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お金に汚いデザイン入門書

良いデザインとは?だとかお客様の為に何ちゃらみたいなデザインのテクニックやら精神論に関して語られる事は多くても、デザインのビジネス面について教えてくれる人なかなか見つからないよね。そこで、デザインを探求し始めて早20年経つので、これまで得た知識と経験に基づいてデザインビジネスとはなんぞや?についてまとめてみようと思う。ようこそお金に汚いデザイナーの世界へ。

知識と経験のリソースとなる経歴は以下。

米国の美術大学卒業、米国デザインスタジオでのインターン・エントリーレベルデザイナー、米国でのフリーランス、米国でのストアマネージメントアシスタント兼ブランドデザイナー、国内デザイン事務所でのデザイナー・アートディレクター、ITベンチャーでのコンテンツ制作部マネージメント、外資系広告代理店デザイン部署の進行管理兼アカウント業務、デザイン系個人事業主。

一介のデザイナーとしてはそこそこ広域の経験をしてきているので、これからデザインビジネスという終わりなき旅に出ようとする学生さんや新人デザイナーのあなたには何某かのインサイトを提供できることを願いつつ、お金儲けの話をしていきましょうかねぇ。(プロには読む必要ないぐらい当たり前の事なんで、逆に当たり前すぎて誰も教えてくれないのか。)

さて、デザインに関わらず商売の基本は需要と供給。クライアントとデザイナー。デザインが必要な人とデザインを売りたい人が出会えばそこにビジネスが成立する。いたってシンプル。

どうやったらデザイナーになれるの?と聞かれれば、

誰かから「これ作れる?」って頼まれたら、即デザイナー爆誕でしょ。としか言えない訳で。

国家試験があるわけでもなし、コンピューターとソフトとネット環境さえあれば誰でもそれらしく作れる時代ですからねぇ。甘くないよ。コンビニの店員より自称デザイナー人口の方が多いんじゃないの?

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誰でもデザイナーにはなれる

誰でもいつでもどこでもデザイナーにはなれるんだけど、もしプロと素人に違いがあるとすればそのデザインがいくらの価値で売れるのか?という事になるのかな。価値を知っている事、価値を認めてもらえる事がプロの条件なんじゃないだろうか。自分が望んだ報酬が得られなければ商売とは言えないしね。クリエイティブ業界界隈では、お友達価格だとか未払いだとかって話題を未だに聞くけど、ビジネスの世界では普通なら起こらない事だからね。物を作るには原価があって、事業を続けていくには利益が出ないといけないからあらゆる経費やら税金やらを予め考慮して定価が決まる。それを安く売ったり、タダで渡したりするって事はとどのつまり売れ残りか不良品と同じ価値しかないと売り手も買い手も思ってる証拠。とてもプロが胸張って文句言える事ではない事態なので生き恥を晒すのはやめた方がいい。そこでプロを目指してデザイナーになろうと思った時にまず考えるべき事は、どこへ行けば定価で買ってくれるクライアントを見つけられるのか?という事。

クライアントはどこにいる?

例えば大学なり専門学校なりを卒業した後、デザイナーのキャリアパスってどういう選択肢があるのか?どうやって商売したらいいのか?みたいな事を体系化したいと思ったのがこのnoteの始まり。ほんとはデザインの需要って探し出したらきりがない、だって産業・商売とデザインビジネスって一体だから。お店を開けばチラシやショップカード、それに載せるロゴなんかもデザインしないといけないし、商品を売ろうと思えばパッケージやホームページ、本を出版するなら表紙や装丁、Youtuberだってサムネやテロップ、ざっと見渡してもこの世にデザインが一切存在しない商売を探し出す方が困難。いざお金を稼ごうと思ったら素人だろうがセンスが無かろうが、必ずデザインについて考えないといけない局面にぶち当たる。ちょっと話は逸れるけどデザインするという言葉は日本語として使うには余りに曖昧で範囲が広いから、『考えた事を形にする』と翻訳した方がデザイナーとしては親切で誠実かもね。だから一重にデザイナーと言っても、プロダクトデザイナー、グラフィックデザイナー、ウェブデザイナー、ファッションデザイナー、インテリアデザイナーなど、星の数ほどのデザイナーという肩書きが存在するわけだ。僕の専門とするビジュアルコミュニケーション(視覚伝達)の分野でも、コーポレートデザイン、広告デザイン、エディトリアルデザイン、ブロードキャスティングデザインなど大学の講義では専攻が細分化されてるし、それぞれ必要とされるスキルも異なり知識も個々に必要となってくる。だから目先の金欲しさに何でもデザインできますよって言うようなデザイナーや会社が僕は嫌いだ。ラーメン、パン、懐石料理、スイーツ何でも出せますって言う料理人の店ちっとも信用できないでしょ?学問としてのデザインに触れた経験があると思えないし、それぞれの分野を突き詰めてる人達への敬意を感じないからだ。とても恥ずかしくて同業者と思われたくない。デザインは沼。一生かかっても一つの分野を極める事はできないだろう。

さて、デザイナーがクライアントを見つける方法、つまり卒業した後どうする?を考えた時にインターネット、SNSの与えた影響の大きさを無視する事は出来ないよね。僕の中では2011年以前と以降では全くデザインビジネスに対する見方が全然違ってきた。Pre-SNS時代とPost-SNS時代とでも言うのか、その境目が2011年の東日本大震災辺りになると思う。コミュニケーションデザインの分野に限り言及するとPre-SNS時代(従来)のデザインキャリアと言うのはざっくり5種類のクライアント獲得方法で分けられていた。

①広告代理店に就職してクライアントの為にデザインする。

②デザイン事務所に就職してクライアントの為にデザインする。

③デザイン事務所に就職して広告代理店の為にデザインする。

④クライアントに就職してインハウスでデザインする。

⑤個人事業主としてクライアントの為にデザインする。

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従来のデザイナー、特に経験や実績のほとんど無い新卒デザイナーはこれまでほぼ就職しか選択肢を持っていなかったように思う。

①広告代理店に就職してクライアントの為にデザインする。

電通や博報堂に代表される大手広告代理店の他、広告に関することを一括して代行する会社へ就職する方法。広告をどの媒体へ出すとかPRイベントの企画をしたりする事を主軸としてそれに関するデザインを一括してクライアントから請け負う事のできる会社。企画営業職の社員がクリエイティブ職の社員より多ければ大概その会社は広告代理店。

②デザイン事務所に就職してクライアントの為にデザインする。

デザインを主軸として成り立つ会社で、主に企業のCI・ブランディングや商品開発、雑誌のデザインなど会社によって得意とする分野に特化している場合が多い。ここでは企業と直接取引(直クライアント)を行う会社を指す。わかりやすく言ってしまうとCM、PRをやりたいなら広告代理店、ブランディングならデザイン事務所と認識してもらうのがわかりやすい。

③デザイン事務所に就職して広告代理店の為にデザインする。

デザイン事務所の経営というのはとても難しい。一旦社員を抱えてしまうと毎月コンスタントに収入を得る事が必須となる。専門とする分野によっては違いがあるけど、会社を支えられるような予算規模のデザインプロジェクトは受注から納品まで3ヶ月以上かかる事はザラであり、報酬の支払いとなると納品の翌月末に入金されれば早い方である。上手く新規プロジェクトの依頼が入り続ける保証もどこにも無い。そこで多くのデザイン事務所は直クライアントの他に大手広告代理店との付き合いを重視する。定期的にデザインの仕事を運んでくれる事を期待し、多少無茶な予算やスケジュールでも引き受ける傾向にある。背に腹は変えられないという事だ。

④クライアントに就職してインハウスでデザインする。

直接クライアントとなる企業内のデザイナーになるタイプ。ある特定の企業、商品の為にデザインする場合はこれ。実のところデザイナーのキャリアスタートとしては一般企業内に就職して、企業組織の仕組みを理解できるこのタイプが一番将来の為になると思う。企業内ではどのような会議が何回開かれるだとか、広報の現場担当者の上には何人の上司がいるとか想像できないのはデザイナーとして痛い。クライアントの現場担当者が提案をどれだけ絶賛しようと、その上の役員が気に入らなければ全て無になり、修正に次ぐ修正の嵐で辛うじて形にするなんて事は日常茶飯事だ。デザインする以前に誰が決定権を持つキーパーソンなのかを探り出すのも優れたデザイナーの打ち合わせ術として必要になる。そう言った社内政治を理解する為にもまずは企業で働くという選択肢は非常に有効になってくる。

⑤個人事業主としてクライアントの為にデザインする。

他の4タイプの就職型キャリア以外をここでは全て独立、起業型と考える。自分で直接クライアントにアプローチする営業能力が必要とされる。フリーペーパーやグッズを作って販売する(自分をクライアント化する)方法もこの独立、起業型の一種とも言える。このまとめの本質からは外れるが番外編として個人の場合、スキルと実績さえあれば大学や専門学校の講師になったり、雑誌などに記事を書いたりして小銭稼ぎをする手もあるが、実際デザインする訳でもないのでデザインビジネスとしては邪道と捉える事にしよう。

以上がPre-SNS時代における、定価でデザインを買ってくれるクライアントの見つけ方、デザイナーの生存戦略というわけだ。

そしてPost-SNS時代へ

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SNSが日常に組み込まれてからは、デザイナーのキャリアに対する選択肢が桁違いに増えた。従来の就職型キャリアを築きながらも、インターネットさえあれば、見込みのあるクライアントを探すことも、コンタクトを取ることもできる。これまでその様な個人的な営業活動は物理的な理由から独立してフリーで活動する以外に方法がなかったが、今は就職しながらフリーランスとしても働くことのできる環境が整備されている。クリエイティブ業界においてはもはや社員とフリーランスという垣根はなく、能動的にキャリアを築くか受動的に作業をこなすかという二者択一の時代になった。(でもアメリカでは2001年の段階で既にこの状態が当たり前だったな、優秀なデザイナーはプロジェクト毎に呼ばれていろんなデザイン会社を行き来してた。いずれ日本のデザイン業界も必ずそうなると予測し、そのような制作現場をリキッドコレクティブと名付けて早15年経つけど。)

そこで新デザインキャリアで求められる、デザイナーが能動的にクライアントを獲得する方法をまとめてみた。

就職
Pre-SNS時代と変わらないが、就職して会社が取ってきたクライアントへデザインを提供する事で、スキルと実績を構築しながら、クライアント側の担当者と面識を持ち人脈を作る事ができる。デザインを制作する過程では、外部の協力取引先のイラストレーター、カメラマン、コピーライター、デザイナーと知り合う機会が多々ある。この時に相性の良い相手とは親交が深まる事がよくあり、その人脈が後々デザイナーの財産にもなるので会社へ就職して予算の大きなプロジェクトに関わる事はかなり重要だ。社内での評判が良ければ、独立の際にも引き続き社員時代のプロジェクトへ外部デザイナーとしてアサインして貰える事もあるだろう。独立した場合に備えて保険を掛ける意味でも就職は重要だ。

知人紹介
クライアントを探す際もっとも初歩的で簡単な方法は、知り合いなど身近な人に聞いてみる事だ。同じ業界で働いているであろう大学や専門学校時代の友人や講師と情報交換する事で求人しているデザイン関連会社やクライアントを紹介してくれるかもしれない。前述した様に社員時代に付き合いのあった外部の協力取引先の知人が仕事を紹介してくれる事だってある。いつの時代も人脈は宝なのだ。

提案営業
自分を売り込むには、クライアントへ直接営業をかけるのが最短コース。しかも自分のデザインスタイルに合ったクライアントを探せばより受注確率は上がる。メーカー企業や広告代理店、IT企業、行政・自治体、出版社などデザインを常時必要としているクライアントは無限にある。最近興味深く思ったのはコミュニティ内で仕事をシェアしているオンラインサロン界隈。サロンの主催が会員に仕事を依頼し、その成果をSNS上で会員同士褒め合う事によりサロン主催のネームバリューがあたかも会員の作品の質が高いかの様に部外者に印象付けられるという効果を出している。サロンに関わらずある閉鎖されたコミュニティの会員になる事で何某かの仕事を開拓できるかも知れないよ。地方創生ブランディングなんかも閉鎖されたコミュニティと言えるのではないだろうか。

人材派遣
フリーランスエージェントに登録する事で広告代理店や制作会社など欠員の出たポジションへ出向する事ができる。最近では働き方に合わせ短時間、短期間を選ぶ事も可能になってきた。

求人仲介・マッチングサービス
インターネットを見れば、デザインを必要としているクライアントがクラウドソーシングプラットフォームに集まっているし、デザイナーの求人情報には社員を募集している会社が無いと言うことはあり得ない。労働条件に拘りが無いのであれば、仕事は常にある。問題は報酬や労働時間が自分に価値のある物かどうかだ。仕事のスキルを切り売りするシェアサービスなんかもこれに含まれる。

受賞歴
デザイナーがクライアントにアプローチする際に最も武器になるのは、第三者から実績を高く評価された経歴を持つことだ。名の知れたデザイン賞を受賞できれば申し分ないが、意外と地元の市民だけが知る様な公募など、聞いた事もない賞でもオンラインのプロフィール上では機能している様だ。テレビや雑誌などメディアに露出する機会も得られるかも知れないので、デザイナーにとってこれ以上効果的な広告は存在しない。当たり前の事だがクライアントがデザイナーを選ぶ上で一番参考にしているのは他薦であり、第三者からの評判の無いデザイナーがクライアントから声がかかる事は絶対に無い。

自己PR・SNS
新デザインキャリアで最も画期的なクライアント獲得方法はSNSでの繋がり、拡散だろう。デザイン経験など無くても拡散されている時点で優れた人材と見なされる。これも前述した他薦、評判の効果だと思っている。しかもオフラインのメディアが後追いして取り上げたりするので、デザインに関して素人のクライアントには権威あるデザイン賞の受賞者と同等のアピール力があるようだ。

自費物販
デザイナーにとっては人に見せられる実績が無いと始まらない。クライアントが見つからず何も作れないなら、自分で物を作って売れば良い。それがクライアントの目に止まる可能性もゼロではない。フリーペーパーや雑貨、アパレル、Fontなど昔から自分のデザインを自費で制作販売してきたデザイナーは多いし、クライアントからのデザイン的な口出しが入らない分デザイナー自身のセンスが前面に出た実験的な作品を世に送り出す事ができる。そういった作品は往往にしてデザイナー好みなので権威あるデザイン賞を受賞したり、メディアに取り上げられる確率がかなり高く、その後はクライアントの方から声がかかると言う好循環を生み出す可能性がある。逆に売れ残ったり評価されなければ客観的に自分のデザイン能力を見つめ直す事ができるので、全てのデザイナーは一度は自費物販をするべきなのだと思っている。デザイン特許やキャラクターのライセンシングも自費物販のカテゴリーと言えるだろう。

以上、表面的な部分のみまとめたが意外と全体像を網羅したなと自画自賛しながらも、これからデザインビジネスと言う底なし沼に果敢にもチャレンジしようとする若き同志達へ非力ながらも命綱を渡せたらと願う次第です。

長文お付き合い頂きありがとうございました。

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