…。

 周囲の空気に息を吞んだような感覚が生じた。まるで廊下が鋭く息を吸い込んだかのようだった。フラハーティの髪とラムラの毛皮が逆立った。フラハーティの手下であるロウ・メンと吸血鬼の一群は退却しだした。突然、ひとり、アルブレヒトという吸血鬼が金切り声をあげて、前に走りだした。それでふたりの新参者、まだ新鮮な水滴がジーンズとブーツとシャツを黒くぬらしている男たちが、フラハーティにも見えるようになった。足元には引きずられて埃だらけになった合切袋があり、リボルバーが腰に下がっている。若いほうの男が稲光よりも早く銃を抜く前に、フラハーティは白檀の銃把を目にしなぜアルブレヒトが逃げたかすぐに理解した。そんな銃を持っているのは一種類の人間しかいない。

来た!来たぞ!ふたりのガンスリンガーが!お前たちを殺しに!
業界では有名なのか、目にしただけで逃げ出す小物もいるらしい。
カーラでバラバラになってからようやく合流…。
これからガンスリンガーたちによる一方的な虐殺を想像するとワクワクが止まらない。

そして彼らは吸血鬼を何人か殺し、リーダーは誰か問い詰める。ローランドは口の端を触りながら吸血鬼たちを挑発する。

 フラハーティは話しながら銃を抜いた。それがことを有利に進めるために練習し、これまで何度も使ってきたかれの奇襲攻撃の方法だった。かれは素早かった。しかも銃を抜きかけたとき、ローランドの左手の人差し指は、まだ口の端を触っていた。にもかかわらず、ガンスリンガーはやすやすとフラハーティに先んじた。かれの最初の弾丸は、ジェイクの追っ手の首謀者の唇のあいだを貫通した。その結果、上顎の前歯が破片となってフラハーティの最期の息とともに喉を下った。二発目は眉間を撃ち抜き、フラハーティはニューヨーク/フェディックのドアに向かって飛ばされ、弾丸を発することのなかったグロックは手から落ちて廊下の床へと解放された。

少年の時から銃を抜くのは誰よりも速かったローランド。口の端を触っているところから銃を抜いてやすやすと先んじるところがマジで痺れるぐらいかっこいい。
一発目で割と即死な感じがするのに続けざまに眉間にぶち込むところもローランドの怒りが伝わってきていい。彼はエディと協力して殺しまくり、敵は残すところ一人。

「停戦を約束すれば、命ばかりは赦してくれるか?」
「断じて」ローランドは言って、リボルバーをかまえた。

やっぱり絶対殺すマン!ジェイクを傷つけるものに容赦はない。
敵は排除した。あとは合流するだけだ。

スザンナ!スーズ、そこにいるのか?」
 いったいだれが、夢物語以外で、心の底から愛し合う相手とほんのわずかのあいだ離れてしまうときでも、もっともありふれた用事をしに行ってしまうときでも、ふたたび必ず会えるだろうと本心から信じているだろうか?
いいや、だれもそんなことは期待していないのだ。いつだって愛する人が自分の視界から見えなくなるとき、われわれは心の奥深くで、相手は死んでしまったと思うものなのだ。これほど多くのことを与えてもらっているのだから、過剰な愛ごときのために、ルシファーのように堕ちてしまうことにはならないだろう、とわれわれは自分に言い聞かせるのだ。
 だからエディは、スザンナが答えたとき、まさか答えが返ってくるとは思っていなかった──別世界から、一枚のぶあつい木の向こうから。
「エディ?あなた、あなたなの?」
 ほんの一瞬前まで正常だったのに、エディの頭はもう持ち上げていられないくらい重くなっていた。かれはドアにもたれかかった。目も同じように開けていられないくらい重くなり、閉じてしまった。その重さは涙にちがいない。突然、エディは涙のなかで泳いでいた。涙が血のように温かく頰を伝って落ちるのを感じた。ローランドの手が背に触れていた。

エディとスザンナ、ついに再会!(一方通行のドア越しに)
姿を消したスザンナを追って異世界へ続くドアをくぐり抜けたものの、到着したのは別の時代だったエディ。本当は塔なんかどうでもよくて、スザンナさえ無事であればいいとさえ思っていただけに再会の感動もひとしお。心のどこかでもうスザンナはダメかもしれないという予感もしていたけど、無事再会できてよかった。そしてさりげなくローランドの優しさも表現されてて控えめに言って最高。


 ローランドが入ってくるときまでには、すでにエディはスザンナを持ち上げ、抱き上げていた。少年はガンスリンガーを見上げた。ふたりとも微笑まなかった。オイはジェイクの足元にすわって、ふたり分、微笑んでいた。
「ハイル、ジェイク」ローランドが言った。
「ハイル、父よ」
「そう呼ぶのか?」
 ジェイクはうなずいた。
「うん、そうしてもよければ」
「それは何よりもうれしい」ローランドは言った。
そして、ゆっくりと──自分にはなじみのない動きをするかのように──かれは腕を伸ばした。真面目な表情で見上げ、ローランドの顔から目を離すことなく、ジェイク少年は殺人者の手の中に身体を預け、その手が自分の背で組み合わされるまで待った。ジェイクは、このような場面の夢を見たことがあったが、これまでそれを言う勇気は決してなかった。

ローランドとジェイクもついに再会。ローランドは心配してなかったけど、ジェイクも無事でよかった。何よりも見逃せないのが、ジェイクがローランドを父と呼んだこと。他人のことなのに自分まで嬉しくなってしまってもうやばい。それからぎゅっとハグするとかもう反則でしょこれ…。俺どうしたらいいの…。
ジェイクもずっと心に秘めていた夢が実現してよかった。子どもなんだから遠慮しないで甘えていいんだぜ…。

再会した彼らは一緒に睡眠と食事を取っていざ<雷鳴>へ出発。

「わたし、重い?」スザンナがエディに陽気な口ぶりでたずねた。

(中略)

「世界の果てにまでだって運んでやるさ」エディは感傷的な口調で言い、スザンナの鼻の頭にキスをした。「五キロほど太ったりしなきゃな。そんなことになったら、おまえと別れて、もっとやせてる女を探さなきゃならないかもよ」
スザンナはエディを小突いてから──軽くではなかった──ローランドのほうを向いた。


列車事故で両足とも膝から下がないスザンナは移動するのに誰かの力を借りなければいけない。車椅子がないので夫であるエディがおんぶする。「重い?」と聞きつつエディと触れ合える嬉しさが隠し切れないところがとてもいい。5キロ太ったら別れるかもと言うエディに割とガチで小突くところもいい。スザンナもガンスリンガーだから小突くだけでも割と痛そう。

そして<雷鳴>の駅でジェイクが突然笑いだす。

 ジェイクが突然、笑いだした。
「なに?」スザンナがたずねた。「いったいどうしたの?」
「なんでもない」ジェイクは言った。「ただ……」少年の笑い声がまた響き渡り、この陰鬱な部屋にすばらしく若々しい雰囲気を生み出した。「まるでみんな、ペン・ステーションに並んでいる通勤客みたいなんだもん。電話ボックスの前に並んで、家とかオフィスに電話しようとしてるみたい」
 エディとスザンナもちょっと考えてから、爆笑した。ということは、ジェイクのものの見方は正しいらしい、とローランドは思った。これまで長いあいだ旅をともにしてきたので、ローランドは驚かなかった。うれしかったのは、少年の笑い声が聞けたことだ。ジェイクが神父の死を悼んで泣くのはあたりまえだ、友人だったのだから。だが、ジェイクがまだ笑うことができるというのは、よいことだ。本当に、とてもよいことだ。

ベニーも死んだ。キャラハン神父も死んだ。年齢の割に結構大変な経験をしてきたもののジェイクはまだまだ少年。こういった悲しい出来事を経験してもジェイクがまだ笑えるというのは本当によかった。ジェイクは強い子だ…。ビスコあげたくなる。

カ・テットはついに塔を攻撃している拠点を発見し、その近くの洞窟に潜む。

「我らは〈カ・テット〉だ」ローランドは言った。「我らは一心同体。我らは生命と探索の旅を分かち合ってきたように、水を分かち合った。一人が倒れても、その一人は失われるわけではない。我らはひとつであり、忘れられることはないからだ。死においても」

来たる決戦を前に、水を分かち合う儀式を終えた4人と一匹。
指導者であるローランドはこの戦いで誰かが死ぬというのを予期していた。カ・テットの戦いは見たいけど誰かが死ぬのは嫌だ。そして戦いが始まる。

すべてがこちらの思惑どおりに進めば(そんなことはめったにありえない)、この場所で奇襲を始める計画だった。かれらは前かがみの状態で道路を渡った。オイはまだジェイクの後ろからついてきていた。いままでのところ、すべては夢のようにうまく事が運んでいた。実は、そのことがガンスリンガーを不安にさせた。

(中略)

「ハイル、ガンスリンガーたち、皆殺しにしろ!」ローランドが叫んだ。

(中略)

「ギリアドのために、ニューヨークのために、〈ビーム〉のために、おまえたちの父親たちのために!聞け、聞くのだ!ひとりも生かしておくな!皆殺しにしろ!」
 かくて、かれらはそうした。

奇襲作戦は今のところ順調。だからこそ不安になる。
しかし一度走り出したら止まることはできない。殺せ、ガンスリンガーたち、殺すのだ!このまま勝てば誰も死ぬことはない。それでいいじゃないか。きっとうまくいく。

そして無事戦いに勝利した彼ら。

ガンスリンガーは、片腕をエディの腰に、もう一方をジェイクのそれにまわした。スザンナは膝立ちになって(ビリー・バンブラーは、不意に伸びた膝にしがみつこうと、おどけた恰好でひっかいた)両腕をローランドの首に巻きつけ、日焼けした額に愛情のこもったキスをした。ジェイクとエディが声を上げて笑った。ローランドも微笑んだ。うれしい驚きに見舞われたときに人が漏らす笑みを。
 あなたたちにかれらのことをよく見てもらいたい。しっかりと。見てくれるか?かれらは、スージーのクルージング三輪車のまわりに集まり、勝利の余韻のなかで抱きしめあっている。かれらのその様子を見てもらいたい。それというのも、かれらが重大な戦いに勝ったからではない──かれらのだれもがそうではないことはよく承知している。その場面がかれら〈カ・テット〉の最後の姿だからである。かれら四人と一匹の仲間の物語は、ここで終わる。

奇襲作戦が成功し、戦いで誰も死ななかったぞやったと思ったのも束の間、どん底に叩き落される。やめろ、やめてくれ…。
このまま全員で塔を目指して旅すればいいじゃないか。誰かが死ぬ必要なんてないじゃないか。誰か助けて。

エディは顔をしかめながら立ち上がった。
 そのとき、エディは目の端で何かが動くのを捉えた。もう一人──このショーのボスだ──が片肘をついて上体を起こそうとしているのが見えた。その男の銃、一度、レイプ犯を処刑したことのあるピースメーカー四十口径がかまえられていた。エディの反射神経は素早かった。だが、それを発揮する暇はなかった。ピースメーカーが一度唸り、銃口から火が放たれた。エディ・ディーンの額から血が飛び散った。後頭部を弾丸が貫通した。その勢いで髪が一束吹き上がった。エディは右目の上に現れた穴に片手をピシャリと当てた。まるで、何かとても重要なことを少しあとになってから思い出したように。

(中略)

「エディ!」スザンナは叫んだ。そして両手で身体を押し出しながら、エディのところへ這いだした。そんなにひどい怪我じゃないわ。スザンナは自分に言い聞かせた。たいしたことない、ああ神様、わたしの男がひどい怪我をするなんてことはないって──
 だがスザンナは、エディの押さえている手のひらから血が垂れ、通りにダラダラと流れだしているのを見て、とんでもない大怪我なのだと悟った。

「スーズ?」エディはきいた。その声は完璧にはっきりしていた。「スーズ、どこにいる?見えねえよ」
 エディは一歩、二歩、三歩と進み……そして、泥道に顔を突っ込んだ。ジャフォーズじいさんがエディを一目見たときから、こうなるとわかっていたように。それというのも、若者はガンスリンガーであり、真実のところ、ゆえにその最期はこんなものでしかあり得ないのだ。

おい、嘘だろ…。嘘だと言ってくれ…。なんでエディが死ななくちゃならない?エディが何をした?塔を守るために旅してただけじゃないか。殺しもやったけど全部悪いやつらだ。なんで、なんでここで…。なんで、エディが…。という思いが本当にぐるぐるぐるぐるして悲しみがこみ上げる。
銃の道で生きれば、銃で死ぬのは宿命なのね…。ふざけんな!

 スザンナは、まったくうつろとは言えない表情でテッドを見た。そのまなざしに宿った理解(そして嘆願)の表情がジェイクの心を氷のかけらのように突き刺した。
「かれ、死ななきゃいけないの?」スザンナはそうたずねた。

凶弾に倒れたものの、辛うじて一命をとりとめたエディだったが、近いうち命を落とすのは確実。でもこんなにも悲しいのなら、即死の方がマシだったかもしれない。スザンナの気持ちが痛いほどよくわかる。胸が張り裂けそうだった。そしてエディの最期の時が近づく。

「二度目のチャンスをくれてありがとう」エディは言った。「ありがとう……とうさん」
 それが最期だった。エディの目は、まだローランドを見つめていた。そして、まだ意識があった。だが、臨終の言葉、〝とうさん〟という言葉を言うために使った息を補う息はなかった。エディのむき出しの腕の毛にランプの明かりがきらりと光り、金色に輝いた。雷がゴロゴロと鳴った。そしてエディの目は閉じられ、頭がガクリと片側に傾いた。かれの仕事は終わった。道をはずれて空き地に入った。ローランドたちは、エディを取り囲むように輪になってすわっていたが、もはや〈カ・テット〉ではなかった。

エディは最後の力を振り絞り、スザンナ、ジェイク、ローランドの順にメッセージを残す。エディが最後の最後でローランドのことを父を呼べてよかった。それでも悲しみが消えるわけではない。テットが崩壊するのを見るのは本当に辛い。一番最初に仲間になったエディはローランドとの付き合いもテットの中で一番長い。それゆえにいなくなった時の悲しみは計り知れない。

エディの弔いはスザンナに任せ、ローランドとジェイクはスティーヴン・キングを助けに向かう。彼らは仲間のテレポート能力を借りて、彼が交通事故に合うちょっと前の時間にやってきた。しかし事故現場からは遠い。車でないと間に合わない。二人はピックアップトラックの運転を偶然居合わせたアイリーンという女性に頼む。さあ発進というころでマニュアル車にありがちながくんという振動が彼らを襲う。そして…。

オイはジェイクの膝でバランスを取ろうとして、エディから学んだ言葉とともにターキーを吐き出した。
 アイリーンは大きく開いた 驚愕 のまなこでバンブラーを見つめた。
 「この生き物、いま、ファックって言った?

オイは人語を理解し少しは話せる珍しいバンブラー。エディはいなくなったけど、彼らの記憶から消えるわけじゃない。しかしこんな形でエディを思い出させてくれるとは…。らしいっちゃらしいけど。さっきまでの悲しみを返せ!

「ジェイク、よせ!」ふたたびローランドは吠えたが、すでに遅かった。わが息子と思っていた少年は、青い車の下に消えていった。ガンスリンガーは、小さな片手が上がっているのを見た──決して忘れることはあるまい──やがてそれも消えていった。

何とか事故の直前に現場へたどり着いた3人。まずはローランドが走っている車から飛び出す。しかしローランドは持病のドライ・ツイストによって着地に失敗し、キング絶対絶命!そこにジェイクが車から飛び出しキングをかばう。ジェイクは車と車に挟まれて…。嘘でしょ…。

ローランドは、少年の胸におぞましい穴が開いているのを見た。さらに大量の血が口からあふれて出た。そして、また話そうとして、かわりに咳き込みだした。ローランドは、まるで胸がタオルのように絞られるのを感じた。このようなものを目にしながら、どうしておれの心臓は脈を打ちつづけていられるのだろうとさえ思った。

ぱっと見たところ目立った外傷はないようす。よし!ジェイクは助かると思ったところにこれ。きつい。エディに続いてジェイクまで連れていくのか。ジェイクは自分より先にキングの安否確認をするように頼む。ローランドは作家などどうでもいいと思っている。ジェイクを失わずにすむのなら。しかし、ジェイクは自分の役割を分かっており、作家を助けるために犠牲になったのだ。そしてローランドに待ち受けるのは…。

ガンスリンガーがもっとも恐れていたことは、すでに起こっていた。忌まわしい二人の男と話をつけているあいだに、だれよりも自分が愛した少年は──これまでの生涯において、だれよりも、スーザン・デルガドよりも──ふたたび自分の元から離れていった。ジェイクは死んだ。

死ぬ瞬間を見る機会すら与えないというのか。なんと残酷な作者か!目の前で息子が死にかけていて、先にやるべきことがある。そしてそれを終えた後に待っているのが死んだ息子。ひどい。

ローランドはジェイクを埋葬するために墓を掘り、ジェイクを青い防水シートで顔だけ残して全身を包む。ガンスリンガーは息子を墓穴に横たえ祈りの言葉を唱える。

 ローランドは目を開けて、言った。
 「さらば、ジェイク、愛している、いとしい息子よ
 やがてローランドは、青いフードを少年の顔の上に閉じ、降り注がれることになる土から守った。

泣いた。本当に。今まで小説を読んできて泣いたことは一度もなかったけど、あまりの悲しさで涙が出た。喪失感が半端じゃない。
ジェイクとローランドが心を通わせるところをずっと見てきたからこの別れは本当に辛かった。

犠牲が大きかったからこそなおさら塔を目指さなければならない。彼はスザンナ、オイとともに雪原を通り、シカを仕留めた。

 食事を終えると、ローランドは脂ぎった指をシャツでぬぐって言った。
「うまかった」
「その点に関しては、あなた、まちがっていないわ」
「さて、脳みそを取り出そう。それから寝る」
「一頭ずつ?」スザンナはたずねた。
「ああ──おれの知るかぎり、脳はお客様一人につきひとつずつだ
 一瞬、スザンナはエディの物言いを聞いて驚き
(お客様一人につきひとつずつ)
 ローランドがジョークを言ったことに気づかなかった。ぱっとしないのは確かだが、本当のジョークだ。だから、彼女は礼儀として笑った。

ローランドもジョーク言えるようになったじゃないか。エディも喜ぶだろう。でも礼儀として笑われてるのはちょっと悲しい。こういうふとしたシーンでいなくなったキャラクターのことを思い出せるのはうれしい。

彼らは雪原を抜け、塔へ続く道へ入る。
スザンナは自分が塔にたどり着くことはないということを確信しており、旅の途中で出会ったパトリックの助けを得て、異世界のドアをくぐりアメリカへ戻ることを決意する。しかし、ローランドは寂しさを隠せない。

彼女は、いまだかつて、それほどの悲しみと孤独の表情を人間の顔に見たことがないと思った。「(中略) 汝、最後のほんの少しの時間を我とともに過ごしてもらえまいか?そうしてもらえれば、うれしい

(中略)

スザンナ、やめておけ。頼む、行くな。土下座して頼もう、それでおまえの気が変わるなら」そして、なんとおぞましいことか、ローランドは言ったとおりにしだした。

ついにカ・テットのメンバーはスザンナとオイだけになってしまった。そしてスザンナもそこから去ろうとしている。王の血筋であるローランドが土下座までするとは本当に一人になるのが辛いということがひしひしと伝わってくる。

しかし、スザンナはローランドの制止を振り切ってドアをくぐり抜けていった。一度も振り返らずに。ローランドは悲嘆にくれる。

 ギリアドのローランドはドアの前にすわりこんでいた。もはやそのドアは、古くさくて取るにたりないものに見えた。それは二度と開くことはないだろう。ローランドは両手で顔を覆った。かれらを愛することがなければ、このようにひとりぼっちの寂しさを味わうことはけっしてなかっただろう。そんな考えが念頭をよぎった。かれに後悔の念は数多くあれど、だれかに心をふたたび開くということは、そのなかに入っていなかった。この期におよんでも。

カ・テットのメンバーを本当に愛していたがゆえに失った時の悲しみも大きい。彼らと出会う前のローランドは割と感情に振り回されることはなく、どちらかといえば冷酷な人物だった。しかし仲間と出会って彼は変わった。仲間を失う辛さを再び思い出した。それでも彼はそのことを後悔はしていない。それは本当によいことだ。

残ったメンバーはローランド、パトリック、オイのみ。それでも彼らは進み続ける。ガンスリンガーは疲労困憊、そこを狙って夜にモルドレッドが襲ってくる確信があった。彼は不安で仕方なかったがパトリックを見張りに立て、仮眠を取る。
だが、結局、パトリックも寝入ってしまう。そこにモルドレッドが襲ってきた。
オイはそれに気付き、時間を稼ぎつつローランドを起こした。しかし…。


モルドレッドはオイを放り投げた。

(中略)

オイは火明かりに射貫かれた闇を弧を描いて横切り、ガンスリンガー自身が焚き火用に何本か折ったハコヤナギの、残っている枝の一本に突き刺さった。オイは聞くにたえない苦痛の悲鳴──死の叫び声──をあげると、枝に垂れ下がり、吊るされた状態でぐったりとなった。

(中略)

自分の〈カ・テット〉の最後の一匹が枝に串刺し状態になってぶら下がっていた……が、まだ息があった。(中略)
「オイ」ローランドは片手を伸ばしながら言った。(中略)「オイ、我らみな、おまえに感謝しているぞ、おれも感謝している、オイ
 ビリー・バンブラーは嚙みつかなかったが、ひと言だけ口にした。
「オーラン」
 そして吐息をつき、ガンスリンガーの手を一度だけなめると、頭を垂れ、オイは死んだ。

モルドレッドとオイの体格差はあまりにも大きく、勝てるはずがなかった。それを知りながらもモルドレッドに向かっていったオイを誇りに思う。エディはモルドレッドの襲撃を予期しており、ジェイクとオイでローランドを守るようジェイクに伝えた。そしてジェイクが息を引き取る前にそれをオイに伝えた。
死してなお仲間を守るカ・テットの絆に心を打たれる。
スザンナが去った後、オイは自分が死ぬのを承知で、ローランドについてきたことを思うと泣きそうになる。

翌日、彼はオイを膝掛けのように膝の上に乗せ、オイのことを考える。

 おれは自分の家族だけを殺すのだ、とローランドは思いながら、死んだビリー・バンブラーを撫でた。
 前日、オイにはひどいことを言ってしまった。それを思い出すと、なによりもつらい。彼女について行きたかったのなら、そのチャンスがあったときにそうすればよかったではないか!
 オイが留まったのは、おれのために自分が必要となると知っていたからではないのか?危機が嬉々として猛進してくるとき(言うまでもなく、これはエディの言いまわしだ)、パトリックがしくじることがわかっていたのでは?
 なぜ、そのような悲しげな目をおれに向けるのだ?
 それというのも、オイは自分の最期の日を知っており、その死はつらいものになるとわかっていたからでは?
「おまえにはいずれのこともわかっていたのだな」ローランドは目を閉じた。そうすると、オイの毛並みの感触がよりよくわかった。「実に申し訳なかった──前言を取り消すことができるなら、このまっとうな左手の指を失ってもいい。ほんとうだ、五本の指、すべてを失ってもいい
 だが、ここでは〈根本原理世界〉と同じように、時は一方通行だ。すんだことはすんだこと。取り返しはつかない。

前日にオイに八つ当たりのようにひどいことを言ってしまったローランド。それでもオイは命を投げ打ってローランドを救った。彼は前言を撤回する機会も与えられず、自分の言動を振り返って辛い思いをする。左手の指を全て失ってもいいとさえ思うぐらい申し訳ないと思っているのがずしんとくる。

それでも彼は進み続ける。彼はパトリックとも別れ、一人で塔を目指す。

旅は長くて、代価は高くついた……しかし、たやすく手に入るものに偉大なものなどない。

(中略)

何キロもの先の地平線上には、薔薇と同じく現実のものとして、〈暗黒の塔〉の頂部が見えていた。千回もの夢で見たそれを、かれはいま、おのれ自身の目で見ていた。

(中略)

あそこにあるのだ、とローランドは思った。あそこが我が運命、我が人生の道の終わりだ。

ついに、ついに塔を目にするローランド。ここまで長い旅だった。失ったものも数知れない。しかし、これでようやく旅が終わる。ローランドに心のやすらぎを。

彼は塔に入る前に、今はもういない仲間の名を唱える。彼らなくしてローランドは塔にたどり着けなかっただろう。

いざ、これにあるローランド、〈暗黒の塔〉へ至る!我は常におのれに忠実で、いまだに父の銃を持つ。その手がおまえを開かん!」

(中略)

「我はギリアドの男、スティーヴン・デスチェインになりかわってそこへ行く!
 我はギリアドの女、ゲイブリエル・デスチェインになりかわってそこへ行く!
 我はギリアドの男、コートランド・アンドラスになりかわってそこへ行く!
 我はギリアドの男、カスバート・オールグッドになりかわってそこへ行く!
 我はギリアドの男、アラン・ジョンズになりかわってそこへ行く!
 我はギリアドの男、ジェミー・ド・カリーになりかわってそこへ行く!
 我はギリアドの男、賢人ヴァネイになりかわってそこへ行く!
 我はギリアドの男、料理人ハックスになりかわってそこへ行く!
 我はギリアドの空の雄、タカのデイヴィッドになりかわってそこへ行く!
 我はメジスの女、スーザン・デルガドになりかわってそこへ行く!
 我はメジスの男、シーミー・ルイスになりかわってそこへ行く!
 我はジェルサレムズ・ロットと放浪の男、キャラハン神父になりかわってそこへ行く!
 我はアメリカの男、テッド・ブローティガンになりかわってそこへ行く!
 我はアメリカの男、ディンキー・アーンショーになりかわってそこへ行く!
 我は〈河の交差点〉の女、アーント・タリサになりかわってそこへ行く、そして彼女の十字架を置く!
 我はメインの男、スティーヴン・キングになりかわってそこへ行く!
 我は〈中間世界〉の雄、オイになりかわってそこへ行く!
 我はニューヨークの男、エディ・ディーンになりかわってそこへ行く!
 我はニューヨークの女、スザンナ・ディーンになりかわってそこへ行く!
 我はニューヨークの男、ジェイク・チェンバーズ、我が真実の息子と呼ぶ者になりかわってそこへ行く!
 ギリアドのローランドである我は、おのれ自身として行く。おまえは我に向かって開くのだ」

本当にここまで長かった。父、母、友人、師匠、飼っていた鷹、初恋の人、異国の地で初めてできた友人、旅の途中で出会った人たち、そしてもちろんカ・テットのみんな。多くの人に支えられてローランドはここまでやってきた。本当にお疲れさま。
ローランドの塔へ至る旅はここで終わる。素晴らしい物語だった。

一方ドアを通ってNYに行ったスザンナはエディと再会する。
当たり前のことながら彼は彼女のことを覚えていない。違う世界のエディだから。しかし彼は夢で何度もスザンナのことを見ており、彼女と恋に落ちるだろうという確信がある。
エディから他人のような顔をされたらどうしようと思っていたスザンナはほっと安心するのも束の間、エディが兄弟を紹介するという。
もしかして、エディをジャンキーの道に引きずり込んだヘンリーのことだろうか…?

「(前略)おれはホワイト・プレインズから来たんだ!兄弟と一緒に列車に乗って来た。むこうにいるよ。あいつは北極グマをじっくり見たかったんだ」
 兄弟。ヘンリーだ。偉大なる賢者にしてまぎれもない麻薬中毒者。スザンナの心は沈んだ。
「きみに紹介するよ」
「いいえ、ほんとにわたし──」
ヘイ、もしおれたちが友だちになるなら、きみはおれの弟とも友だちにならなきゃ。おれたち、仲がいいんだ。ジェイク!ヘイ、ジェイク!

ジェイク!?ジェイクじゃないか!!エディとジェイクが兄弟になっている世界もあったのか。これはカ・テットとして旅してきたからなのか。ともかく3人一緒になれてよかった。本当によかった!

最後に

素晴らしい物語だった。旅が終わって一安心しているはずなのに、また一緒に旅に出たいと思っている自分がいる。また時間を置いて再読してみようかな。一回目では気づかなかったところが見えるかもしれない。

自分の生涯ベスト小説ランキングに食い込むレベルで面白かった!

長き昼と楽しき夜を。















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