1人1台もっているあれ
「ティコも使っていいよ。共用が嫌なら、お下がりでよければあげる」
夕食後、自室にこもってnoteの更新作業をしていると、夫から不意にそんな言葉を投げかけられました。
「こないだ、Amazonのタイムセールで安くなっていて、さらにクーポンもあったから新しく買ったんだよね!
もし、使いたかったらこれ、古いやつ。使っていいよ」
そう言いながら、ワクワクを隠しきれていない表情で両腕に抱えた緑色の箱を差し出してきました。
緑の箱……それは3Dプリンター。
……いや、どうしろと。
一般家庭に3Dプリンターがどれほど普及しているのかわかりませんが、現状では、めぐみ家には3Dプリンターが2台あることになります。
ないだろ。ふつう。1台ならまだしも、2台て。
紙に印刷するプリンターもないのに、なんで我が家は3Dプリンターを1人1台持ってるんだろう。
3Dプリンターを使うためには、専用ソフトで3Dモデルを描くことができなくてはなりません。
エクセルにさえ「いけすかない野郎だネェ」「なんで画面と印刷した紙の体裁が違うのさ。嘘つきは嫌いだよ」と文句を垂れながらポチポチしているわたしに、3Dモデルを扱えるわけがないと思うのです。
愛犬のフィギュアをつくろうとデータを作成し、いざプリントしてみたら、何か違う生き物が爆誕してしまうかもしれません。
それはそれで楽しいかもしれないけど。
もしも3Dプリンターを自由自在に使えたら、何を作ろうか。
2Dプリンター(という言い方があるのかは知りませんが)でいうところのインクは樹脂なので、印刷物の使用条件は限られています。
真っ先に、「オリジナルの図案でシーリングスタンプを作りたい」というのが浮かびましたが、耐熱性に難があるので却下。
万年筆……は、軸やキャップは作れても、ペン先の金属加工技術がないので難しいでしょう。
リコーダーなんかは面白いかもしれませんが、学校納入価格で1000円ほどで購入できます。3Dモデルを描くことを考えると、コスパがよくありません。
考えてみると、意外と作りたいものってない気がします。
わたしは「いらない」と夫に告げました。
その瞬間、夫は3Dプリンターを1人で2台もつおじさんになりました。
「うわー、液晶がカラーになっている!」
「樹脂を入れるところが金属だー!!」
「カッケェぇぇ」
夫の部屋から、新しいミニ四駆を手に入れた平成小学生男児のようなテンションのセリフが聞こえてきます。
独り言でかくね?
しばらくはしゃいだおじさんの声が聞こえていましたが、わたしが投稿を終えた頃、夫の部屋はしんと静まり返っていました。
かすかにポチ……カチ……カチャカチャ……パシッとマウスのクリック音とキーボードを打つ音が聞こえるのみです。
わたしは自分の部屋を出て夫の部屋を覗きました。
夫は大きなモニターに向かって座っています。
画面には、いつも夫が生成しているウミウシの3Dモデル。その背中に、小さな突起を生やす作業をしていました。
夫の横には、これから背中ぼつぼつのウミウシをプリントさせられるであろう黒い箱と、今まで数々のウミウシをプリントしてきた緑の箱が仲良く鎮座していました。
なぜ、ウミウシを量産しているのかは知りません。
参加しています。34日め。後半戦も張り切っていくよ−!!