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【ショートショート】あなたのキスは今宵の月のように冷たい

夜の闇が静かに街を包む中、私は一人で歩いていた。蒸し暑い夏の夜で、汗が背中にじっとりと張り付いている。そんな中、私は彼と待ち合わせていた。彼の名前は亮。私たちの関係はもう何年も続いているけれど、最近は何かが変わってしまったように感じていた。

公園のベンチに腰を下ろし、空を見上げる。月が冷たい光を放っている。夏の夜にしては珍しいほど涼しげで、どこか寂しげな月だ。しばらくすると、亮が現れた。彼の顔はいつも通りの無表情だった。

「待たせた?」彼は短く尋ねた。

「ううん、今来たところ。」私は微笑んで答えた。

私たちはしばらく無言で歩き始めた。足音だけが静かな夜に響く。何か話さなければと思いながらも、適当な話題が思い浮かばない。亮も口を開こうとしない。二人の間に見えない壁が立ちはだかっているかのようだった。

ふと、彼が立ち止まり、私を見つめた。月明かりが彼の顔を照らし、その目は冷たく光っていた。

「ねぇ、亮。最近、何かあったの?」私は尋ねた。

彼は少し驚いたように眉を上げたが、すぐに無表情に戻った。「別に、何もないよ。」

「でも、何か変だよ。昔のあなたじゃない。」

亮はため息をつき、月を見上げた。「お前も感じてるんだな。俺たちの間に何かがあるって。」

私はうなずいた。「うん。なんだか、あなたが遠く感じるの。」

彼は沈黙を守り続けた。私は彼の手を取ろうとしたが、彼は一歩後ろに下がった。

「ごめん、触れないでくれ。」彼の声は低く、冷たかった。

「どうして?」私は尋ねた。

亮は再びため息をつき、私をじっと見つめた。「俺たちの関係は、もう終わってるんだと思う。」

その言葉は私の胸に深く突き刺さった。「どうして、そんなこと言うの?」

「俺たち、もう愛し合ってないんだよ。少なくとも、俺はお前を愛してない。」

私は答えることができなかった。代わりに、涙が一筋、頬を伝った。

亮は無言で私の涙を見つめた。そして、静かに歩き出した。私はその後ろ姿を見送りながら、声をかけることも、追いかけることもできなかった。

公園のベンチに腰を下ろし、空を見上げる。月が冷たい光を放っている。まるで、今の私の心を映し出しているかのように。その冷たさは、亮のキスと同じだった。

時間がどれほど経ったのかわからない。私はただ、月を見つめ続けていた。彼との思い出が次々と浮かんでは消えていく。楽しかった日々、笑い合った瞬間、手をつないで歩いた夜。すべてが遠い昔のことのように感じられた。

やがて、私は立ち上がり、家路についた。亮と過ごした時間は、もう戻らない。でも、その記憶は私の中に残り続けるだろう。彼の冷たいキスとともに。今宵の月のように冷たいキス。それは私の心に深く刻まれ、忘れられない痛みとなった。

家に着くと、ベッドに倒れ込み、涙を流した。心の中の空虚さは、どれほど泣いても埋めることができなかった。亮のいない未来を想像するのは辛かったが、それでも前に進むしかないと自分に言い聞かせた。

次の日、私は新しい一日を迎える準備をした。亮のことを忘れることはできないだろうが、その冷たいキスを教訓に、もっと暖かい愛を求めて生きていく決意をした。月の光が冷たい夜がある一方で、温かい太陽が昇る朝も必ずやってくる。私はその朝を待ち望みながら、歩き出すことにした。

#あなたのキス

甘野充さんが素敵な企画をされていたので参加してみました。
ショートショートはなかなか書かないので緊張。

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