『みいつけた!』と片岡知子さんについて(31日目)

一昨日にEテレの話しましたが今日はその中でも『みいつけた!』の音楽の話をします。

この番組がいかに素敵かは少し一昨日の記事にも書いたけども、何よりハマるきっかけになったのはエンディングで流れるうちの1曲、『トゲトゲ・シンデレラ』だった。

これはサボ子さんと、たまに出てくるライバル・さぼえちゃん(篠原ともえ)のデュエット曲。
シンデレラが何人もいて王子の取り合いをしている中カチあったライバルふたりが、ドタバタ競争してるうちに結局魔法が解けてしまい、でも最終的に魔法なしでそれぞれ王子を振り向かせるよう奮闘する、という内容なのだけど、これがおそろしく素晴らしいガールポップソングなんですよ……。

たった2分間の短い中にA→B→サビ→C→サビとあるのだが、ふたりのコミカルな歌唱の背後のコード進行が、よくよく耳を凝らすと目まぐるしく凝った動きをしているのに、スッと滑らかに耳に入ってくる。
後になってピアノでカバーしている動画を見てみたが、ポップな原曲と同じコードのはずなのにずいぶんしっとりした印象で驚いた。
素人の耳と言葉で語るのには正直限界があるのだけど、どうやらマイナーコードの使い方が「どマイナー」じゃない。
メジャーとマイナーの質感の中間あたりにある切ないエリアをずっと浮遊しているような感じ。
しかもバックのストリングやカッティング、その他装飾音がパートによってことごとく違うものが散りばめられていて、変な言い方だが小節ごとにオーダーメイドされているみたいだった。
控えめに言って衝撃。

なんじゃこりゃ、とおののいてクレジットを調べたら、片岡知子さんという方が作曲されていた。
見れば『みいつけた!』の作曲を、BGM的なところも含め全体的に担っているようだ。
1分にも満たないオープニング曲も、よくよく聴いてみるとよくぞここまで圧縮したと感動する変幻ぶりで、只者じゃないとさらにググると。

あの渋谷系の時代から00年あたりにかけてしばしば耳にしていたインスタントシトロンの主要メンバーであり、現在はマニュアル・オブ・エラーズに所属している方だったのだった。
そ、そりゃこんなクオリティの楽曲になるわけだ。
速攻でこの曲が収録されている、番組楽曲集『みいつけた!ポップコーン』を購入。
通して聴いたらこれがまた最高でしてね……。
自分はモダンチョキチョキズのような、
①カタログ的にいろんなジャンルの曲が並んでいる
②職人的クオリティの凝った作曲編曲
③どこか抜けたノベルティソング感がある
というタイプのアルバムが大好物なんですけど、このアルバムはまさにそのど真ん中で、正直聴いた年のベストアルバムだったかもしれない。

色んな人が作った色んな曲が入っているけど、やはりその中でも強烈な輝きを放っているのが片岡曲だった。
沼に住むカッパ椅子(?)のテーマソング『キューリーパーリー』はポップで踊れるシンセディスコだし、劇中アイドルグループのザ・ミクさんズ(全員椅子)の歌う『恋はリクライニング』はピッチピチのタイトなファンクだし。
広く深い音楽への造詣を、濃厚なまま子供番組ノベルティソングにしてしまうその手腕に惚れ惚れしてしまった。

そんな中、先日音楽とアニメに詳しい友人と飲んでいるときに、たまたま片岡知子さんの名前を出してみた。
ら、真っ先に勧められたのが『たまこまーけっと』だった。この作品の楽曲も片岡知子さんが主に手がけているそうなのだ。
取り急ぎオープニング曲を聴いてみて鼻血が出そうになったのは言うまでもない。
なるべく早くに見てみようと決意した。

というところでこの話を終わりにしたかった。

その矢先に飛び込んできたのが、京都アニメーションのあの事件だった。
言葉が見つからなかった。
今でも見つからない。
自分は京アニのアニメを大して見ていない。ハルヒくらいかもしれない。
でもあの放火で失われたものの大きさは、わかる。

自分にできることがあるとすれば、まず『たまこまーけっと』を見ることなんだと思う。
でもおれは、あんなクソみたいな事件をきっかけにこの作品を見たくなったんじゃない。
そのきっかけは片岡知子さんの曲だったんだ。
なんでかはわからないけどなんとなく、その事実は自分の中で大切に保存しておきたい。
『たまこ』がどんな作品なのか見てみないとわからないけど、どんなものだったとしても、それと自分を繋ぐものは悲惨な事件でなく素晴らしい楽曲なのだと示すことで、世界の悪意に抵抗したいのかもしれない。

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